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JR各社で来春廃止の「乗継割引」 もともとは何のために? そして消える理由は?

小林拓矢フリーライター
新幹線乗り継ぎ特急として乗継割引の適用を受けた新青森~函館間の特急「白鳥」(写真:イメージマート)

 新幹線と在来線特急を乗り継ぐ際に、在来線特急の料金が半額になる「乗継割引」という制度がある。この制度が、来春に廃止されることになった。

 なぜ、廃止になったのか? まずは各社の発表を見てみよう。

利用者の減少とチケットレスの進展

 JR東日本は、利用者が減少していることを理由に乗継割引を廃止する。新幹線ネットワークの拡大や、ネット販売の拡充による販売環境の変化を理由として挙げている。JR東日本は、新幹線や特急を中心にチケットレスでの利用を推進しており、いっぽうで新幹線ネットワークがミニ新幹線も含め各地に展開するようになり、乗り継いでいかなければならないところはJR発足後少なくなっている。実際、乗継割引対象の駅も、新青森や長岡・新潟・長野・直江津だけという状況だ。なお東海道新幹線と「踊り子」との乗継割引も対象になっている。(訂正:「踊り子」と東海道新幹線は乗継割引にならないとわかりました。この件お詫びして訂正します)。

 以前ならば福島や盛岡、越後湯沢などで在来線特急との乗り継ぎがさかんだったものの、現在では新幹線乗り継ぎをメインとする特急は「いなほ」「つがる」くらいしかない。「しらゆき」は地域内移動をメインとし、「しなの」はあくまで名古屋~長野間がメインの列車である。

新潟で上越新幹線と接続し山形県庄内地方と行き来する特急「いなほ」
新潟で上越新幹線と接続し山形県庄内地方と行き来する特急「いなほ」写真:イメージマート

 JR北海道では、利用状況や経営環境の変化を理由として乗継割引を廃止する。新青森や新函館北斗での乗り継ぎで割引となるものの、実際は新函館北斗で北海道新幹線と特急「北斗」の乗り継ぎが中心となっている。東京から新函館北斗を経て札幌に向かうのにはこの乗継割引が威力を発揮するが、東京から札幌まで新幹線と特急で向かう人は少ない。

 JR東海では、新幹線の「EXサービス」と合わせて在来線特急もネット予約で乗車できるようなサービスを提供するため、廃止する。JR東海の場合は、静岡での「ふじかわ」、名古屋での「ひだ」「南紀」「しなの」、米原での「しらさぎ」(これは場合によっては名古屋)が該当する。米原乗り換えの「しらさぎ」は、以前は対北陸の輸送に大きな役割を果たしてきたが、北陸新幹線金沢開業後は中京圏と北陸圏の行き来で利用する人がメインとなり、来春の敦賀開業で北陸と東京の行き来はほぼ北陸新幹線が担うことになる。

 JR西日本では、利用状況の変化やデジタル化の進展を理由にしている。しかし、すでに近畿圏の新幹線各駅や、金沢駅程度しか乗継割引の対象になっていない。

 岡山を中心とする四国や山陰への広大な乗り継ぎネットワークでの割引は、すでに2023年4月に廃止になっている。JR西日本はネット予約の拡充で対応している。

 なお、JR九州では2011年に乗継割引制度は廃止された。西九州新幹線では、乗り継ぐ特急と合わせて通算で特急料金を計算している。

 乗継割引制度の利用者が減少し、ネット予約も拡充した。その上、乗継割引制度が必要な列車網が新幹線の充実で必要がなくなるというものもある。

 では、そもそもなぜ乗継割引制度は必要だったのか?

乗り継ぐと複数枚の特急券を買わなくてはならない

 鉄道に乗る場合、乗車券はJRならば通しで買えるのに対し、特急券などは原則として1列車につき1枚買わなくてはならない。乗車券は距離により運賃が決まり、遠距離になるほど1キロ当たりの運賃が安くなる。特急券も距離により運賃が決まるのは同じだ。距離が短いと比較的高いことになる。

 となると、遠くに行く際に、新幹線と在来線を乗り継ぐと高くつく。

 そういった弊害をなるべく除去するために、乗継割引制度は生まれた。

 新幹線網の拡大により、乗継割引制度はさまざまなところで利用されるようになった。山陽新幹線が博多まで開通した際にはこの駅を中心に九州各地へ向かう列車の特急券が対象になった。東北新幹線の盛岡開業などはそのわかりやすい例である。

 乗継割引制度がもっとも機能したのはこのころである。盛岡から青森へ、秋田へ。福島から山形へ、新庄へ。新潟から酒田へ。既存の東海道・山陽新幹線と合わせると、新幹線と特急のネットワークが大発展していた時代だった。

 しかし、整備新幹線やミニ新幹線がじょじょに開業していくと、直通できることになり、この制度の存在意義は薄れていった。

 いっぽう、JRの事情も変わっていった。

増収のため会社ごとの特急料金に

 JR各社は、増収を考える必要が生まれた。以前からある東海道・山陽新幹線は通しで料金を計算しても、山陽新幹線と九州新幹線では、直通しても会社ごとに特急料金などを計算するようになった。博多が境界駅となる。また、東北新幹線と北海道新幹線を直通する場合でも同じである。新青森が境界駅だ。

 いったん打ち切ることで、増収がしやすくなる。ただし特急券は1枚となる。

 新幹線の延伸により長距離をスムーズに移動できるようになったが、遠くまでいくとお得になる、という構図ではなくなってしまった。

 乗客の負担を減らすために導入した乗継割引制度が新幹線の延伸で役割を終えるいっぽうで、料金計算の上ではお得感が薄れるような体系になってしまった。

 いっぽう、乗継割引は紙のきっぷのみ、「みどりの窓口」を減らし指定席券売機に移行、さらにはチケットレスを進める状況において、扱いの面倒なものになってしまった。その中で乗り継ぎの必要な列車の割引についてJRによっては独自に設定するようになった。

 また乗継割引の対象になる特急が走っているのは地方線区が多く、その線区の増収も必要な状況にある。

 鉄道網を便利にしよう、乗客に負担をかけないようにしようとして生まれた乗継割引制度が、鉄道会社が置かれた状況の変化により、2024年3月になくなってしまうことになった。

 乗客への負担増は最小限になるように配慮してほしいと願うばかりである。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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