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エフフォーリア電撃引退で思い出されるフジキセキ/種付料国内トップのエピファネイア初の後継種牡馬に転身

花岡貴子ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家
2021年皐月賞優勝時のエフフォーリアと生涯主戦の横山武史騎手(提供:JRA)

2番人気で出走したレースの2日後、電撃引退の発表

 14日、2021年の年度代表馬・エフフォーリアの引退が所有するキャロットクラブの公式サイトで会員向けに発表された。

■2021年皐月賞(GI) 優勝馬 エフフォーリア

 12日の京都記念ではレース中に急失速し、競走を中止。原因となった心房細動は不整脈の一種で一時的に心房が規則正しいリズムを失うことにより血液を体全体にうまく送り出せなくなったために体調に異常を示す状態をいう。健康な馬でも突然、レース中の激しい運動の途中で心房細動を起こすことがあるため、事前の予測は難しいとされている。一般的に心電図などの検査で異常がなければ、その後のレースも出走可能であった。実際、レース翌日の13日朝の心電図の数値では異常はみられなかったという。

■2023年京都記念(GII)

 しかし14日、社台スタリオンステーション(北海道安平町)での種牡馬入りが発表された。通算成績は11戦6勝。重賞4勝のうちGIは3勝。2021年の年度代表馬であり、今後もレースでの活躍の可能性は見込める中での決断だった。なお、生産界はまだ繁殖シーズンの途中なので2023年から種牡馬として稼働する可能性もある。

電撃引退・種牡馬入りといえばフジキセキ

 突然引退からの種牡馬入りといえば、フジキセキが思い出される。サンデーサイレンスの初年度産駒であり、”SS旋風”を巻き起こした馬だった。

■1994年 朝日杯3歳ステークス(GI) 優勝馬 フジキセキ

 1994年にデビューし3連勝、1995年3月5日に弥生賞を勝ち4戦4勝でクラシック三冠を意識させるほどの超有力候補だったが、3月24日に突如、引退・種牡馬入りが発表された。その日の朝は普段どおり調教をこなしたが、厩舎に戻ると脚に腫れがみられ、全治1年以上という重度の左前浅屈腱炎という診断だった。

 フジキセキ引退の決断はその日のうちに下され、発表された。その2日後の26日には栗東トレセンを出発し、北海道へ。繁殖シーズン途中からの繋養にもかかわらず初年度から118頭と交配したほど人気を集めたが、これも”早い決断”が功を奏したものだった。

2021年、GI3勝で文句なしのJRA年度代表馬に

 改めて、エフフォーリアの活躍を振り返ろう。

 デビューは2020年の札幌競馬。鞍上に若手の横山武史騎手を迎え、芝2000m戦を好位から直線で抜けだす競馬で1番人気にこたえた。共同通信杯まで3戦3勝でむかえた皐月賞。戦前はその豪快なフットワークから小回りで少々トリッキーな中山芝2000mや重めの馬場への適性が不安視されたが、難なくクリア。馬は見事な横綱相撲を見せ、導いた鞍上の横山武史騎手は弱冠22歳ながら冷静な手綱さばきでファンを魅了し、若き人馬に大いなる希望を感じさせた。

 続く日本ダービーではハナ差という僅差でシャフリヤールの2着に敗れるが、秋は古馬相手に天皇賞(秋)、有馬記念を制覇。

■2021年 天皇賞(秋) 優勝馬 エフフォーリア

 天皇賞(秋)では2020年のクラシック三冠馬のコントレイル、GI5勝(このレース後に1勝し、通算6勝)のグランアレグリアを、有馬記念では2020年から2021年にかけてグランプリ3連覇中で4連覇を狙って参戦したクロノジェネシス、この年に菊花賞を制し、翌2022年の天皇賞(春)と宝塚記念を勝つことになるタイトルホルダー、と錚々たるメンバーに勝っており、年明けのJRA賞の記者投票では9割以上の票を集めて文句なしの2021年・年度代表馬に輝いた。

■2021年 有馬記念(GI) 優勝馬 エフフォーリア

 しかし、明けて4歳。3戦するが最高着順は有馬記念の5着とふるわなかった。5歳になり再起を目指したが、京都記念ではきっかけを掴むどころか競走中止とさらに心配を重ねる結果になってしまった。

第二の馬生、種牡馬として父エピファネイアに続けるか

 エフフォーリアは種牡馬としてもスタート時は人気を集めるだろう。いま、父のエピファネイアの種付料は国内ナンバーワンの1800万円。その第一号の後継種牡馬だからだ。

 しかし、種牡馬の価値は産駒の出来で決まる。父・エピファネイアのスタート時の種付料が250万円(条件/受胎確認後)だったが、2022年度には1800万円(条件/受胎確認後)に高騰。2023年もその価格を維持しているが、その背景には初年度から牝馬三冠のデアリングタクトを送り出し、2年目もエフフォーリアが活躍したことが大きい。

 種付料は産駒が成績を上げれば上げるほど、倍々ゲームで高くなっていく。そして、人気のある種牡馬は年間200頭を超える牝馬と交配する。

 エフフォーリアの第二の馬生はこれからだ。あえてこのタイミングで種牡馬への転身を決めた決断がエフフォーリアにとって良きものになるよう祈りたい。

■2014年 ジャパンカップ(GI) 優勝馬 エピファネイア

ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家

競馬の主役は競走馬ですが、彼らは言葉を話せない。だからこそ、競走馬の知られぬ努力、ふと見せる優しさ、そして並外れた心身の強靭さなどの素晴らしさを伝えてたいです。ディープインパクト、ブエナビスタ、アグネスタキオン等数々の名馬に密着。栗東・美浦トレセン、海外等にいます。競艇・オートレースも含めた執筆歴:Number/夕刊フジ/週刊競馬ブック等。ライターの前職は汎用機SEだった縁で「Evernoteを使いこなす」等IT単行本を執筆。創作はドラマ脚本「史上最悪のデート(NTV)」、漫画原作「おっぱいジョッキー(PN:チャーリー☆正)」等も書くマルチライター。グッズのデザインやプロデュースもしてます。

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