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【将棋】西山朋佳、女流三冠なるか?「炎の八番勝負」は最終章へ。高まる”女性棋士”誕生への期待

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
筆者撮影

 第9期リコー杯女流王座戦五番勝負第3局は27日に福島県郡山市で行われ、挑戦者の西山朋佳女王・女流王将(以下西山女流二冠)(24)が里見香奈女流王座(以下里見女流五冠)(27)を破り、対戦成績を2勝1敗としてタイトル奪取まであと1勝とした。

炎の八番勝負

 この二人は直前に第41期女流王将戦でも三番勝負を繰り広げており、夏に戦われた豊島将之名人(29)と木村一基王位(46)の「炎の十番勝負」をなぞらえて、女流棋士版「炎の八番勝負」とも呼ばれている。

 昨日の対局は、里見女流五冠が振り飛車を譲って西山女流二冠が中飛車にかまえた。

 炎の八番勝負は、2戦目から本局まで5局連続で振り飛車党の里見女流五冠が居飛車を志向する展開が続いている。

 急戦を仕掛けた里見女流五冠に対し、西山女流二冠が相手の端角を目標に自玉側の端から攻め込んだのが好着想で優位を築いた。

 途中、守りの金を棒金のように一直線に繰り出して玉頭を制圧したその力強い手順は、西山女流二冠の持ち味がフルに発揮された場面だった。

 玉頭戦を制したあとは順調にリードを広げ、最後は里見玉を長手数で詰ました。持ち時間を1時間以上残しての快勝劇だった。

 女流王将戦三番勝負は西山女流二冠が2勝1敗で制しており、「炎の八番勝負」は西山女流二冠が4勝2敗とリードして最終章へ向かう。

 西山女流二冠は才能豊かな将棋で、最近は序盤戦術が洗練されたことでより魅力的な将棋になっている。

 女流棋界の絶対王者里見女流五冠をもってしても、いまの西山女流二冠を止めるのは容易ではない。

奨励会

 将棋のプロは、

  • 棋士
  • 女流棋士

 この二つで世界が別れていることをご存知だろうか。

 棋士は性別を問わないが、”女性棋士”は歴史上いない。

 棋士を目指す養成機関を奨励会という。西山女流二冠は現在その奨励会に所属しており、女流棋士の資格は持っていない。

 そしてその奨励会の最高位である三段に属し、棋士を目指す「三段リーグ」を戦っている。

 半年かけて行われる三段リーグで上位2名に入ると四段に昇段し、晴れて棋士となる。

 藤井聡太七段(17)が三段リーグの最終戦で戦ったのが西山女流二冠だった。その戦いを制し、プロ入りを決めた。

 里見女流五冠も少し前までこの三段リーグに入っていたが、年齢制限(原則26歳まで)で奨励会を退会している。

 奨励会の三段は棋士とほぼ同等の実力を持っているといわれており、西山女流二冠と里見女流五冠は歴史上最強の女性といえそうだ。

 西山女流二冠は女流棋士ではないため、女流棋戦への出場機会は限られている。そんな中、奨励会員にも門戸を開いている3棋戦のうち、2つでタイトルを持っている。

 もしリコー杯女流王座戦もタイトル獲得となれば、出場資格のある棋戦を全て制することになる。

 一時は6つまでタイトルを増やし、空前絶後の女流七冠を目指していた里見女流五冠にとって、それは許したくないことだろう。

三段リーグ

 新しい三段リーグは10月に開幕し、全18回戦中6戦が終了した。

 西山女流二冠は5勝1敗と好スタートをきっている。

 上位2名に入るためには、14勝4敗か13勝5敗あたりがボーダーラインとなる。

 そうなると、ここから9勝(3敗)か8勝(4敗)が求められる。いまの西山女流二冠ならばいけるのでは、という期待も持たれるが、実力伯仲の中でこれだけ勝つのは大変なのも事実だ。

 西山女流二冠の残りの対戦相手をみてみると、競争相手との対戦は多くない。次戦、何度も昇段争いをしている実力者との対戦が組まれており、一つのヤマとなりそうだ。

 最終戦には藤井聡太世代の16歳が待ち構える。

 三段リーグは精神力も重要だ。皆プロ入りを目指して必死であり、年齢制限の恐怖にも打ち勝たなくてはいけない。

 「三段リーグはもう二度と戦いたくない」そう語る棋士も多い。筆者も同感である。

 いまトップで戦う棋士たちも、この三段リーグでは苦戦を強いられた。

 代表的なのは木村王位で、三段リーグに6年半13期も在籍した。その後プロ入りしてからの活躍ぶりはここで記すまでもないだろう。木村王位でも苦労した場所、それが三段リーグなのだ。 

 三段リーグは運の要素も大きい。いくら好成績をあげても、上位2名に入らなければ意味がないのだ。

 豊島名人も三段リーグで14勝4敗という好成績をあげながらプロ入りがかなわなかった経験をしている。

次局は12月4日に

 リコー杯女流王座戦第4局は12月4日(水)に行われる。西山女流二冠が自身初の女流三冠となるか、里見女流五冠がタイに追いつくか。

 「炎の八番勝負」はここまでの6局全てで先手番が勝っており、後手番の西山女流二冠としては厳しい戦いが予想される。

 そして三段リーグは来年3月に決着する。もし”女性棋士”誕生となれば、将棋界の歴史が変わる。

 藤井七段がプロ入りの最年少記録を作ったときと同じか、それ以上のインパクトがあるかもしれない。

 どちらもご注目いただきたい。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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