飼い主が衣食住に関心ない“セルフネグレクト”になり猫170匹「多頭飼育崩壊」
セルフネグレクトを放置すると「多頭飼育崩壊」を招くこともあります。エリさんの父親が住む家で飼われた猫の数は170匹以上。餌や水は十分に与えられず、糞尿にまみれ、部屋には強烈な臭いが充満していました。元々は4匹だったのですが、同居していた母親が病気で入院し、状況が一変。治療代がかさみ、猫の不妊手術ができず、気づけば増えていたといいます。エリさんの父親も3~5日に1食という状況で、エリさんに助けを求めたとABEMA TIMESは伝えています。
セルフネグレクトとは
ネグレクトとは、犬や猫の場合は、飼い主が放任して適切に飼育しない状態をいいます。ネグレクトという言葉は聞いたことがあっても、セルフネグレクトという言葉は初めて聞く方もいるかもしれません。
今回のニュースは、飼い主がセルフネグレクトになったので、前述のように多頭飼育崩壊になりました。
セルフネグレクト(Self Neglect)とは日本語で「自己放任」と訳されます。簡単にいうと、「めんどくさい」が過度になり、衛生や健康行動を放任し、自己の心身の安全や健康が脅かされる状態のことをいいます。
筆者は、セルフネグレクトの飼い主の猫の診察をしたことがあります。
飼い主は70代以上の女性で、彼女が動物病院に入ってきた瞬間に、強烈なアンモニア臭がしました。
数年前はおしゃべり好きないわゆる猫おばさんという感じで、悪臭はしませんでした。
最後に会ったときは、彼女は表情も乏しく猫の具合が悪いことがわかるのですが、筆者がいろいろと質問してもあまり答えてくれず困りました。
筆者が10年以上も彼女の猫の診察をしていたので、彼女の変貌ぶりにびっくりしました。
彼女がどのような理由でセルフネグレクトになったのかは、よくわかりません。どんな人でもなにかのきっかけで、セルフネグレクトになる可能性があります。決して、他人事ではないのです。
私は、彼女の家まで行ったわけではないのですが、猫を入れてきたケージも汚れていて埃をかぶっていました。ひょっとしたら彼女の家も健康な心理状態の人間にはとても住めないような「ゴミ屋敷」になっていたのかもしれません。
このような閉鎖的な「ゴミ屋敷」に猫がいるとどのようになるでしょうか。それを見ていきましょう。
猫の繁殖力
猫は生後6カ月前後で発情がきます(早い子は生後4カ月の場合も)。猫の妊娠期間は約2カ月(60~68日)で、一度の出産で平均5頭(4~8頭)出産します。
そして、約2カ月後に子猫が離乳すると次の妊娠が可能になります。その子猫も生後6カ月前後で繁殖可能年齢に達するので、犬などに比べて繁殖サイクルが非常に速いことが特徴です。
上のイラストを見ていただくとわかりますが、環境省は、1匹のメス猫が1年後には20頭以上、2年後には80頭以上、3年後には2000頭以上に増えると試算しています。
飼い主がセルフネグレクトになれば、不妊去勢手術されていないメス猫とオス猫がいれば、誰でも多頭飼育崩壊になる可能性があるのです。それほど猫は、繁殖能力が旺盛な動物なのです。
まとめ
飼い主がセルフネグレクトになり強烈なニオイのゴミ屋敷で猫を飼っていたら、多頭飼育崩壊が起こっているかもしれません。
こういう飼い主は、一般的に地域の中で孤立します。生活環境が著しく悪化してしまっても、他者や行政に支援を自ら求めないことが多く、また行政側が支援を申し出てもそれを断って一層孤立する傾向を帯びています。
近隣の人は、ニオイや猫の鳴き声などで多頭飼育崩壊が起こっているかもと気づいても、飼い主は他者と交流を持ちたがらないかもしれません。
しかし、セルフネグレクトを放っておくと、飼い主の生命の危険もありますが、それに加えて猫がいれば猫の命もかかっていることを知ってもらいたいです。