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歴代最年少34歳の仏新首相。若くてゲイ、そして保守的。フランス政治の行方は?

プラド夏樹パリ在住ライター
歴代最年少34歳でフランスで首相に就任したガブリエル・アタル首相(写真:ロイター/アフロ)

イケメン、ゲイ、エリートと話題だが…

議会で多数派を握ることができないうえに国民の支持率も降下気味のマクロン大統領は、立て直しを図るためか、この1月初頭、34歳のガブリエル・アタル氏を新首相に任命した。同氏は大統領就任以来の側近で、これまで政府報道官、教育大臣などを歴任してきた。大きなミスもなく、おまけにイケメンなので、マクロン大統領にはもう飽きがきている国民にも、いまだに人気がある人物である。

1月9日の就任の際には、「(まだ若い)私が任命されたことは、若者を信頼するという大統領の大胆さのシンボル」と言った。パリ政治学院を出て23歳で政治界に入った彼は、驚くほど、外見、立ち居振る舞いから言葉の使い方までマクロン大統領と似ている、フランスの典型的エリートタイプ。清潔感があり、まだ少年っぽさが残るところがウケているのかもしれない。

彼の写真を見ればあなたもフランス語を勉強したくなる?

ところで、世界的レベルで最も話題となっているのは、彼がゲイであることを公表しているからであるらしい。ニューヨークタイムズは「フランスで最年少、そして初めてゲイであることを公表している首相誕生」というタイトルで報道した。フランスのLGBTIQ+メディア「Têtu」は「マイノリティーのアタル氏が首相という座に就いたことは、我々の誇り」と、またアメリカのLGBTIQ+コミュニティーを対象とした雑誌、The Advocateの電子版は「これを見ればあなたもフランス語を勉強したくなる、ゲイの仏新首相の写真18点」というタイトルで写真を発表。

このように世界では彼の性的指向ばかりが話題となっているが、欧州では、若くて首相に就任することも、政治家でホモセクシャルであることを公表することも、もはや珍しくない。フランスでは、前労働大臣、現通産大臣、共にゲイである。2009年から2013年のアイスランド首相ヨハンナ・シグルザルドッティルやセルビアの現首相アナ・ブルナビッチはレズビアンであることを公にしているし、つい最近はラトビアの大統領に選ばれたエドガルス・リンケービッチ氏もゲイである。いったい何を騒ぐことがあろうか?

ホモセクシャリティーは1982年まで軽罪、刑務所行きも。

もちろん、欧州の多くの国々同様、フランスでは中世から18世紀末の大革命までアナルセックスは火炙りの刑に値した(注)。19世紀には再度、ホモセクシャリティーは公然猥褻罪として刑罰対象になった。第二次世界大戦中、1942年から1982年までは「社会的害毒」として刑法上の軽罪に値し、逮捕された人々の90%は刑務所行きに。それゆえに、政治界で自分のホモセクシャリティーをカミングアウトすることは政敵に弱みを握らせることとみなされていた。こうした背景を考えると、確かに、今、政治家がゲイであることを公表することが普通になり、首相にまで就任したことは、大きな進歩かもしれない。

(注):欧米ではホモセクシャルかヘテロセクシャルかという性的指向は19世紀にでき上がったもので、それ以前には、概念として存在しなかった。つまり18世紀末まで教会法により禁止されていたのは生殖目的以外の性的行為、特にアナルセックスであり性的指向としてのホモセクシャリティーではなかった。

出典:Une histoire des sexualités, Sylvie Steinberg(dir),PUF,Paris,2018

しかし自身が性的マイノリティーであるからといって、進歩的であったり、他のマイノリティーに対して包括的かというと、必ずしもそういうわけではない。

若くて、ゲイ、そして保守的。

アタル氏は、昨年7月から今年1月9日まで文部相だった短い期間に、古―い時代の教育をフランスに復活させる幾つかの措置をとった。1968年から公立学校では廃止されていた制服を提案し、イスラム教徒の女子生徒のスカート(アバヤ)にいたっては「長すぎる」と禁止。いじめが起きていた教室に警察官を送り込んで14歳の加害者を逮捕させ、欧州出身以外の外国人で正規の滞在許可証を持っている人々に対してさえ生活保護や住居手当を制限するという人種差別的な移民法に投票したりと、そのリストは長い。

同氏は、LGBTQI+をテーマにしたインタビューを申し込んだ独立系メディアMédiapartに対して、「自分がゲイであることを隠したくはないが、表立って表明したり主張したくもない。私は、ゲイコミュニティーの権利を擁護するために政治をしているわけではない」と言って、断っている。つまり、年は若くても政治思想的には、古く、右寄り。そして自身はゲイでも、特にLGBTQI+政策を身を挺して支持するつもりは全くないのである。

同氏の任命は、「進歩的」というよりは、フランスの政界では、ゲイの政治家でも受け入れられるが、あくまで積極的なLGBTIQ+活動家ではないという条件付きでならばであることを如実に物語っている。「若い」、「ゲイ」といったメディア受けする記号に振り回されて、政治の行方を見失うことは危険ではないだろうか?

【この記事は、Yahoo!ニュース エキスパート オーサーが企画・執筆し、編集部のサポートを受けて公開されたものです。文責はオーサーにあります】

パリ在住ライター

慶応大学文学部卒業後、渡仏。在仏30年。共同通信デジタルEYE、駐日欧州連合代表部公式マガジンEUMAGなどに寄稿。単著に「フランス人の性 なぜ#MeTooへの反対が起きたのか」(光文社新書)、共著に「コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿」(光文社新書)、「夫婦別姓 家族と多様性の各国事情」(ちくま新書)など。仕事依頼はnatsuki.prado@gmail.comへお願いします。

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