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高齢者は要注意:ダニ媒介感染症「日本紅斑熱」はどこで急増しているのか:岡山大の研究成果

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:イメージマート)

 ダニ(マダニ)が媒介する日本紅斑熱という感染症例は年を追うごとに増え続けている。岡山大学の研究グループが日本紅斑熱の発生状況を調べた。

日本紅斑熱とは

 ダニの仲間は、そのへんの野山や垣根、藪などにごく普通にみられる。ダニ類(特にマダニ)が人獣共通感染症の微生物やウイルスを持っていると、日本紅斑熱、ダニ媒介性脳炎、マダニ媒介SFTS(重症熱性血小板減少症候群、Severe fever with thrombocytopenia syndrome)、エーリキア(エールリヒア)症などにかかることがある。

 原因となる病原性微生物は、リケッチア(ツツガムシ病、日本紅斑熱、エーリキア症など)、スピロヘータ(ライム病)などの細菌、フレボウイルス(マダニ媒介SFTS)、フラビウイルス(ダニ媒介性脳炎など)、ナイロウイルス(クリミア・コンゴ出血熱)などのウイルスだ。

 この中の日本紅斑熱は、日本紅斑熱リケッチアという病原体を持つダニ類に噛まれると感染する。潜伏期間は2〜8日で、高熱や発疹が現れ、重症化して死に至ることもある。

高齢者は野外活動で要注意

 ダニ類からの感染と考えられる日本紅斑熱の症例は、最初に報告された1984年からしばらく日本の太平洋岸と本州西部の限られた地域からのものしかなかった。しかし、1999年に4類感染症に指定され、症例が全国から寄せられ始めると年を追うごとに増え続けてきた。

 今回、岡山大学の大塚勇輝助教や萩谷英大准教授、小山敏広准教授らの研究グループが、これまであまりはっきりしていなかったダニ類からの感染と考えられる日本紅斑熱がどんな年齢層で多く、どの地域で増えているのかを調べ、その結果を学術雑誌で発表した(※1)。

 同研究グループは、国立感染症研究所が公開しているデータをもとに、日本紅斑熱の2001年から2020年までの年間発生率を、患者さんの年齢層と都道府県別に分析し、年間の変化率を算出した。

 日本全体でみると、2001年の年間発生率は人口10万人あたり0.03だったが、2020年には0.33と約10倍に増加していた。また、年齢層でみると、65歳以上の患者さんで日本紅斑熱にかかる人が急増していることがわかったという。

2001年から2020年の日本紅斑熱の年齢層でみた増え方。特に65歳以上の患者さんが増えていることがわかる。岡山大学のプレスリリースより。
2001年から2020年の日本紅斑熱の年齢層でみた増え方。特に65歳以上の患者さんが増えていることがわかる。岡山大学のプレスリリースより。

寒冷地でも増えている日本紅斑熱

 また、都道府県別では、最初に報告された日本の太平洋岸と本州西部などの温暖な地域で多かったが、年度別の増え方でみれば福島県、茨城県、栃木県、群馬県、石川県といった従来は報告例が少なかった寒冷な地域で変化率が高く、これまで報告例が多かった高知県や九州南部では変化が少ないことがわかったという。

各都道府県でみた日本紅斑熱の平均発生率(左)と平均年間変化率(右)。岡山大学のプレスリリースより。
各都道府県でみた日本紅斑熱の平均発生率(左)と平均年間変化率(右)。岡山大学のプレスリリースより。

 ダニ類が媒介する日本紅斑熱をはじめとした人獣共通感染症は、開発の拡大、気候変動、温暖化などによって地球規模で広がっている。新型コロナウイルス感染症も人獣共通感染症だが、こうした環境変化によりヒトと生物の距離が接近し、感染症を媒介する生物の生息域も多様になってきているからだ(※2)。

 また、農業従事者で高齢化が進んでいること、野生動物がヒトの居住地に近づき、ペットを介してダニ類の生息域が広がっていることもありそうだ。同研究グループも地球温暖化やヒトの生活や活動範囲の変化などの影響があるのではないかとし、ツツガムシ病、ライム病、エーリキア症といった日本紅斑熱以外のダニ媒介感染症にも注意が必要と述べている。

 今回の研究から特に高齢者の野外での作業は要注意だが、農作業やレジャーなどで野山や畑、草むらなどへ入る際には、ダニ類に噛まれないよう十分に気をつけたい。

 国立感染症研究所「マダニ対策、今できること」によれば、ダニ類に噛まれないためには、野山や畑、藪などへ入る際、虫除けスプレーなどを使い、肌を露出しないことが大切で、野山などへ入った後は自宅へ戻る前に衣服をよく払い落とし、付着したダニ類を持ち込まないようにしたい。

 飼いイヌやネコも外から帰ってきたらブラシをかけるなどをしてダニ類を落としたほうがいい。帰宅後は衣服をすぐに洗濯し、自身もシャワーなどを浴びることが重要だろう。

 全てのダニ類が感染症の原因となる病原体を持っているとは限らないが、明らかにダニ類に噛まれている場合、無理に取ろうとするとダニの口の部分が皮膚の中に残ることがある。

 ダニ類に噛まれたことが確認できたら、医療機関で治療を受けたほうがいい。また、噛まれたと感じたり噛まれた跡があったら潜伏期間後まで体調を管理し、もし発熱や発疹などの症状が出たら早期に医療機関などを受診して適切な治療を受けたほうがいいだろう。

※1:Yuki Otsuka, et al., "Trends in the Incidence of Japanese Spotted Fever in Japan: A Nationwide, Two-Decade Observational Study from 2001–2020" THE AMERICAN JOURNAL OF TROPICAL MEDICINE AND HYGIENE, doi.org/10.4269/ajtmh.22-0487, 6, February, 2023

※2-1:Shaghayegh Gorji, Ali Gorji, "COVID-19 pandemic: the possible influence of the long-term ignorance about climate change" Environmental Science and Pollution Research, Vol.28,15575-15579,6,January, 2021

※2-2:Dayi Zhang, et al., "Ecological Barrier Deterioration Driven by Human Activities Poses Fatal Threats to Public Health due to Emerging Infectious Diseases" Engineering, Vol.10, 155-166, 2022

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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