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VWの最小SUV、T-Crossの驚くべき実力【動画あり】

河口まなぶ自動車ジャーナリスト
筆者撮影

 VWのT-Crossというモデルは、VWの基幹コンパクトモデル「ポロ」の派生版SUVである。その成り立ちはポロと同じMQBのA0というアーキテクチャを用いて作られたものだ。

 VWいわくT-Crossのような都会派のコンパクトSUVセグメントは、今後10年で2倍になると予測しているという。日本車ではホンダ・ヴェゼルやマツダCX−3、日産ジュークなどが属している国内の激戦区でもあり、輸入車ではジープ・レネゲードやプジョ-2008、ルノー・キャプチャーなどが欧州でしのぎを削っているセグメントでもある。

 そんな中に投入されるT-Crossは、ライバルと比べてもっともコンパクトなボディを有している。全長4108×全幅1760×全高1584mmという3サイズで、ホイールベースはポロと同じ2551mm。同じVWのモデルでみると、全長はポロより54mm長く、ゴルフをベースとしたSUVであるT-Roc(日本未導入)より120mm短い。さらに日本のライバルたちと比べると、それらよりわずかに小さいボディサイズとなる。

 しかしながら見た目の品質は相当に高い。T-CrossはVWのSUVファミリーに共通のデザインを継承。力強いボンネットや幅広のグリル、ボディサイドを走る二本の水平ラインなどによって、コンパクトながらVWならではの高品質な見栄えを実現している。一方でインテリアは基本的なテイストをポロと同じとするが、こちらはよりアクティブな印象を与えるデザインとした。インテリアでは樹脂パーツがポロよりややチープに感じる点。しかしメーターはフル液晶でナビ画面も大きく先進的。またグレードによってはボディ同色のパネルを与えるなど遊び心を忘れていない。そして日本のライバルと比べると、大分”良いもの感”が漂っており、内外装で大きな差をつけている。

 搭載エンジンは1.0Lの3気筒ターボで、最高出力115ps/最大トルク200Nmを発生。これに7速DSGを組み合わせ、駆動方式は都会派SUVゆえFFのみというイマドキのラインナップとしている。このドライブトレーンによって、動力性能的には1270kgのボディを0-100km/h加速で10.2秒を記録、最高速193km/hを実現している。一方で燃費は4.9L/100kmと、日本的にいえばリッター20.4kmとなる。co2排出量は112gで、排ガス規制的には最新のユーロ6dに適合している。日本のポロは同じ1.0L3気筒ターボながら、最高出力は95psとなるため、T-Crossの115ps版はあらゆる面でゆとりを感じる。加速も気持ちよく力強さがあるし、低速でもアクセルに対する反応が良く扱いやすいキャラクターを持っている。

 サスペンションは前ストラット/後トーションビームという通常のメカサスを採用するが、T-Crossでは車高や最低地上高が上がりサスペンションストロークが増したことが影響してか、路面からの入力をしっかりいなす豊かな乗り味が生まれていた。試乗車は18インチサイズのタイヤ&アルミを履きながら、乗り心地はポロより良いと感じるレベルだ。

 ハンドリングもポロと同じように、操作に対して極めて自然かつ忠実な動きを見せる。このためハンドリングそのものに楽しさは感じないが、安心して操れる素直な特性を持つ。その上でポロよりも洗練された感覚も備えており、走りの印象はポロよりもさらに優れたものに感じられたのだった。

 装備もポロより充実しており、例えばドライバーアシスタンスはポロの装備に加えて、クルマが自動でハンドル操作をして修正を行ないレーンの中央を維持するレーンアシストや、対向車や前走車に応じて配光を行ない、夜の視界をしっかり確保するハイビームアシストが備わる。さらに4つのUSBポートやワイヤレス充電器を備えるなど、イマドキのクルマならではの装備も充実させた。

 使い勝手では、リアシートが最大14cmスライド可能なのが特徴だ。このためラゲッジ容量も385~455Lの間で可変して使える。また6:4の分割可倒シートを畳めば1281Lのラゲッジ容量となり、この数値はライバルよりわずかに多い容量とした。さらに後席はニールームも十分に広く、SUVボディだけに天井は高めでヘッドクリアランスにゆとりがある。そして後席はバックレストの高さがしっかり確保され、大人がキチンと座れる空間を実現した。

 つまりT-Crossというモデルは全方位的に隙のない、売れない理由が見当たらない1台だ。とはいえ気になる点がないわけでなく、例えば内装は人によってはチープだとか子供っぽいと感じる場合もある。エンジンも性能的には必要十分だが、3気筒ゆえに加速時のエンジン音がうるさいと感じる人もいるだろう。

 だが、日本に導入するときの価格では300万円を切るという噂があり、もしこれが本当なら先述したわずかな不満に目をつぶることもできる。また実際にこの価格が実現した場合には、輸入車のライバルはおろか日本車の同クラスとも競合することにもなるため、さらに激戦区になっていくと考えられる。

 さらに実際に販売店では、ポロを買いに来たユーザーの多くが、価格的にもサイズ的にもトレンドとしても、このT-Crossに目を向けるのではないかと予測できる。つまりT-Crossは、今後の日本のコンパクトSUV市場で大いに注目を集めそうな、出来の良い1台だったのだ。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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