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博多ストーカー事件、警察に落ち度はなかったのか?自分の身を守る「対策広報」も必要

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:イメージマート)

 福岡県博多駅前で女性がストーカーに殺害されるといった痛ましい事件が起きました。女性は警察に相談していたとのことですが、警察は適切に対応したのでしょうか。予防できなかったのでしょうか。筆者は10年前から警察大学校で新任監察官向けに「危機管理とマスコミ対応」と題する研修を行っている関係もあり、余計に気になります。直後に福岡県警は記者会見していますが、YouTubeで無料配信が見当たりません。西日本新聞の有料サイトで閲覧が可能なようですが、記事は有料でもいいですが警察の会見は無料で公開すべきではないか、と不満に思います。仕方がないので、記者会見分析は諦め、報道を参照しつつ、元警察官で現在は要人警護のサービスを提供する株式会社誠シークレット・サービス・コンサルティング代表取締役を務める田丸誠氏に解説いただきながら、警察の対応や限界、個人での予防策について考えます。

警察に相談しても予防できないのはなぜか

 1月16日、JR博多駅前で38歳の女性、川野美樹さんが刺殺されました。犯人は、川野さんの元交際相手の寺内進容疑者(31歳)で、18日、福岡県警は殺人容疑で逮捕しました。寺内容疑者は、川野さんから関係解消を告げられたことを逆恨みして犯行に至りました。川野さんは、ストーカーされていることを警察に事前に相談していました。警察の対応は適切だったのでしょうか。

【動画解説(リスクマネジメント・ジャーナル)】

 田丸氏によると、

「私が見る限り警察の対応は適切だったといえます。日々様々な犯罪対応に追われている警察においては、起きた事件を順番に処理していくので、すぐ対応できないことがあります。今回、女性は4回ほど警察に相談しているようですが、警察の対応はつれない態度ではなく、ストーカー規制法にのっとって警告、禁止命令を順次出しています。警察としてできることは最大限対応しているといえます」

 ストーカー規制法では、つきまといを反復している行為を「ストーカー行為」として定めています。具体的には、乱暴な言動、猥褻な写真を送り付ける、住居等の付近をうろつく行為、SNSやブログにメッセージを送ったり書き込んだりし続ける行為です。違反すると1年以下の懲役や100万円以下の罰金。禁止命令に違反すると2年以下の懲役又は200万円以下の罰金となります。

 こういった規制法があり、警察も法の範囲内で適切に対応していてもストーカーによる殺傷事件を防ぐことができない、となると諦めるしかないのでしょうか。今回は禁止命令の後、逆上して事件を起こしているようです。

警察は複数の「対策広報」を

 田丸氏は警察だけに頼らず複数の相談先を確保する必要があると提案しています。

禁止命令が抑止にならない人はいます。そういったリスクのある人の場合には、警察以外、例えば危機管理会社や調査会社を活用して相手を尾行してもらう。警察に相談した後しばらく自分の身を守ってもらう。いわゆるボディガードをつけるということです。1週間だけでも有効です。屈強な男が出てくれば抑止になりますから。

お金がかかりそう。一般女性がボディガードを雇うといった発想も資金も持てない。

護身術を身に着ける方法もあります。例えば、私たちの場合、依頼者の自宅から会社まで同行し、どう行動したらいいか、尾行された時にどこに身を隠すか、どこに駆け込むかを歩きながら決めるのです。実際に依頼があったので、うちの社員にストーカー役をやらせて依頼者を尾行し、本人が身をかわせるかといった訓練を行ったこともあります。他に簡単にできる方法としては、会社に行く時と帰宅時の服装を変える、道を変える、などいろいろあります。

 なるほど、これならできそう。目からうろこのストーカー対策を提示してくれました。

 警察もストーカー対策に関する広報のあり方を見直した方がよいのではないでしょうか。「警察にすべてお任せください。警察なら安全安心。110番してください」と引き受けてしまうのではなく、警察そのものが自らできることとその限界を提示し、複数の相談先、対策を取るようにアドバイスする機能が必要ではないでしょうか。

 私たちも警察に任せれば安心、と思ってはいけないのです。リスクマネジメントにおいてリスク分散という考え方があります。1つだけに拠点を置くとそれが機能しなくなった際に大きなダメージを被るため、拠点を分散するといった考え方です。警察に任せれば安心、ではなく、自分でもできる防衛策を立てて身を守る発想を持つ。自分の身を守るために、すべてのリスクを洗い出し、複数の対策を持ち合わせあらゆる手立てを講じる。こういった一人ひとりの身の守り方の訓練が家族や地域、企業、国家を守ることにつながるのでしょう。リスクマネジメントは自分の身の守り方から考える。小さいけれど重要な一歩です。

<参考サイト>

警視庁・ストーカー規制法

https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/higai/dv/kiseho.html

参考にできなかった西日本新聞の福岡県警記者会見動画

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1042219/

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長。社会構想大学院大学教授

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