遊助 今「浪漫飛行」「さすらい」をサンプリングカバーした理由――「そろそろ一歩前に踏み出そうよ」
「浪漫飛行」と「さすらい」のサビはそののままで、新しいメロディとラップをプラスした、遊助流のメッセージソング
「もうそろそろ旅に出てもいいんじゃないかって思って」――遊助の思いは、8月12日に配信された米米CLUB「浪漫飛行」をサンプリングカバーした「浪漫飛行~君と逢えたら~」と、8月27日に配信された奥田民生「さすらい」をサンプリングカバーした「さすらい~旅路~」という作品になった。どちらもただのカバーではなく、誰もが知る印象的なサビはそののままに、新しいメロディとラップをプラスした、遊助流のメッセージソングに仕上がっている。そしてこの2曲と新曲「僕らの時代」を含む同名の33枚目のシングルを、9月21日にリリースした。こんな時代だからこそ遊助が強く伝えたいこととは?
「我慢を重ねた3年間、気持ちだけも、もうそろそろ一歩踏み出してもいい時期」
――まずは「浪漫飛行」と「さすらい」を、新曲「僕らの時代」のカップリングにチョイスした理由から聞かせていただけますか。
遊助 コロナ禍になって、さらに世界的にも不安なことばかり起きて、毎日暗いニュースばかり流れてきます。それでみんなが後ろ向きになっている気がしたので、こういう時期だからこそ、僕みたいなバカで前向きなやつが、メッセージを紡いで言葉を届けたり、ライヴやテレビで少しでもみんなに元気を与えることができたら、と思ったからです。会いたい人に会えなかったり、この3年間我慢を重ねて過ごしてきて、気持ちだけでもそろそろ一歩踏み出してもいい時期になっているんじゃないかなって。心だけは閉ざさないで、前に進む準備を色々な世代の人たちがしていかないといけない。そういうことを勝手ながら思ったので、その中で僕が小さい頃聴いていた「浪漫飛行」や「さすらい」は旅をテーマにしているメッセージソングなので、この2曲の力をお借りして、自分の言葉をどうやったら届けられるかを考えて、作ってみました。
――遊助さんはコロナ禍でも一年に一枚アルバムを出し続け、メッセージを届け続けてきました。『For 遊』(2021年)はどちらかというと、聴き手に寄り添うイメージで、『Are 遊 Ready?』(2022年)は、そこから一歩踏み出そうよという曲が多かったと思います。今回のシングルはそれと地続きという捉え方でしょうか。
遊助 時代も流れていると感じていて。少しずつですけど僕のライヴでも、マスク越しでも客席の空気が前向きになっているのが伝わってきます。それはテレビのバラエティ番組やお芝居の現場でも感じていて。この約3年間、色々なことを制約して、とにかくなんでも距離を取る必要があって。それによって人と人との距離も心も離れてしまった部分を、もう一回ちゃんと近付けて、くっつけて、みんなでせーので一歩踏み出そうよって思って。僕は前に進む推進力がある性格だと思っているので、皆さんにもそういう気持ちになってもらえたら嬉しいなという思いで、作品を出し続けています。なにより僕が前に突っ走りたくなってきたことが大きいです。
「コロナ禍になって逆に燃えた。今また第二の波に乗るためにパドルを漕ぎ始めている感じ」
――ファンにみなさんをずっと元気づけてきて、遊助さん自身はコロナ禍で精神的に食らったりしなかったのでしょうか。
遊助 逆に燃えたというか、久しぶりに燃えているというか(笑)。仕事がストップして時間に余裕ができて、自分を見つめる時間ができたり、それが僕的にはよかった。というのは、考えてみたら今までちゃんと休んだことがなかったので、これはこれでいい時間になりました。逆になんでずっとこんなに突っ走ってきたんだろうって考えてしまいました。それまで10数年間、応援してくださる皆さんのおかげで、ずっと大きな波に乗り続けることができて、でもコロナで一旦止まってしまった感覚があって。それで今また第二の波に乗るためにパドルを漕ぎ始めている感じがしていて、これからがすごく楽しみです。
「こんな時だからこそ、遊助も上地雄輔も使って、できる何かがあるんじゃないかなってワクワクしているというか(笑)」
――来年15周年で、その前に一度立ち止まって自分を見つめ直す時間ができたということは、コロナ禍も遊助さんにとっては決して悪いことばかりではなかった。
遊助 何を成し得たわけでも、何も達成はしたけわけでもないけど、色々なことをやるのが遊助だ、それが遊助っぽいよねって言われることに刺激がなくなってしまったのは事実で。でもこういう時代になって、周りを気にする、同調することがいいこと、みたいな社会になって逆に「あ、俺今いける気がする」と思えて。こんな時だからこそ、遊助も上地雄輔も使ってできる何かがあるんじゃないかなってワクワクしているというか(笑)。
「ファンを驚かせることも、いい意味で期待を裏切ることも、大切なことだと思ってきた。でもそれもマンネリ化している部分がある」
――常にファンを驚かせよう、それを14年間更新し続けているというイメージです。
遊助 驚かせることも、自分の中でいい意味で期待を裏切ることも、パフォーマーとして、表現者として大事なことだと思います。それが自分のやりがいでもあったけど、でもやっぱりそれすらももうマンネリ化している部分があって。僕はそこにみんなが鈍感になり始めていて、僕もみんなのリアクションに物足りなさを感じていた部分が出てきていました。だから色々なことがリセットされた今が、ある意味ピンチはチャンスというか。自分からもっと新しいことを発信して引っ張っていけるし、自分の人生にどこかで妥協していたり、人ってこんなもんだよなってあきらめている人たちに、そんなことないよってちゃんと言ってあげられると思いました。
「米米CLUBさん、奥田民生さんと一緒には作っていないけど、共同作業で助けられているような感覚だった」
――今回のサンプリングカバーですが、「浪漫飛行」「さすらい」の印象的なサビだけを使って、また新しい曲を作るという作業ですよね。
遊助 正直、0から1を作るのって、ものすごくエネルギーを使う作業じゃないですか。でも例えば作っている時スタッフさんに「これもうちょっと変えた方がいいんじゃない?」とか言われると、何か価値観を否定されてるような気がして、結構食らうんですよ。ゼロイチって毎回作品の中で一人の人生を作らなければいけない作業で、自分でセリフを作って自分で演じて届けるのって、結構心を抉られるような感覚があります。でも昔から聴いていた大ヒット曲にヒントがあったんです。米米CLUBさんと奥田民生さんという素晴らしいアーティストの方からヒントをいただいてるような感じがして、一緒に作業はしていないけど、共同作業で助けられているような感じがしました。
――先ほどから出ている、こんな時代だからこそ一歩前に進もう、旅に出ようというメッセージが2曲に込められています。
遊助 旅というか、前に進むという共通のテーマ性はありましたが、作り方はそれぞれ全力でアプローチを考えて「浪漫飛行」ができてから「さすらい」はまたゼロから考えました。オリジナル曲がパワーがあるので、それは邪魔しないようにしながら、僕なりにアレンジするとこういう世界観になります、というリスペクトは忘れずに、自分がそこに憑依するというか、乗り込んでいく感覚で臨みました。
――2曲共、イントロなしで頭サビ始まりですが、やっぱり若い世代やTikTokなどのSNSを意識したのでしょうか?
遊助 ディレクターと相談して、そこはこれからまた新しい遊助じゃないですけど、若い世代の人も応援してくださる方がたくさんいらっしゃるので、そういう人たちにもアプローチしながら、どういう風にデジタルの波に乗っていこうかということは考えてアプローチしています。
――いつも言葉はどういう風に紡いでいくのでしょうか?
遊助 曲によって、情景が先行する時と人が先行する時とがあります。こういう景色にこういう人という捉え方と、まず主人公がいて、この人どういう部屋に住んでるんだろうとか、ドラマを作っていく時に主人公目線の景色を書くか、俯瞰で見てこの人こんな感じだなって遠くから見て書くのか、カメラの視点が違うというか。「浪漫飛行」はリアルに風景が見えるようなワードを紡ぐために、どういう人なんだろうって考えました。実は母親が昔航空会社で働いていて、「浪漫飛行」はその当時の航空会社のCMソングだったんです。僕が少年野球に向かう時に、車の中でいつも母親がこの曲を流していました。そんな曲をカバーさせていただけて光栄ですし、時代を超えて浪漫飛行じゃないけど、時空を旅しているというか、気持ちが上がります。
『さすらい~旅路~』は「今までやったことがなかったシティポップ風のアレンジに挑戦」
――「さすらい」も色々なアーティストがカバーしていますが、誰もが知る頭のフレーズからメロディをプラスしていくという作業はスムーズに進んだのでしょうか?
遊助 意外とすんなりできました。「浪漫飛行」も「さすらい」も景色や人の動き、風といった動きを感じるワードです。「さすらい」は風のイメージを大切にしながらシティポップ風のアレンジにしてみました。どこか懐かしさもあって、「さすらい」という言葉自体に味があるというか、ちょっと古着っぽさや茶色っぽいイメージがあって。「浪漫飛行」のイメージがグリーンとかブルーだったので、違う感じにして、それを敢えてシティポップっぽく港の夜景のイメージで作ってみたら、面白いかもと思いました。こういう感じの音楽は今までやったことがなかったので、すごく面白かったし、芝居もそうですけど、やったことがない役の方が多いし、同じ役をやることはほぼないので、この曲のキャラも面白かったです。
「米米CLUBさんと奥田民生さんのファンに、遊助色にするとこうなりました、この時代だとこういう表現になりましたって、胸を張って言えるものを作りたかった」
――ファンが多いアーティストの名曲ということで、作る上でプレッシャーのようなものは感じましたか?
遊助 二組ともたくさんのファンがいらっしゃる大先輩なので、僕のような人間が同じところにアプローチしてもおこがましいというか、申し訳ない気持ちもあったので、それぞれのファンのこともある程度大切にしながら、でも原曲とはまた違ったアプローチで遊助色にするとこうなりました、この時代だとこういう表現になりましたと、胸を張って言えるものを作ろうと思いました。
「オリジナル曲のパワーも改めて感じたし、20~30年経っても時代を超えて曲が旅をして、また次の世代に繋げたと思うので、やってよかった」
――このシリーズ、もっと色々な曲を聴いてみたいと思いました。
遊助 僕自身が色々な発見をさせていただいて、もちろん元の楽曲のパワーも改めて感じたし、20~30年経っても時代を超えて、曲が旅をして次の世代に繋ぐことができて、改めてやってよかったと思いました。いずれ僕がベテランって呼ばれるようになったら、若い人たちが僕の曲や「浪漫飛行」も「さすらい」も楽しんで欲しいなって思います。
――タイトルナンバーの「僕らの時代」はこのキーワードが、ポンと浮かんできたんですか?
遊助 一番新しい曲で、まさにこういう時代だからこそできたし、最新の僕の気持ちが、リアルに出ています。時代のせいにするのではなく、僕たちの時代を明るい方に持っていけるようにって作った曲です。このタイトルは最後に決めました。
「ライオン」を12年ぶりにリアレンジ。「当時とは違う聴こえ方がして、今歌うべき歌だと思った」
――【通常盤】には12年ぶりにリアレンジされた「ライオン」が収録されています。今何故この曲だったのでしょうか?
遊助 僕が今年春頃「ライオン」をカラオケで歌ったものをTikTokとインスタでサビだけ流したらそれがすごく好評で、400万回くらい動いて、みんなに喜んでもらえて嬉しかったんです。それでチームスタッフから「ライオン」をリメイクしてみませんかというアイディアをもらって。今年のツアーもそうですが、セットリストはファンの人のリクエストや意見を聞いて毎回変えていて、ファンの皆さんにその曲の良さを改めて教えてもらうことが多くて。この曲もそうです。今聴くと12年前とはまた違う聴こえ方がして、今だからこそ思うこともあるし、今歌うべき歌だと思いました。
――音楽を創作している時はその中心に遊助さんがいて、でもテレビのバラエティや情報番組、舞台やドラマではチームのひとつの歯車で、どちらも居心地は同じですか?
遊助 例えば、芝居をやっている時はガッチガチの芝居脳になるけど、クリエイティブ脳というかゼロイチ脳というか、ライヴを作る時はそこがリラックスできて、筋肉がほぐれる感じだし、またその逆も然りなんです。息抜きという言葉は違うかもしれないけど、両方の場所があってバランスが取れるという感覚です。
来年15周年。「出し惜しみしないということだけ決めています」
――来年は15周年です。大きな動きがありそうですか?
遊助 何かはやりたいとは思っています。まだ何ができるかわからないけど、出し惜しみしないということだけは決めています(笑)。