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描くことで“好きのカタチ”を確認。そして「千鳥」の気遣い。ネゴシックス、42歳の今

中西正男芸能記者
イラストレーターとしても活動するネゴシックス

 独特のかわいげとセンスあふれるネタで「R-1ぐらんぷり2004」で準優勝するなど実績を残してきたピン芸人・ネゴシックスさん(42)。10年前からイラストレーターとしての仕事も始め、スニーカーメーカーとのコラボや、先輩にあたるお笑いコンビ「千鳥」のグッズのデザインも手掛けています。昨年11月には書籍「訴えたらむしろ負ける!! ハラスメント図鑑」でイラストを担当。既存のお笑い以外の領域でも力強い歩みを見せていますが、その根底にあるのは「好きでいてくれる人」への恩返しでした。

必要とされるうれしさ

 今、絵関連の仕事が8割くらいのイメージです。

 地元・島根の番組に出たり、ライブに出たり、外に出かける仕事をしている時以外の時間はイラストにあてている感じですね。

 これがね、イラストはそれだけ描いてても疲れないんですよ。

 芸人を何年かやってると、みんな何かしら“もう一つのこと”をやる場合が多いんです。本を書いたり、映画を撮ったり、料理をやり出したり。でも、僕は何もしてなかったんです。

 なので、本を書いたりもしたんですけど、10ページくらい書いて読み返しても1ミリも面白くない(笑)。自分にとって、文字はつまらんとなって、音楽をやってみたんですけど、これもダメ。料理も大してうまくない。

 そこでイラストをやってみたら、これが評判が良くて。芸人仲間のイベントチラシとか、フライヤーを描いたりするところから始まったんですけど、さらに展示会までしてみたら、より一層、ワーッと広まっていきまして。

 そもそも、小さな頃から絵を描くのは嫌いじゃなかったんです。時間があれば、何か描いてましたし、図工とか美術は5段階の5をもらってはいたんですけど、自分の中では何でもないというか、取り立てて、自分の長所として意識することはなかったんです。

 そうだったんですけど、仕事としてやってみたら誉められた。それによってまた依頼をいただき、また次も誉められた。自分としては「え、これでこんなに誉めてもらえるの?」というか、自分の中でそこまで価値を見出してなかった領域に評価をいただいたというか。

 その思いがあると、もっとモチベーションも高くなるし、仕上がりも良くなる。そうなると、また新たな形の依頼が来る。パトリックさんのスニーカーとのコラボ、岡山県玉野市さんの缶バッチデザイン、歯科医院のロゴデザイン…。

 それぞれの企業や団体のイメージを背負うようなお仕事をさせてもらうようになって、そこで重圧もありますけど、それ以上に「必要とされるうれしさ」を感じました。

“好き”が仕上がっていく

 また、イラストを始めたのが32歳くらいだったんですけど、今から思うと、紆余曲折を経て、30代になってからのスタートだったのが良かったなとは思います。

 最初は奇抜な色遣いでキャラクターを描いたりもしていて、これが20代だったら、もっとトガっていたこともあって、もし指摘を受けても「これでいいんだよ!」となってたんじゃないかとも思います。

 でも、ある程度、芸歴を重ねてきてから始めたので、何か言ってくださったことに対して、純粋に「あ、そうなんだ」と自分の中に取り込めた。それは遅いスタートで良かった部分なんだろうなと感じています。

 すごく感覚的な話になってしまうんですけど、お笑いで20代の時は本当にそうだったんです。「これでいいんだよ!」でやっていたというか。

 その結果「R-1」での準優勝もありましたし、実際「これでいいんだよ!」である程度いけていた部分もあると思います。でも、結局“伸び”は良くない。飛行時間が短い。

 そういう20代を経て、次は依頼されたものに対して柔軟に対応する30代が訪れた。その意味は大きかったと思いますし、自分でも大人だなと思うようになりました(笑)。

 それと、やっぱり芸人が描く絵ですから「つまんない絵は描かないでおこう」というのは絶対的にあります。人が興味を持つ感じにはしたいなと。これも20代を突っ走って、30代になってイラストを始めたメリットだったと感じています。

 あと、これは僕の中の話ですけど、絵を描く中で、自分が思う“面白い”がどんどん発見されていってるなと。

 例えば、何かのキャラクターを描く時に、絵という具体的なものを通じて「あ、自分はこの足の曲がり具合を面白いと感じるんだな」とか「こういうカーブを見ると、しっくりくるんだな」とか自分の中の“好き”をどんどん再確認していくんです。

 そうなると、お笑いをやる時でも、好きじゃないことを言わなくなるというか。言いたい単語がどんどん定まってくるんです。描くことによって、自分の精査ができる。自分の“好き”がどんどん仕上がっていく。

 これって、本当に向き不向きだと思うんですけど、僕の場合は、文字を書くのは本当に退屈なんです。好きじゃない。でも、絵は描いてられる。だからこそ、その中で自分との向き合い、確認がたっぷりとできてるんだと思います。

好きでいてくれる人のために

 よく考えたら、描く仕事をもう10年もさせてもらってますからね。それができているのは、先輩方の支えがあってのことだと感じています。

 ケンドーコバヤシさんや「笑い飯」さん、「千鳥」さんとか…。もう、長い付き合いになる方々ばかりですけど。

 直接、言葉で「いいイラストやな」なんて言うわけではないんですけど、例えば「千鳥」さんは僕のイラストを全国ツアーのグッズに使ってくれたり。個人的にイラストを注文してくれて、それをさりげなく広めてくれたり…。

 こんなことを大っぴらに言うのも気恥ずかしいというか、アレなんですけど、そうやって皆さんがあらゆる形で後押しをしてくださる。だったら、もっと頑張ろうと思いましたし、好きでいてくれる人たちのために、さらにグイグイ行こうとも思いました。

 今は、いわゆる芸人のカタチが変わってきたとも言われます。漫才をして、コントをして、テレビに出て…というカタチ以外の存在の仕方があってもいい。そういう時代になったと言われますけど、自分の中ではずっと前からそういう感覚だったとは思います。

 好きでいてくれる人たちと、いい感じの仕事ができていたらいい。もちろん、それこそが難しいんですけど、その中で必要とされる。今は特にそれを強く意識しています。

 なんというのか、楽しそうにしてるヤツに仕事は来るんだなとも思います。心にマグマをたぎらせることは大切だし、それがないとダメだとも思いますけど、それが前面に出すぎていても、人が寄ってこないですもんね。

 何にでも噛みついてやると終始「ガルルッ…」としてるような人。全てを斜めから見て黒目が小さくなってるような人(笑)とかは、一緒に仕事をしていこうとは思わないですもんね。

 黒目の大きさだけチェックしつつ(笑)、なんとか、ガサガサしてない60歳を目指していきたいと考えています。

(撮影・中西正男)

■ネゴシックス

島根県出身。1978年6月28日生まれ。島根県出身。本名・根来川悟(ねごろがわ・さとし)。吉本興業所属。NSC大阪校22期生。「R-1ぐらんぷり2004」準優勝、ABC お笑い新人グランプリ審査員特別賞受賞など賞レースで結果を残し、08年に拠点を大阪から東京に移す。11年からイラストを描く活動を始め、テレビ番組、企業、ブランド、雑誌、芸人のグッズなどのロゴやキャラクターデザインを担当している。イラストを担当した書籍「訴えたらむしろ負ける!! ハラスメント図鑑」も発売中。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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