金正恩「軍幹部14人を迫撃砲で処刑」またも恐怖の飲み会禁止令
勤労感謝の日(サンクスギビング)。韓国では「秋収感謝節」と呼ばれるが、実際に収穫に感謝する日は旧盆にあたる秋夕(チュソク)だ。先祖に対して様々なごちそうが備えられるが、それを食べることを「飲福」と言い、貧しかった時代には、貧困層への再分配という役割もあった。
北朝鮮では、収穫、脱穀が終わる11月に宴会が行われるが、これに対する禁止令が下された。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、北朝鮮当局は全国の朝鮮労働党委員会、人民委員会(道庁、市役所)、安全機関(警察)に対し、宴会や忘年会を行う工場、企業所、共同農場に対する統制と取り締まりを強化し、そのひどさに応じて、党、行政、司法機関が強く処罰するように指示を下した。
また、見て見ぬ振りをしたイルクン(幹部)に対しても、処罰の対象とするとした。
北朝鮮では過去にも、こうした指示が何度か出されている。また2012年には金正恩総書記が、「故金正日氏の追悼期間中に飲酒した北朝鮮軍の高級幹部14人を迫撃砲で処刑した」との情報も伝えられた。迫撃砲というのは、本来は敵の陣地を攻撃するのに用いられるもので、人間のような小さな目標に命中させるのは難しい。しかし威力が大きいため、至近距離に着弾しただけで人体はバラバラになってしまう。
北朝鮮で出される「飲み会禁止令」に違反すると、場合によってはとんでもない目に遭わされるということだ。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
今回の指示に基づき、朝鮮労働党咸鏡北道委員会は、忘年会などの行事は簡素な食事会に留めるように指示を下した。また、道内の安全部(警察署)は、宴会をやっているとの通報があれば、即時出動し、責任者を逮捕して、労働鍛錬隊(刑期の短い刑務所)送りにする方針を示した。
茂山(ムサン)郡安全部は、今月16日から毎日、打撃隊(取り締まり班)を立ち上げ、宴会が行われていないか、18時から0時まで夜間パトロールを行っている。
毎年この時期には、1年間農業で苦労した農民をねぎらう意味で、豚や犬をさばいて、酒とともに振る舞い、夜通しで宴会を行う。伝統的な再分配が、北朝鮮では未だに息づいているのだ。それが禁止されたことについて、当然のことながら不満の声が上がっている。
「年末に皆で集まって食事をして一杯やることにまで、こんなに脅迫をするのか」
「幹部は毎日のように飲み会を開いているのに、1年間農作業で苦労した農民は、1年を締めくくる意味で行う宴会すら開けない。農民は年に1回も肉にありつけない」(情報筋)
この時期は、収穫物の盗難が横行する時期だが、それに対する警戒よりも、宴会取り締まりに力を入れる当局のやり方にも批判の声が上がっている。
今回の取り締まりの背景には、当局が「スルプン」を好ましからざるものとしていることが挙げられる。直訳すると「酒風」となるが、酒を飲んで騒いだりすることを指す北朝鮮の言葉だ。社会主義に反する行為とされ、国や社会を崩壊させかねないとして、取り締まりの対象となっている。
娯楽の少ない北朝鮮では、飲んで歌って踊ることくらいしか楽しみがなく、毎年のように各種事故が報告されている。
もう一つは、深刻な食糧難だろう。コロナ鎖国や相次ぐ自然災害により、今年の作況は極めて悪いと伝えられている。それなのに貴重なコメを使った酒を浴びるように飲むことは、コメの無駄遣いに他ならぬ、ということだ。
しかし、「上に政策あれば下に対策あり」のお国柄。北朝鮮の人々は、打撃隊のパトロールが行われない深夜や、ひとけのない山の中に集まって、憂さ晴らしをしていることだろう。