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定期テスト廃止の前に試験の質を変える、公立中学校の挑戦

前屋毅フリージャーナリスト
「知識を問うだけのテストはやめる」と沼田校長 (撮影:筆者)

「定期テストを廃止すれば話題性はあるかもしれませんが、いきなり宣言しても保護者に理解してもらうのは簡単ではありませんからね」

 といって、埼玉県所沢市立三ヶ島中学校の沼田芳行校長は笑った。同校では毎週金曜日の朝の時間に、各クラスで対話型鑑賞に取り組む「朝鑑賞」を続けている。「これを始めてから生徒も教員も積極的になったし、学校の雰囲気が明るくなりました」と、朝鑑賞を始めた沼田校長はいう。その彼が新たな挑戦として提案し、同校が取り組みはじめているのが「試験の質を変える」ことなのだ。

「決められた試験範囲の知識を頭にたたきこんで、それを試験用紙に再現するのが学力なのか、という疑問がありました。そんな知識を問うよりも、各教科で学んだことを生かして最適解とか納得解を導きだす力を養うことのほうが大事なはずですよね」

 と、沼田校長。そして、「これまでの知識を問う定期テストではなくて、学習内容が理解できているかを確認するものにしよう」と職員会議で提案した。今年の3月のことである。

 そのために重視したのが、「単元テスト」だった。各教科には単元があるが、ひとつの単元が終わったときに、理解できているかどうかを確認するためのテストである。

「その単元テストと同じ問題を定期テストで出題してもかまわない。確認する機会は多いほうがいいですからね」

 そのテストも、「何が出題されるか分からないような問題は辞めよう」というのが沼田校長の提案だった。一般的に試験といえば、どんな問題がでるのか分からない。それが出来不出来の差にもつながったりする。

「もちろん、引っかけ問題や奇問はダメです」と、沼田校長は笑った。順位をつけるための点数が目的ではなく、学習内容を理解できているかどうかを問うものが大前提なのだ。たとえば、今年1学期の2年生の定期テストでの数学では、以下のような問題があった。

(問)たいちさんは、下のような計算間違いをしてしまいました。どこを間違えたのかを説明し、正しい答えを求めなさい。

 この下に数式が書かれている。これまでなら、計算式が出題されて、その答を問うものが一般的なはずである。「計算式=」とあって、「=」以下の答を書き込む問題だ。しかし、この問題では「=」以下も書かれている。ただし、それは「計算間違い」したものでしかない。なぜ間違った答えになったかを指摘し、そのうえで正解を書かなければいけないのが、この問題なのだ。

 単純に答をだすテクニックでは対応できる問題ではなく、学習内容を理解していなければ答えられないし、なにより考える力が求められている出題である。これまでのテスト問題より難易度が高そうな気がしないでもない。それに、沼田校長が答える。

「こんな問題をいきなりだされたら戸惑うかもしれませんね。しかし、それを考えられる授業内容になっているし、単元テストでもやっています。だから、振り返りの問題でしかありません」

 授業そのものが、ただ知識を詰め込むのではなく、知識を生かして考えて使いこなすことに重点がおかれているのだ。テストは、単元テストでも定期テストでも確認のための振り返りでしかない。

 一般的な定期テストと三ヶ島中学ではじまっている「学び」とでは、どちらが子どもたちの力になっているだろうか。答は明白ではないだろうか。

 右の写真の3年生の保健体育の単元テストの実施告知文を見ていただきたい。テストの場でいきなりだされた問題ではなく、あくまで「告知」である。

(撮影:筆者)
(撮影:筆者)

 そこには、「出題内容」がある。つまり、事前に問題が示されているのだ。さらに実技の教科書、見学のときのレポート、パソコンで調べてきたもの、本などの資料が「持ち込み可」となっている。単純に知識を問うものではなく、知識を生きたものとして活用する力を問う出題だ。

「3年生全員が体育館でやったんですが、腹ばいになったり、それぞれが集中できる姿勢で取り組んでいましたよ」

 といって、沼田校長は笑った。こういう考え方のテストだと、成績での順番をつけるのが難しくなる。

「いわゆる通知表での1とか2は減りますね。当校では4の評価をもらっていた子が、学外でのテストを受けてみたら点数が意外にも低かった、なんてこともあるかもしれません。しかし、それが問題じゃない。テストのあり方を変えることによって、子どもたちの学びに向かう地が目覚めはじめているのは事実です。そっちのほうが、大事だとおもいますよ」

 沼田校長は真剣な表情で語った。順番をつけるのがテストの目的ではない。学んだかどうかを確認するのが、テストの本来の目的である。

「実は、現行の学習指導要領でも相対評価ではなくて絶対評価を重視しなくてはならないことになっています。しかし実際は、一部の先生方は別として、依然として相対評価が主体なんです」

 と、沼田校長。順番をつけることが教育という考えが、まだまだ学校では支配的なのだ。それによって、何が実現されているのだろうか。

「子どもたちも、テストを面白いとおもってくれているような気がします。従来の知識だけを問うような一問一答だと、暗記していなかった問題がでると簡単にあきらめていました。それが知識を活用しながら考えて答を書く問題だと、制限時間内ぎりぎりまで熱心に書き込んでいます。必死で考えているのが、こちらにも伝わってきますね」

 そんな感想を、三ヶ島中学校のある教員は語ってくれた。学ぶことの楽しさを、テスト問題のあり方を考えなおすことで、三ヶ島中学校の子どもたちも教員も実感しはじめているようにおもえた。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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