ウクライナ戦争の背後で「韓国VS北朝鮮」の武器供給合戦
ドイツが自国製の主力戦車「レオパルト2」のウクライナに対する供与を決断した。これを受けて、同戦車を保有するNATO各国の対ウクライナ供与の動きが本格化している。
中でも、いち早くレオパルト2供与の意向を示していたのがポーランドだ。ドイツ政府がロシアを刺激することを警戒し、供与決断に二の足を踏んでいた際にも、強く背中を押したのがポーランドだった。
対北「総力戦」が奏功
旧東側のポーランドは早くから、旧ソ連型T-72系戦車をウクライナに送ってきた。それらはポーランド軍の装備としては旧式だが、こんどは現主力とも言えるレオパルト2を送るのである。
しかし、飛び地のロシア領カリーニングラード、そしてロシアの同盟国ベラルーシと国境を接するポーランドにとっても、今は国防力を強化するときだ。そのため、ウクライナへの戦力供与で生じた空白を埋めるため、ポーランドは韓国製K2戦車を980両以上導入する計画を決めた。同国はさらに、韓国からK9自走砲とFA50軽戦闘機、多連装ロケット「天舞」も爆買いしている。
韓国はウクライナに対して兵器を直接提供していないし、今後もその計画はないようだ。ただ、韓国のNATO加盟国に対する兵器輸出が、ポーランドがレオパルト2の対ウクライナ「供与運動」を主導する上での一助にはなったかもしれない。
また、ウクライナ戦争との関連で韓国から兵器を購入したのはポーランドだけではない。米国もまた、対ウクライナ供与で激減した155ミリ砲弾の備蓄を補充するため、10万発を韓国から購入したとされる。
それにしてもポーランドはなぜ、韓国製を選んだのか。その理由は性能や価格など様々あるが、重要な要素のひとつとなったのが「納期」だ。ポーランドはレオパルト2や米国製多連装ロケット「ハイマース」による増強も希望しているが、これらは生産ペースが遅く、希望する時期の導入が間に合わないとされる。
では、韓国はなぜ、納期を合わせることができるのか。韓国紙ソウル新聞は昨年8月3日付の記事(インターネット版)で、対ウクライナ輸出成功の背景について次のように書いている。
「冷戦後、軍縮の流れに逆らいながら、北朝鮮の脅威に対抗するために仕方なく総力戦に備え、重厚長大型の兵器体系に継続的に投資したことが、期せずして結果を生んだというわけだ」
韓国も北朝鮮も、ともに陸軍国だ。北朝鮮の人口は韓国の半分程度だが、戦車や野砲の数は同等以上の規模で揃えている。そのほとんどは旧式で、性能的には韓国軍の新型装備とは比較にならないシロモノだが、「数の威力」を無視するわけにもいかない。また場合によっては、朝鮮戦争のときのように、中国軍が介入してくる可能性すら想定する必要がある。
そのため韓国は、「戦車などの生産ラインは戦時増産に耐えられるよう整備されている」(韓国の現役軍人)のだという。
一方、北朝鮮もまた、これまでずっと「自主国防」を標榜し、兵器工場の生産力維持に努めてきた。その多くは韓国との軍事境界線から遠く離れた北部に集められている。
(参考記事:【目撃談】北朝鮮ミサイル工場「1000人死亡」爆発事故の阿鼻叫喚)
米国政府の発表によれば、ロシアは北朝鮮に対して弾薬の購入を持ち掛け、実際に民間軍事会社のワグネルが北朝鮮からの納入を受けたとされる。
北東アジアに残された冷戦型のホットスポットが、今はまだごく限定的ながら、ウクライナ戦争の武器供給源になっている現実があるのだ。