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2020年の高校野球を回顧する(9) 意義あり! のトライアウト実施

楊順行スポーツライター
20年ドラフト指名の高校生はヤクルト3位の星稜・内山壮真ら30名(撮影/筆者)

 2020年、新型コロナウイルスの感染拡大によりセンバツ、春季大会、夏の選手権はすべて中止。独自大会、甲子園交流試合はあったものの、プロ野球を目ざすほとんどの高校3年生球児にとっては、アピールすべき公式戦の機会が大きく奪われたわけだ。

 そこで、そのための機会を設けようと設定されたのが、NPBと日本高野連による合同練習会。いわゆるトライアウトだ。日本学生野球協会・内藤雅之常務理事によると、

「独自大会では、地域によってNPBのスカウトが行けないところ、あるいはスカウトの入場が認められるところと、認められないところがありました。高校3年生部員の進路保証の観点からは平等性に欠け、救済措置としての意味は大きい」

 この初めての試み、正式名称は「プロ志望高校生合同練習会」という。日本高野連に登録し、プロ志望届を提出した高校3年生を対象に、8月29〜30日には甲子園、9月5〜6日には東京ドームで行われた。ちなみに、プロ志望届は例年、夏の甲子園終了後から受け付けを開始(締め切りはドラフト会議の2週間前)するが、20年は特例として8月1日から受け付けている。プロ野球スカウトのほか大学、社会人野球、また独立リーグ関係者などが視察に訪れた。

トライアウトからのプロ指名率は6%弱

 甲子園での練習会には、77選手が参加。東京ドームの41人を大きく上回ったのは、有望選手が相対的に多い西日本という立地以外にも「聖地の土を踏みたい」という思い出づくり組もいたのだろう。指名が確実視されており、結果的にオリックス1位指名の山下舜平大(福岡大大濠)、あるいは中山礼都(中京大中京・巨人3位指名)ら、交流試合出場者3名も甲子園でのトライアウトに参加した。

 10月26日のドラフト会議で指名された高校生は、30名(育成除く)。ソフトバンクは結果的に、指名全5人が高校生だったが、昨年からトータルで5人減だったのは、新型コロナウイルス感染拡大による実戦機会や、練習不足の影響か。合同練習会参加者のうち、ドラフト指名選手は甲子園からは6人、東京ドームからは1人だった。

 トータル120名近い参加者のうち、指名されたのは7人だから、確率6%弱の狭き門だ。さらにコロナ禍における特例ではあるにしても、いわば就活にあたるプロへのオーディション。球児たちにも、また隠れた才能を発掘するという意味では、プロ側にも意義がある試みだったのではないか。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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