【年末、飼い主に捧ぐ】大切な子を失ったことによるペットロスを乗り越える方法を獣医師が解説
犬や猫は長寿になっています。
ペットフード協会の2022年調査によりますと、犬の平均寿命は14.76歳で、猫の平均寿命は15.62歳です。犬や猫は、飼い主の愛情や獣医学の進歩やフードが進化したことなどで、長寿になっています。
犬や猫は、飼い主にとって癒やしの存在です。そんな彼らが死ぬと飼い主のなかには、ペットロスになる人がいます。ペットを失ってかなしんでいる飼い主が少しでも安らかな年末を送るには、どうすればいいか獣医師が解説します。
愛犬や愛猫の死
犬の死因の1位はがん、猫の死因の1位は腎臓病です。
以前のように急に愛犬や愛猫が死ぬことは、現在ではあまりありません。何か具合が悪いなと動物病院に連れていくと、検査してがんや腎臓病や心臓病だとわかり、その中では、数カ月しか持たないと告知される飼い主もいます。
その一方で、獣医師はそういうけれど、うちの子はもっと長生きしてくれると思ってしまうのも飼い主です。
愛犬や愛猫が息を引き取っても、しばらくは生きたままのような姿に見えます。この姿は1日程度で、目の輝きが消えて、死後硬直が起きて内臓から腐敗し始めます。もうこの子はこの世にいないのだと思うと涙が流れます。火葬すると亡骸が目の前からなくなるので、さらに涙がこぼれます。
過保護に育てた愛犬や愛猫はあの世で大丈夫か
一般的に人の子どもは社会に出ていくので、自立できるように育てます。しかし、犬や猫はいくら成犬や成猫になったからといって、自立して生きることはできません。飼い主がいないと、犬や猫は水入れに水を入れることも餌を買いに行くこともできないのです。そして、寒いときや暑いときでも、エアコンをつけることもできません。
このように犬や猫は、飼い主の世話によって生きて、犬生や猫生を終わるのです。そんな風に育てた子たちなので、あの世でひとりで大丈夫かと飼い主は心配で仕方がないです。
愛する人を失ったかなしみにくれていた人は多数います。そのひとりが宮沢賢治で、1922年に賢治が25歳のときに、2歳下の妹・トシが23歳で結核で亡くなり、かなしみでいたそうです。
トシの臨終に立ち会った賢治は、『春と修羅(しゅら)』の中で以下のように書いています。
ありがとうわたしのけなげないもうとよ
わたしもまつすぐにすすんでいくから
「永訣(えいけつ)の朝」
ほんとうにおまえはひとりでいこうとするか
わたしにいつしよに行けとたのんでくれ
「松の針」
今年2023年は宮沢賢治の没後90年になり、『銀河鉄道の夜』を書く原体験になったといわれている故郷の花巻から日本領だった樺太へ鉄道で旅をしていから、100年がたっています。この樺太旅行がトシの魂の行方を追い求める旅だったそうです。
賢治はトシが亡くなって身を滅ぼすようなかなしみを持って、北の樺太旅行に行き、そして『銀河鉄道の夜』を書いたのです。
犬や猫の死は、愛するものを失ったかなしみと似ているのではないでしょうか。年末の慌ただしいときですが、賢治の物語『銀河鉄道の夜』や詩集『春と修羅』を読んでみるのはいかがでしょうか。
賢治のトシを思う優しい言葉遣いに触れると、ペットロスになっている飼い主も少し安らぐのではないでしょうか。
『銀河鉄道の夜』から考えるペットロスの回復の方法
『銀河鉄道の夜』は、ジョバンニとカムパネルラという二人の少年が、銀河鉄道に乗って宇宙を旅する形で進んでいきます。最後に、カムパネルラは川で溺れそうになった友人を助けようとして亡くなっていたことが明らかになります。
ジョバンニが銀河鉄道の旅を通じてさまざまな人と出会い、そのことによってカムパネルラの死を受け入れ成長していく物語です。
ペットロスの人は、このようにいろいろな人と出会うことで、ペットの死を受け入れて前を向いて歩いて行こうと思えるのではないでしょうか。愛するものの死を受け入れることは、宇宙を一周、経巡るほどに時間がかかるのかもしれません。
ペットロスの回復の方法
獣医学の進歩により、朝起きたら犬や猫が死んでいるということはあまりありません。
画像診断などが受けられるようになり、早い段階で病気がわかり、それから治療と介護の日が続きます。1年以上続く飼い主もいるのです。小動物臨床現場から見ているとしっかりと介護できた飼い主は、ペットロスになっても回復が早いです。けれど実際問題として、十分に治療や介護するということは、肉体的、精神的、経済的にも簡単でないのです。
人と同じように犬や猫の弔いをしっかりすることがよいです。初七日、四十九日、一周忌といった形で、心から弔うといいですね。また、新しい子を受け入れることも、ペットロスの回復にはよいといわれていますが、時期は飼い主の気持ち次第です。
まとめ
今年も残すところわずかになりましたが、愛する犬や猫を失った心が晴れない人やペットロスの人は、賢治の故郷の花巻に訪れるのもいいかもしれません。
花巻には、イギリス海岸と賢治が名付けたところがあります。そこは、岩手県を縦断する北上川の中流で花巻市街地にほど近い川べりで、広く露出する青白い凝灰質の泥岩があります。強い日差しで乾き真っ白に見える岩の上を歩くと「全くもうイギリスあたりの白亜の海岸を歩いているような気がする」というようなことからイギリス海岸と賢治が命名したそうです。
この秋に、筆者はここを訪れたのですが、不思議な風景で心の転機になるような場所でした。愛するペットの死と一緒に前を向いて、生きていくことを賢治が提案しているように思います。