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人を呼び込む運営術。バレーボール男子VC長野、トップリーグ2シーズン目の挑戦

田中夕子スポーツライター、フリーライター
スポンサーボードを持った選手のパネルで出迎える、松本市でのVC長野のホームゲーム

目指すは動員数NO1

 各チームに運営が委ねられ、2シーズン目を迎えたVリーグ。

 それぞれホームゲームに趣向を凝らし、昨年以上にさまざまな取り組みがなされている。加えて、今秋のワールドカップで4位と男子が躍進を遂げ、その中心選手として活躍した西田有志が所属するジェイテクトスティングスの試合に象徴されるように、男子の試合会場の観客数は確実に増え、11月23、24日にジェイテクトの地元、刈谷で開催されたホームゲームは立ち見客も出るほどの大賑わい。

 新リーグのスタートを謳いながらも、観客席が埋まらず、空席の目立つスタンドを見ながら試合後のインタビューで「会場へ足を運び、ご声援お願いします」と選手自ら訴える姿を見たのも一度や二度ではない。

 それからわずか1年。ワールドカップ効果とはいえ、多くの観客でにぎわう会場はどんな華々しいイベントよりも素晴らしく、選手のモチベーション向上にもつながっているはずだ。

 そんな中、11月16、17日に松本市で開催されたVC長野のホームゲーム会場に掲げられた応援幕には、実にシンプルな言葉がつづられていた。

「目指すは動員数NO1!」

目指すは動員数NO1と掲げられた応援幕
目指すは動員数NO1と掲げられた応援幕

 集客数ではなく、動員数。実はそれこそが、重要なポイントである、というのは昨季まで監督を務め、現在はGMとして運営面を束ねる笹川星哉氏だ。

3人来れば割引の「3ピースチケット」が大成功

バリエーション豊富なオリジナルグッズの数々。なかでもステッカーやキーホルダーは売れ行き好調だ。
バリエーション豊富なオリジナルグッズの数々。なかでもステッカーやキーホルダーは売れ行き好調だ。

 会場の入り口に飾られた、スポンサーボードも兼ねた選手の等身大パネル。同じ場所にはグッズ販売コーナーや、スポンサーの飲食店が販売する弁当、ご当地スイーツが並ぶ。

 今季から販売がスタートした選手のオリジナルステッカーも、中には売り切れるほど人気を誇る選手もいて、女性目線に立ち、「ワイルドさ」から「かわいらしさ」をアップしたチームマスコット、グロッテが描かれた数々のグッズも並び、どれも売れ行きは好調だと言う。

 スタンドに目を向ければまだ満席には遠いが、昨年よりも来場者が増えているのは明らかで、単純な集客数だけでなくチケットの実売数は昨シーズンをはるかに上回る、と笹川氏は言う。

グロッテをあしらったプリン。ぬりえも楽しめる工夫で子供たちも喜ぶ光景が見られた
グロッテをあしらったプリン。ぬりえも楽しめる工夫で子供たちも喜ぶ光景が見られた

「1年目の昨シーズンは手探りで、スポンサーや地元など、チケットを配ってまず人を入れた、というのが現状でした。でもそれでは運営は成り立ちません。いかに足を運んでもらうか。JリーグやBリーグ、異なる競技のリーグに参戦するクラブに足を運んで、参考にできることは全部取り入れてきました」

 たとえば松本でのホームゲームではオンラインストア限定の「3ピースチケット」を販売。3人で来れば1人あたり500円割引になるため、友達や家族が誘い合って来てほしい、という狙いがあるのだが、この戦略が当たり昨年に比べてチケット収入は2倍以上を達成。さらに「松本市民デー」と銘打ち、市内の保育園、幼稚園、小学校、中学校に招待券を配布したところ、その付き添いで来場する保護者のチケット収入も、動員数増加の一端を担った。

テレビCMで知名度アップへ

 トップカテゴリーのV1リーグはほとんどが企業に属するが、VC長野はクラブとして活動するため、活動資金はスポンサー収入やチケット収入、グッズ収入が大半を占めるため、まずクラブの知名度を上げ、露出を増やすことも不可欠だ。

 選手やクラブのSNSなど、それぞれが「できることをやる」という意識で地元も巻き込み取り組んできたが、それだけでは限度がある。そのため今季は地元のテレビ局2社ともスポンサー契約を結び、スポンサーとして提供される金額の7割を使い、クラブのCMを作成。ワールドカップの中継時や期間中にCMを流すことで、テレビでバレーボールを見ている人にも日本代表だけでなく「長野にもこんなクラブがある」とPRに努めた結果、スポンサー企業に加え、サポーターも倍以上になり、活動資金の増加にもつながった、と笹川氏は言う。

「昨年トップカテゴリーに参戦し、監督兼運営として自分も走り回り、選手には“頑張れ”と言い続けてきました。でもそれだけでは限界があるし、選手が頑張るためには運営面でバックアップしないといけない。動員数日本一、と掲げる目標にはまだ追いついていませんが、できることはまだまだあるので、挑戦し続けたいです」

弱点はプロの力で補い、地元伊那でのホームゲーム開催へ

 戦力強化を図るために選手のスカウトに励み、新戦力を採用するように、運営強化に向けて新たなチャレンジも始まった。

 笹川氏曰く「現時点で最大の弱点」というPR面を充実すべく、ビズリーチの兼業、副業求人を利用し、広報やPRの専門家を募集したところ、期限まで達していないにも関わらず現時点で100名近い希望者があったという。もともと他競技のクラブからつながった話であったと言うが、専任ではなく副業、兼業とすることでコストも抑えることが可能であり、なおかつ弱点を埋めることにもつながり、笹川氏は「願ってもない話だった」と言う。

 これまで当てはめられてきたバレーボール界の常識とは異なる発想だが、フェンシングやテニス、ホッケーなど競技団体として活用、成功を収めている団体も多く、プロバレーボールクラブとして活動するヴォレアス北海道も同事業で人材を求めている。各チーム、運営に携わるスタッフがさまざまな分野で奮闘しているが、専門分野でないため苦戦が強いられているのも事実であり、VC長野やヴォレアス北海道の新たな試みの行方は多くの関心、注目を集めるはずだ。

 V1昇格後、ホームゲームはすべて松本市で開催されてきたが、11月30日には活動拠点である長野県南箕輪村にほど近い、伊那市の伊那市民体育館でホームゲームが開催される。

 収容人数は少ないが、まさに地元のホームゲームでどんな戦い、運営が見られるのか。来シーズンに向けた試金石となりそうだ。

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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