イスラエル軍によるヒズボラ最高指導者ナスララ師暗殺で複数の戦闘機から大型航空爆弾80発以上を大量投下
9月27日にイスラエル軍はレバノン首都ベイルート南部ダヒヤ地区を戦闘機で空爆し、大型のバンカーバスター(地下貫通爆弾)の大量投下により地上ビル6棟を巻き添えに吹き飛ばしながらヒズボラ本部の地下施設を粉砕、最高指導者ナスララ師を殺害しました。翌日の28日にヒズボラ側もナスララ師の死亡を認めています。
イスラエル軍は今回の暗殺作戦を「セデル・ハダッシュ("סדר חדש"、新しい秩序)」作戦と命名しましたが、市街地に80発以上の1トン級大型航空爆弾(2000ポンド、約900キログラム)を投下する凄まじいもので、周辺への付随被害の抑制などを全く考慮していない、あまりにも苛烈な暴力の行使でした。
ベイルートのヒズボラ本部への空爆
ハツォール空軍基地から出撃し帰還するF-15Iラーム戦闘機
2000ポンド爆弾を7発搭載、落下式増槽は無し
ナスララ暗殺作戦に出撃したイスラエル空軍第69飛行隊のF-15Iラーム戦闘機は、2000ポンド貫通爆弾BLU-109にGPS誘導JDAMキットを装着したGBU-31(V)3/B形態の誘導爆弾を搭載しています。同じ重量のMk.84通常爆弾と似ていますが別種です。片側に3発(反対側にも3発)、さらに機体中心のセンターパイロンに1発が見えており、この大型航空爆弾を1機の戦闘機が合計7発も搭載しています。
- GBU-31(V)1/B:Mk.84通常爆弾のJDAM型
- GBU-31(V)2/B:上記の耐熱仕様(海軍向け)
- GBU-31(V)3/B:BLU-109貫通爆弾のJDAM型 ※今回使用
- GBU-31(V)4/B:上記の耐熱仕様(海軍向け)
なお作戦距離が片道250kmと短いので落下式増槽は搭載していません。爆装の他にはLANTIRN(夜間低高度赤外線航法および目標指示システム)や自衛用の空対空ミサイル(右側にAIM-9を1発、左側にAIM-120を1発)を搭載しています。
イスラエル軍公式発表の動画で確認できる戦闘機は8機なので各機7発搭載ならば56発になりますが、「80発以上」が事実ならばさらに多くの戦闘機が作戦に参加していることになります。
なお公式発表にはまだありませんが、一部のイスラエルのメディアによると2000ポンド(約900キログラム)のBLU-109貫通爆弾だけでなく、4400ポンド(約2000キログラム)のGBU-28貫通爆弾まで使われたという未確認情報が流れています。またアメリカで開発されたばかりの5000ポンド(約2267kg)のGBU-72貫通爆弾が使われたという根拠の無い憶測も流れています。ただし今のところはこれらの使用の証拠は無く、確認されているのはBLU-109だけです。
F-15戦闘機に2000ポンド爆弾7発は1機だけで6トン以上の爆弾を運搬していることになり滅多に見ることが無い搭載形態です。第二次世界大戦でのB-29爆撃機が爆弾4.5トン~9トン搭載(作戦距離によって搭載可能量が変動)だったのに比べても遜色がなく、ジェット戦闘機のエンジン出力の強大さと、そして爆撃の苛烈さが分かります。
たった1人を暗殺するために80発以上の大型航空爆弾を使用した作戦が過去にあったでしょうか、記憶にありません。果たしてこの攻撃は、国際人道法の敵対行為に関する基本原則である「区別の原則」「予防の原則」「均衡性の原則」「軍事的必要性の原則」に合致していると言えるのでしょうか。市街地での爆撃規模があまりにも大き過ぎて大勢の巻き添え死傷者を出していることが確実です。