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キャサリン妃とメーガン妃中傷合戦の背後にネット世論を操る親ロシア「トロール部隊」の影

木村正人在英国際ジャーナリスト
国際女性デーのイベントに参加したメーガン妃(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

ロシアの謀略説に共感するグループ

[ロンドン発]英王位継承順位2位ウィリアム王子の妻キャサリン妃(37)と同6位ヘンリー王子の妻メーガン妃(37)のサポーターがソーシャルメディア上で中傷合戦を繰り広げている問題で、ロシアの謀略説に共感するグループとのつながりが浮かび上がってきました。

ツイッター上にある「メーガン・マークル」コミュニティーに属する1103のアカウントが昨年9月以降、255万5070回もツイートし、閲覧数は10億回に達していたそうです。英高級紙デーリー・テレグラフや英大衆紙デーリー・エクスプレスが報じました。

調査したのは、英下院デジタル・文化・メディア・スポーツ特別委員会でフェイスブックのデータ分析を担当したこともある英コンサルティング会社89upです。

それによると、メーガン派は親・米民主党のツイートを繰り返しており、「ボット(自動的にツイートするアカウント)」のような動きを見せているそうです。

別のサポーターはロシア政府の国際放送局RT(ロシア・トゥデイ)のコンテンツを頻繁に投稿し、英南西部ソールズベリーでロシアの元二重スパイと娘が旧ソ連の兵器級神経剤ノビチョクで暗殺されそうになった事件について疑義を唱えていました。

ソーシャルメディア上のメーガン派はアフリカ系の支持を集める米民主党サポーターや、ロシアの謀略説に共感する人たちが多いのかもしれません。

「#いかさま公爵夫人」

メーガン妃に対し誹謗中傷を書き込んでいたアカウントも組織化されている形跡がうかがえたそうです。

完全に自動化されていたアカウントは2~3個だけでしたが、いくつかのアカウントは背後で自動化されている可能性があったそうです。89upの報告書は「限定されたグループがこれだけの閲覧数を稼ぐのは異常だ」と指摘しています。

英アドボカシー団体「ホープ・ノット・ヘイト(嫌悪でなく希望を)」が「反メーガン」のハッシュタグを使った5200のツイートを分析したところ、「反メーガン」のハッシュタグ、メーガン妃の写真などを使用した20個のアカウントが3600ものツイートを発信していました。

「反メーガン」情報を発信する目的でアカウントが作られた可能性があるそうです。

こうしたアカウントからの投稿は「 #Megxit(メーガン妃は出て行け)」や「#Charlatanduchess(いかさま公爵夫人)」、「 #Brexit(英国のEU離脱)」「 #MAGA (ドナルド・トランプ米大統領のスローガン、米国をいま一度偉大な国に)」というハッシュタグも使っていました。

いくつかのアカウントは極右のウェブサイトやソーシャルメディアとつながっており、メーガン妃に対して人種差別的な形容詞を使っていました。

メーガン妃「新聞もツイッターも読まない」

背後関係はまだはっきりしませんが、ネット世論を操作する「トロール部隊」の影が浮かび上がってきます。

英メディアがキャサリン妃とメーガン妃の不協和音を書きだしたことから、こうしたトロール部隊が英王室のイメージダウンを謀るため、ネット上で2人の中傷合戦を繰り広げている可能性があります。

国際女性デーの8日、メーガン妃は英大学キングス・カレッジ・ロンドンで開かれたイベントにジュリア・ギラード元オーストラリア首相らとともに登壇し、「お腹の中の赤ちゃんもフェミニズムを主張しているように感じます」と話しました。

「新聞があなたのフェミニズムについて『トレンディー(流行)』と見出しを付けていることについてどう思いますか」と質問されてこう答えました。

「私は何も読んでいません。その方がより安全です。しかしそれは私の個人的なやり方です。それにはマイナス面もプラス面もあるからです。今日、ある程度、(新聞の書いていることは)騒音にしか聞こえません」

「私にとって、フェミニズムという言葉を流行にするという考え方は何の意味もなしません。そうじゃありませんか。それでは永遠に続く会話の一つにしか聞こえません」

「ツイッターについても個人的なことですが、申し訳ないですが見ていません」

「ハッシュタグでは十分ではない。行動を起こそう」

そして肝心のフェミニズム運動についてはこう締めくくりました。「ハッシュタグでは十分ではありません。私たちには責任があります。人々が語るだけでなく、何か行動を起こすよう促していきましょう」

英王室は今月4日、王室のソーシャルメディア・アカウントに差別的な投稿をすれば、削除したりブロックしたりするほか、法律に違反する場合は警察に通報するガイドラインを発表したばかりです。

対象となる投稿は次の通りです。

・スパムを含んでいたり、誰かを中傷したり欺いたりする投稿

・猥褻(わいせつ)、攻撃、脅し、嫌がらせ、嫌悪、性的・暴力的な投稿

・人種、性別、宗教、国籍、障害、性的指向、年齢に関する差別を増幅させる投稿

・ソーシャルメディアの規則に違反する投稿

・的外れ、見当違い、理解できない投稿

・広告やサービスを宣伝する内容を含む投稿

メーガン妃に対する人種差別や女性蔑視的な投稿や、キャサリン妃とメーガン妃サポーターによる中傷合戦がエスカレート。このため、王室スタッフが膨大な時間を割いて削除していることが報じられていました。

日本のソーシャルメディアでも「トロール部隊」が右派vs左派のネット世論をかき回しているのは言うまでもありません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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