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雅子さまの思いやりに骨折の痛み忘れるほどの驚き スケート指導者が明かす4つの思い出

つげのり子放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)
雅子さま(写真:つのだよしお/アフロ)

■スケートを通して天皇ご一家と交流

 50年にわたり天皇陛下にスピードスケートを指導しているのが、日本女子スケート界の草分けとして、2度の冬季オリンピックに出場し、日本女子初の入賞を果たした、長久保初枝さんだ。

 プライベートでも、天皇ご一家と親しく交流してきた。毎年、天皇陛下のお誕生日のお祝い会に夫婦で招待され、陛下の素顔にも接してきたという。

 実は、長久保さんのご主人・文雄さんも、天皇陛下と同じ2月23日生まれ。皇太子時代のお誕生日会の折、そのことをご存知だった陛下から、

「長久保さん、一緒に乾杯しましょう」

 と、お声をかけられ、その気さくなお人柄に魅了されたという。

 

■雅子さまとの忘れられないエピソード1 「野沢菜」

 ご結婚後、雅子さまも陛下と一緒に練習されるようになり、愛子さまがお生まれになると、お三方でスケートを楽しまれていたとか。

 愛子さまが小学生の頃、長久保さんはスケート場にいる知人に贈ろうと、手作りの野沢菜をビニール袋に入れて持参した。

 その野沢菜を知人にあげたところ、何を思ったのか、「今日長久保さんに頂いた漬物を、雅子さまにお分けします」と言って、雅子さまに渡そうとしたのである。

 「ビニール袋に入れて漬けたばかりで、忙しくて束も揃えないでそのまま持って行っただけなので、雅子さまにお渡しするには失礼ではないかと、びっくりしてしまいました」

 と、長久保さんは当時を振り返る。

 いったんお付きの女官の方に渡したので、本当に雅子さまに手渡されるのかは分からなかったが、後日、アイスリンクでお会いした際に雅子さまから、

「長久保さん、あの漬物、今日で最後まで全部いただきました。おいしかったですよ、ありがとうございました」

 と、感謝のお言葉を頂いた。

 この漬物は、実は長久保さんが、種から撒いて栽培した、自慢の一品。山梨県のセカンドハウスで、霜が降りるのを待って漬け込むのがコツとか。田舎の素朴な手作りの味を美味しいとおっしゃってくださり、長久保さんはとても感激した。

■雅子さまの忘れられないエピソード2 「お孫さんですか?」

 10年ほど前、スケートの指導中、長久保さんは誤って転倒し、大腿骨を骨折。それでもスケートの指導を休むわけにはいかず、高校生の孫に車いすを押してもらって、アイスリンクまで通っていた。

 高校生の孫はちょうど学校が冬休み。孫と一緒にリンクサイドで練習風景を見ていると、ちょうどそこに雅子さまが軽やかに滑ってこられた。

 雅子さまはザザザッと氷片を巻き上げ、鮮やかなブレーキングで立ち止まると、こう話しかけられたという。

「お孫さんですか?」

 すると、隣の孫は「はい、そうです。孫です」と反射的に答えたが、後で皇太子妃の雅子さまだと知って仰天していた。孫は、まさか雅子さまに会い、直接話しかけられるとは、夢にも思っていなかったようだった。

 

「雅子さまは本当に気さくで、お優しい方なんです。きっと私が骨折したことも心配されて、声をかけられたのでしょう。孫にとってもお言葉をかけられたのは一生の宝物です」

 と、長久保さんは語る。

 骨折の痛みもその時ばかりは、忘れるほどの出来事だったのだろう。

■雅子さまの忘れられないエピソード3 「厳しさへ感謝」

 長久保さんは、骨折が治った後も後遺症から歩行の時に杖が必要となり、スケートリンクの上で指導できない状態となった。

 その頃、愛子さまは小学生。スケーティングに関して基礎をきちんと固める時期でもあった。

 長久保さんはリンクサイドに立ち、実際の指導は別の担当コーチに任せて、監督という立場から見守っていた。途中、愛子さまの重心移動がうまくできていないことに気づいた長久保さんは、それを矯正する必要があると感じたものの、他のコーチがいる手前、つい遠慮してしまっていたという。

 しかし、重心をとれないままに滑り続けたら、変な癖がついてスケーティングにも影響する。そこで長久保さんは意を決し、愛子さまにリンクサイドに来てくださるように手招きした。うまく滑れるようにアドバイスして差し上げたい、という気持ちからだった。

「愛子さまをいわば注意をするような形となりましたが、言うべきことは言うことで、愛子さまのご成長につながってほしいとの思いからでした」

 すると翌日、雅子さまのお付きの女官さんからお電話があり、

「雅子妃殿下から、昨日は愛子さまにご指導くださって、ありがとうございますとのことです」

 と、雅子さまからのお礼が伝えられた。

 愛子さまは御所に帰られ、雅子さまに「長久保さんから、スケーティングでアドバイスしていただいた」と、お話をされたのであろう。

 皇室のプリンセスだけに、ご指導する場合、コーチでも遠慮することがあるかもしれない。でも、きちんとした指導をするには、時にははっきりとした助言をするのが大切だと、長久保さんは心得ている。

 また雅子さまも、わが子の成長のためには、時に苦言も大切なのだと理解しておられると感じた出来事だった。

■雅子さまの忘れられないエピソード4 「愛子さまの髪飾り」

 愛子さまが小学生の時、長久保さんはレース編みで手作りした、水色のリボンの髪飾りをプレゼントした。愛子さまはよく水色の洋服をお召しになっているので、この色を選んだという。

 その後、スケート練習の際に雅子さまが、

「長久保さん!」

 とお声をかけてくださり、「こちらを見てください」とジェスチャーで示された。

 そこには、長久保さんが手作りした、水色の髪飾りを付けて準備体操をされる愛子さまが。

 感激した長久保さんは「ありがとうございます」と深く頭を下げた。

「プレゼントした髪飾りを愛子さまが付けてくださっていたのは、母親である雅子さまの細やかなお心遣いだと思います。優しいお気持ちが伝わってきました」

 スケートを通した天皇ご一家と長久保さんとの交流は、心温まるたくさんの物語を紡ぎながら、半世紀も続いている。

この記事の前編→https://news.yahoo.co.jp/byline/tsugenoriko/20201014-00202125/

放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)

2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、テレビ東京・BSテレ東で放送中の「皇室の窓」で構成を担当。皇室研究をライフワークとしている。西武文理大学非常勤講師。日本放送作家協会、日本脚本家連盟、日本メディア学会会員。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)、構成に『天皇陛下のプロポーズ』(小学館、著者・織田和雄)などがある。

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