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“死のD組”を首位通過、ドルトムント指揮官ユルゲン・クロップが語る『挑戦者の哲学』

浅野祐介ウォーカープラス編集長
ドルトムントをCL決勝トーナメントに導いたクロップ監督

レアル・マドリー、マンチェスター・シティ、アヤックスと各国王者が集う"死のD組"を首位で通過したのは、ドイツ王者ドルトムントでした。

CL“死の組”が決着…レアルとドルトムントが決勝T進出、マンCは敗退

結果的に大きかったのは、やはり、1勝1分けで終えたレアル・マドリーとの対戦。ユルゲン・クロップ監督にホームでの一戦で勝利を収めた秘訣を聞くと、こんな答えが返ってきました。「相手をリスペクトすること」。相手の実力を認め、挑戦者として戦うことが自らの強さを引き出す方法なのだと彼は語ります。

クロップが語る番狂わせの秘訣「相手をリスペクトすること」

ドルトムントを2連覇に導いてもなお、クロップ監督は自分をチャレンジャーと見なし、闘志を燃やしています。独走するバイエルンが最も脅威に感じているのは、間違いなくこの指揮官ではないでしょうか。

■今日だけは何があっても守備をサボるな!

今回のインタビューは「ジャイアントキリング」がテーマなんです。

クロップーー面白そうだね! ジャイアントキリングこそサッカーの本質だよ。なぜそうなるのか、全く予想できないことがサッカーではしばしば起きる。偉大な「ドイツサッカーの父」、ゼップ・ヘルベルガー(編集部注:西ドイツが1954年のワールドカップで初優勝した時の監督)は「ボールは丸い」と言った。サッカーでは何がどう転んでもおかしくないのだとね。これは不変の真実だと思う。

ジャイアントキリングが起こりやすい条件、というものがあると思いますか?

クロップーーその秘密を解き明かしたら、私は名監督と呼ばれるだろうな(笑)。冗談はさておき、簡単に結論づけることはできない。戦い方だけの問題でもないし、選手のメンタル、スタンドの雰囲気といった環境面も重要になるだろう。それに、単に幸運が転がり込むだけで勝敗が決まることだってある。

では、具体的なモデルで考えましょうか。あなたのチームです。調子が良くないハンブルガーSVに負けた後(ブンデスリーガ第4節。2ー3で敗戦)、チャンピオンズリーグではレアル・マドリーを破りました(グループリーグ第3節。2ー1で勝利)。

クロップーーなるほど。確かに2つの試合を比較すると、奇妙な結果に思える。ハンブルガーSV戦は5、6点は取っていてもおかしくなかったのに、常にリードを奪われる展開になり、結局追いつけなかった。失点シーン以外はほぼ完璧なパフォーマンスだったのにね。一方、マドリー戦の我々は決してうまく戦えたとは言えなかった。それでも、前半から粘り強く守り続けることで徐々に良い流れをつかむことができた。

レアル・マドリーに勝てた要因を改めてどう分析しますか?

クロップーー秘密を教えようか。試合前に1つだけスローガンを作ったんだ! 「今日だけは何があっても守備をサボるな!」ってね(笑)。マドリーのカウンターは3秒で相手のゴール前に到達する。つまり、ボールを失った時に追いかけないようなヤツが一人でもいたら、マドリーにはとても対抗できないんだ。あの試合で(クリスチアーノ)ロナウドはほとんど守備をしていなかったが、(ロベルト)レヴァンドフスキは前線からしっかり守備をした。その結果、ドルトムントのサッカーが機能し始め、最後に幸運が味方したということだ。

今シーズン、サブに回っていたケヴィン・グロスクロイツをスタメンで出場させたのも、守備面を考えてのことでしょうか?

クロップーー守備面だけじゃない。押し込まれる展開になればカウンターが重要になり、彼のスピードと運動量がより生きるからね。加えて、彼のハートの強さも、こういう大きな試合に向いている。

マルコ・ロイスがようやくフィットしてきたようですね。

クロップーー彼のポテンシャルを疑ったことはないよ。序盤戦は苦しんだ試合もあった

が、少しずつドルトムントのサッカーに慣れてきた。特にプレッシングは急速に改善されている。

あなたは以前から、「ドルトムントの最高の武器はプレッシングだ」と断言しています。

クロップーーそう。ドルトムントの生命線と言ってもいい。高い位置でボールを奪えば、相手の守備陣形が整っていない状態で攻めることができるから、ゴールが生まれる確率は高くなる。最も効果的であり、最もクールなやり方だよ。

■我々を批判する連中はリスペクトを欠いている

R・マドリー戦の勝利から何か教訓を得ましたか?

クロップーー対戦相手に対するリスペクトを忘れるな、ということかな。我々はマドリーの強さをきちんと認識して、チャレンジャーとして戦った。そういう姿勢が大切なんだ。逆に言えば、受け身で戦えばどんなチームであれ、相手の良いところを引き出してしまうことになる。

あなたは戦術家として知られていますが、メンタル的なアプローチにも定評があります。

クロップーー監督業は作戦ボードの上で完結するわけじゃない。その作戦を選手に実行させ、最大のパフォーマンスを引き出すことが私の仕事だ。しかも選手は機械ではないからね。彼らのメンタルを充実させることは、常に最重要事項だと考えているよ。

ただ、リーグ戦では首位バイエルンから勝ち点9ポイント差の4位(第12節終了時点)と、2連覇中のチャンピオンとしては満足できない成績です。

クロップーーいや、選手たちはよくやっているよ。結果が伴っていないとはいえ、パフォーマンスには満足している。それが最も大切なことだ。良いサッカーができていれば何も問題はない。

とはいえ、ここまでの成績には批判も多いようですが。

クロップーー負ければ非難されるのがこの世界のルールだからね。ただ、良いパフォーマンスを見せているのだから、我々を批判する連中は少々リスペクトを欠いていると言わざるを得ない。そんなものを気にしても仕方ないし、今日の試合が終われば、すぐに次の試合がある。結果に一喜一憂するよりも、繰り返すが、良いサッカーができているかどうかのほうが重要なんだ。

リーグ2連覇中の王者として、対戦相手の戦い方に変化を感じますか?

クロップーーそうだね。対戦相手のマークはこれまで以上に厳しくなっている。相手がドルトムントのサッカーをよく研究しているし、モチベーションも高い。加えて、リーグ王者のプレッシャーという問題もある。勝ち続ける難しさを改めて実感している。

今シーズンのドルトムントの課題はどこでしょう?

クロップーー課題と言うべきか、ケガ人が多すぎて一時的にベストメンバーが組めていないという問題はある。(スヴェン)ベンダー、(イルカイ)ギュンドアン、(マリオ)ゲッツェ、クバ(ヤクブ・ブラシュチコフスキ)……。誰かが復帰したら別の誰かがケガするといった具合で、常に必要なピースが欠けている。

最後に、今シーズンを展望してください。序盤戦ではバイエルンが首位を快走し、フランクフルトが大躍進しました。ドルトムントが優勝を目指す上で、ライバルはこの2チームでしょうか?

クロップーーフランクフルトはアルミン・フェー監督が良い仕事をしていると思う。単に守備を固めて結果を残しているわけじゃないから、最後まで上位に踏みとどまるんじゃないかな。それから、バイエルンの強さは別に驚くべきことじゃないし、悪夢というわけでもない。我々はバイエルンに対しては常にチャレンジャーの立場だと思っている。バイエルンが強ければ強いほど、我々はそれを上回ろうとして燃えるんだ。

ウォーカープラス編集長

編集者/KKベストセラーズで『Street JACK』などファッション誌の編集者として活動し、その後、株式会社フロムワンで雑誌『ワールドサッカーキング』、Webメディア『サッカーキング』 編集長を務めた。現在は株式会社KADOKAWAで『ウォーカープラス』編集長を担当。2022年3月にスタートした無料のプレスリリース配信サービス「PressWalker」では、メディアの観点から全プレスリリースに目を通し、編集記事化の監修も担当。

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