前園真聖のワールドカップ展望「日本のキーマンは鎌田大地。チームとして“勝つための守備”を」
2022年11月21日(日本時間)に開幕を迎える“4年に一度の祭典”、FIFAワールドカップ・カタール大会。元サッカー日本代表の前園真聖さんに大会の見どころ、日本代表の戦いについて話を聞いた。
※本インタビューは、スイスの高級腕時計ブランド「HUBLOT」から新たに登場した日本限定モデル「ビッグ・バン e ブルー ヴィクトリー」の発売を記念し、2022年10月29日(土)にウブロ表参道ブティックで行われた開催記念イベントにて取材。
――ワールドカップの開幕が近づいてきましたが、少し盛り上がりに欠けるように感じています。
【前園真聖】今回のワールドカップは開催時期がイレギュラーなので(※通常、ワールドカップの開催時期は欧州リーグのシーズンが終わる6月頃、今回のカタール大会は初の冬開催に)、その影響はあるかもしれませんね。各国でリーグ戦をやっていて、JリーグもJ1が11月5日に最終節を迎えたので、そちらに目が向くということもあるでしょう。一番注目が集まる優勝争い、残留争い、昇格争いがあって、海外もまだリーグ戦がある。いつものワールドカップだと、日本代表がリーグ戦を中断して代表合宿で集まったりといった動きも含めてニュースになるので、目にする機会が多いと思いますが、そういった意味でも今回はちょっとイレギュラーな印象がありますね。
――日本のグループリーグについて、展望を教えてもらえればと思います。
【前園真聖】ワールドカップのたびに繰り返し言っていることになりますが、やはり初戦が大事。初戦を落とすと、その後の戦い方も変えなければいけないし、変わらざるを得ないので難しくなる。あまりデータを持ち出すのは好きではないですけど、これまでのワールドカップを振り返っても、日本が初出場した1998年大会以降、初戦で勝ち点を取れていない大会ではグループリーグを突破できていないので、それだけ難しい。自分たちがリスクを負ったり、戦い方を変えなきゃいけなくなる展開は日本としては避けたいので、初戦、まず勝ち点1でいいと僕は思うので、そういう戦い方をきちんとやっていくことが大事だと思います。
――その初戦、日本はドイツと対戦します。
【前園真聖】できればコスタリカのほうが、という気持ちはあります。もちろんコスタリカも決して弱いチームではないですけど、ドイツ、スペインに比べたら落ちると思うので。初戦で確実に勝ち点3を手にして次に臨みたかったと思いますが、くじ運もあるので、仕方ないですからね。ドイツは前回大会で初戦を落としてしまい(メキシコに0-1)、結果、グループリーグを突破できなかったので、今回はそういうミスは絶対にしてこないでしょうし、「初戦から確実に」という気持ちがあると思います。とはいえ、初戦はドイツにとっても難しい位置づけだと思うので、初戦ならではの雰囲気も含めて、難しい試合ではあるけれども、戦い方によっては十分、日本が勝ち点を取れる試合でもあると考えています。確かにドイツは強い。でも、日本の選手たちも海外でプレーしていて、それこそブンデスリーガでプレーする選手は日常で彼らと戦っています。選手の特徴もわかっているし、そういう意味で恐れるものはそれほどないと思います。相手をリスペクトしつつも、リスペクトしすぎて受け身に回るような戦いをしなければ、ある程度、戦える。僕はそう思っています。
――初戦でまず勝ち点を取ってほしいですね。
【前園真聖】取ってほしい。前回のロシア大会のように何が起こるかわからないですし。前回大会、コロンビアとの初戦では立ち上がり3分でハンドでPKを獲得し、相手選手が退場。日本が2-1で勝利を収めました。そういった展開もあり得るので、何かを起こすためにも、受け身ではなく積極的に前から守備をしにいって、相手を困らせることをやってほしい。前回大会ではその結果としてああいうことが起きたので。守備は大切ですけど、決して“受け身の守備”ではなく、積極的に“勝つための守備”をしていくことが大事。そうすることで相手も嫌がるし、苦しめることができると思うので、僕はしっかりとした守備は大事だと考えています。それは、ドイツ戦ももちろんのこと、3戦ともに共通して言えること。積極的な“勝つための守備”、ここがキーになってくると思います。
――以前、日本代表のキーマンとして注目している選手に堂安律選手と吉田麻也選手をあげていましたが、ここは変わらず?
【前園真聖】もちろんこの2人もそうですけど、僕は今大会で日本の中心になってくるのは鎌田(大地)選手だと思っています。フランクフルトでは絶対的な存在で、ヨーロッパリーグでも活躍したし、今はチャンピオンズリーグでも活躍していて、今、特に攻撃面で、日本人として世界で一番通用している選手。代表ではなかなか彼の居場所がなくてうまくフィットしていませんでしたが、9月の欧州遠征でのアメリカ戦、エクアドル戦を見て、彼のチームというか、フランクフルトと同じようなプレーができていたので、間違いなく彼中心のチームだなと感じました。鎌田選手の代表での活躍はすごく大事になってくると思います。
――日本代表以外で注目している選手、注目国があれば教えてください。
【前園真聖】(リオネル)メッシはわからないですけど、クリスチアーノ・ロナウドはもしかしたら年齢的には最後の大会になるかもしれませんし、メッシも一度代表を引退していて、「今回が最後」という思いで臨むかもしれないので、彼らにとってどういう大会になるかという目線がまずひとつ。それから、彼らの後を継ぐ存在というとネイマールや(キリアン)ムバッペだと思うので、今回、登録メンバーが23人から26人に変わった部分もありますし、チームとして総合的に見たときに、選手層の厚さを含め、絶対的なエースがいて、彼らに遜色ないメンバーもそろっていることを考えると、ブラジルとフランスには特に注目しています。
――26人に変わった点は大きいですか?
【前園真聖】大きいと思いますし、試合中の交代枠が3人から5人に変わった点もかなり大きいですね。これまでの交代3人だと、交代のタイミングもそうですし、交代カードとして切る選手をいろいろ考えながら、その後の状況を見ながら、想定しながら切っていく必要があった。例えば、ポリバレントな選手を残し、何が起きてもどのポジションもできる選手を保険として残す必要がありました。でも、5人という交代枠であれば、ある程度そのポジションのスペシャリストを置いて、タイミングでパッと変えられるので、この5人枠の使い方はすごく重要になってくると思います。戦い方としても、最初からギアを入れて戦いながら、選手も惜しみなく力を出しきれるところがある。やはり、選手層の厚いチームが上位に来るでしょうね。
――前園さんの現役時代と今の日本代表、違いを感じる部分はありますか?
【前園真聖】圧倒的に違うのは経験値ですね。僕らはまだ世界を経験していなくて、対戦相手はそれこそテレビで観ていたような選手たちでした。でも今の選手たちは、日常として世界レベルのサッカーを普段からやっている。そういう意味では、経験値が全く違います。こういう大きな大会では経験値がより大事になるし、しかも長いリーグ戦を戦うわけではないので、この短い戦いの中では勢いと経験のバランスがすごく大切なので、試合に臨むモチベーションやメンタリティは当時の僕たちとは全くの別物だと思います。
――先ほどおっしゃっていた、リスペクトしつつもリスペクトしすぎない距離感で対戦できるということにもつながりますかね?
【前園真聖】そうですね。僕らの頃はリスペクトは同じようにしているけど、相手との差、距離感がわからない分、「やれるでしょ」といった、ある意味、開き直りのような状況でもあったと思います。でも、今はもう現実的に相手との距離が見えてきているので、相手の力を見極めたうえで、「こうやれば勝てるんじゃないか」とか、計算や想定もできるレベルに日本はあると思うので、そういう意味では、戦いに臨む姿勢も含めて僕らの時代とは違うんじゃないかと思いますね。
――一方で、世界各国のレベルも上がり続けていると思います。今大会に限らずですが、日本がワールドカップ優勝で果たすための条件としてはどういうことが必要になると思いますか?
【前園真聖】これは難しいテーマですが…まず、海外でチャレンジすることは必要になってくると思います。もちろん今もうそうなっているし、日本代表のメンバーを含めて、たくさんの選手が海外に出ていますから、この流れは継続していきたいですね。1998年のフランス大会は、直前でカズ(三浦知良)さんが外れて、海外組はゼロ。そこからですからね。そう考えると、今の状態をスタンダードとして、優勝を目指すためには、いわゆる5大リーグのビッグクラブでレギュラーの座を取るくらいの選手が出てこなければいけないですよね。それからもうひとつは、代表としての強化。代表で活動する期間はやはりどうしても短いので、この限られた時間の中で選手が集まって、戦術を確認して、それを徹底して勝ちにいかなければいけないのはなかなか厳しいものがあると思います。レベルが高い選手がそろっていれば、戦術やプレーを合わせる期間が短くてもなんとかなりますが、日本はまだそのレベルまでは達していないと思うので、ここのズレや難しさが、当然、出てきます。やはり、代表としての強化はすごく大事なので、マッチメイクを含め、強いチームと常に試合をすることをもっと重視しなければいけないと思います。ヨーロッパのチームであれば、同じヨーロッパの強豪国といつでも親善試合ができる。今回、イタリアは出場しませんが、そういう強豪国とのマッチメイクは今後すごく大事になってくるし、そうしたマッチメイクをするための人脈が僕は必要だと考えています。格下の相手とは、それこそワールドカップの予選で戦うことができるので。
――予選である程度、消化できるということですね。
【前園真聖】はい、消化できます。ヨーロッパでプレーする選手が多いので、それこそヨーロッパの強豪国とやれるような環境が望ましいですね。ポンと集まってすぐにできるように、他の強豪国はそれをやっているわけですから。
――選手個々と代表としての強化、その両方が必要ということですね。
【前園真聖】選手はそれぞれのチームで、各リーグで切磋琢磨してやっていると思いますが、代表としての強化はやはり限られてくるので、そこをしっかりと進化させていく必要があると思います。ヨーロッパに選手が多ければヨーロッパでパッと集まってやる。そういうマッチメイクをどんどんおこなって、しかも強豪国との対戦、できれば自分たちより強い格上のチームと対戦していくことが大事だと思います。負けてもいいので、その経験を積み重ねていくことが重要だと思います。
――前園さんはワールドカップ応援隊長も担当しています。最後に、大会に向けてメッセージをいただければと思います。
【前園真聖】4年に一度の舞台ですし、普段からサッカーを観ている方はもちろん、オリンピックと一緒で、普段は観ていなくても思わず観てしまうような祭典がワールドカップだと思います。単純に「観ていて楽しい」とか、「あまりルールを知らなかったけどワールドカップを観たら楽しかった」という方が、その先のコアなファンへとつながっていくと思うので、そういう人たちの目線にちゃんと応えられる立ち位置でありたいし、そういうコメントを発信できればと思っています。できるだけたくさんの人にサッカーへの興味を持ってもらえるように、僕はそこをしっかりと考えていきたいと思っています。