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「人類の予定管理をアップデートしたい」、利用者4000万人を突破したカレンダーシェアアプリの可能性

浅野祐介ウォーカープラス編集長
株式会社TimeTree CEOの深川泰斗さん[撮影=藤巻祐介]

カレンダーシェアアプリ「TimeTree(タイムツリー)」が、全世界で登録ユーザー数が4000万を突破した。「明日をちょっとよくするために」というブランドプロミスを掲げるTimeTreeがリリースされたのは2015年3月のこと。7年の時を経て、実に4000万人ものユーザーが利用するサービスへと成長を遂げたTimeTreeの生みの親、深川泰斗(株式会社TimeTree CEO)さんに話を聞いた。

――登録ユーザー数が4000万人を突破した「TimeTree」ですが、そもそも同サービスを開発しようと思ったきっかけや開発への思いを教えてください。

【深川泰斗】今日このインタビューもそうですけど、予定って相手があって発生することが多いですよね。予定は相手ありきがほとんど、でも、ひとり用で使うサービスばかりなのは不便だなとかねがね思っていました。相手がいるのだから予定を共有できたり、予定についてコミュニケーションができたりしたほうがよいのではという思いから、共有とコミュニケーションを前提にカレンダー、スケジュールを考えたらどうなるだろうか、それがもともとのアイデアのきっかけでした。それと同時に、世の中は情報量が増えていく一方で、減ることはない。情報量って「あれを見よう」とか「あれをしよう」とかいう選択肢でもあって、たとえばNetflixとかにも膨大な数の作品があるじゃないですか、それこそ全部は見られないほどの。そうして、どんどん、どんどん選択肢が増えていくのに、僕の時間は一日24時間で変わらない。やれることは多いけど、やれる時間は変わらないとなると、相対的に、苦しいというか貧しいというか、そういうなかで、自分や自分の家族とかの時間はもっと大事なものになってくるのではないかと考えました。そうした世界で、「これをやってよかった」とか、より“納得度の高い時間の過ごし方”を世界中の人が選べるように、そのための“道具”になれないだろうかという思いからTimeTreeは生まれました。

――たしかに、情報が増えることで時間の重要性は増しましたね。

【深川泰斗】Spotifyだったかと思いますが、楽曲の時間を全部足すと平均寿命よりも長いという記事を読んだことがあります(笑)。

――エンタメを消化しきれない人生…ですね(笑)。TimeTreeのリリースは2015年の3月、リリースから7年が経ちましたが、現在のサービス状況を教えてください。

【深川泰斗】家族利用のイメージが強いと思いますし、実際、家族や恋人同士で利用いただくケースが一番多いのですが、変化として、最近では、それ以外の利用方法も広がってきていると感じています。高校生の部活であったり、大学のサークル活動であったり、オンラインゲームのコミュニティーであったり、あとは、アイドルの推し活であったり。

――アイドルの推し活?

【深川泰斗】同じ推しの人を持つ仲間が集まって、「いついつの番組に出るよ」といった予定を共有したりする使い方ですね。あとは仕事の場面、職場で利用される方が増えています。以前アンケートをとったところ、職種でいうと、医療・介護系のお仕事、建築・土木系のお仕事、飲食・美容系のお仕事などでよく利用されている、利用が増えている、という結果が出ました。

――利用するコミュニティーが広がっているイメージですね。

【深川泰斗】もともと家族で使っていた方が「これ職場でも使えるのでは」となって、カレンダーをもうひとつつくるという広がり方が多くなっていますね。あとは、海外ユーザーが伸びてきた点も近年の特徴として見えています。初期から利用されている方もそれなりに多かったのですが、最近、この伸び方がより顕著に増えている形です。初期は台湾とかシンガポール、韓国などアジア圏のユーザーが多かったのですが、最近は、アメリカ、ドイツ、イギリス、北欧といった欧米圏を中心に全世界に広がってきています。

――海外での伸びはプロモーションによるものですか?それともユーザー間で自動的に増えたものですか?

【深川泰斗】海外でのプロモーションは行っていないので、ユーザーさんがユーザーさんを呼ぶ形や、あとはTikTokのバズなどが要因だと考えています。

――TimeTreeの開発・運営をしていく中で、苦労した点、うまくくいかなかった点などがもしあれば教えてください。

【深川泰斗】それはめちゃくちゃありますね。失敗ばかりという感じです(苦笑)。わかりやすいものだと、仕事での利用をもっとしてもらいたいと考え、PC版を急いでつくったのですが、TimeTreeを仕事で使う方はデスクワークよりも、お店でお仕事したりとか、現場に出たりとか、PCでの利用シーンが少なかったようでいまいち使われませんでした。あとはうまくいかずクローズした機能もあります。今のTimeTreeはカレンダーをまるごとグループで共有する仕組みなのですが、そうではなくてカレンダーの中の予定ひとつを誰かと共有できる機能をつくったことがあります。ただ、これは相手もTimeTreeを使っていないとメリットがなく…機能の実装時はユーザー数が1000万人にも到達していなかった頃で、「周りに共有する人がいない」ということであまり使われずにクローズしました。いろいろチャレンジを繰り返し、うまくいかないこともたくさんあるという感じです。

――アイデアはメンバー間で議論して生まれる形ですか?

【深川泰斗】社内で出たアイデアをディスカッションし、育てて、チャレンジしてというサイクルです。アイデアの採用基準としては、どれくらい大変なものか、そこで得られるものはなにか、という点を主に見ます。プライベートではギャンブルはやらないのですが、社内では“賭け”と言っていますね。こうしたチャレンジは“賭け”だと思っていて、成果などわからないことはあっても、何に賭けているかわからないことはやらない。ただ、「ここに賭ける」ということがはっきりしているならやってみようという感じです。あとは、できるだけ小さく試すこと。やりたいことは大きくても小さくトライして、たとえば全体の5%のユーザーさんにだけ使ってもらうとか、機能をゼロからつくり込むのではなく今ある機能で似たようなことを確かめてみるとか、そういうチャレンジの仕方がだんだんやれるようになってきていると感じています。最初の頃は、ドカンとつくって、ドカンとこけるようなことをやってしまっていました(苦笑)。

――失敗したとき、その乗り越え方、リカバリーの仕方についても教えていただければと思います。

【深川泰斗】すぐに問題をキャッチするという意味では、継続率を重点的に追っています。ユーザーさんが使い始めて一日でやめてしまわないかなど、変化はいつも見ていて、イレギュラーが生じたら、みんなで手を止めて、急いでその原因を特定し、修正に動くというスクランブル体制をとるようにしています。それから、めちゃくちゃユーザーさんの声に目を通します。Twitterであったり、レビューであったりを読み込んで、「なにかおかしいぞ」「やばそうだぞ」というときには、数字と声の両方を集中的に調査するということを全社一丸でやっています。

――定性的なもの、定量的なもの、その両方を集中して調査するということですね。

【深川泰斗】どちらかだけだとわからないですから。「何かおかしい」については数字のほうがキャッチしやすいので、まず数字でキャッチして、それがどういうふうに問題なのかを定性で見て、定性で見たものがどういう構造で数字に現れているかという視点でもう一度定量に戻るというイメージです。

株式会社TimeTree CEOの深川泰斗さん[撮影=藤巻祐介]
株式会社TimeTree CEOの深川泰斗さん[撮影=藤巻祐介]

――TimeTreeというと仲里依紗さん・中尾明慶さんご夫婦のCMのイメージがありますが、それ以降はあまり広告やCMなどは見かけないように思います。広告やマーケティングに頼らず、ユーザー数を増やしてきている理由は何だと思いますか?

【深川泰斗】おふたりに出演いただいたCMは2019年、その後はCMなどの展開はほぼ行っていません。ユーザーがユーザーを呼ぶサイクルが成長のポイントになっていると思います。基本構造として、ひとりで使う方がほぼいないので、誰かを必ず誘ってくれるというところが強みでもあると思います。TimeTreeを家族で使い始めていただくと、そこで2人や3人といったユーザーの方が生まれ、そこからさらに「部活でも使おう」とか「職場でも使おう」となってくれると、そこでまた新しいユーザーの方を誘ってくれるので、我々にとってもそれが一番ヘルシーな成長の仕方だと考えています。ですので、新しい使い方をしているユーザーさんをTwitterなどで見かけたら「どうやって使っているんですか?」と聞いて、その使い方を記事にして紹介したりといったことを地道にやっています。アプリの中に「『みんなの使い方』大辞典」というものがあり、そこでいろいろな使い方を紹介したり、そこから出た“鉄板の使い方”を初期ユーザーの方におすすめしたり、まずはこういう動きによるものが大きいです。それから、社内で共有しているスタンス、ポリシーとして、「レストランモデル」と呼んでいるのですが、「馴染みのレストラン」のように運営しようというコンセプトがあります。我々のようなツール、アプリケーションは、便利さだけでは長く使い続けてもらうことや人にお勧めしてもらうことが難しいと思っていて、ユーザーさんと関係性をつくり、常連さんというか、ユーザーさんにとっての「馴染みのレストラン」のように運営することが大切だと考えています。ユーザーさんからのお問い合わせもテンプレで返すのではなく、ユーザーさんの状況や語調に応じて、堅い印象の方でしたらよりフォーマルに、フランクな方だったらこちらも少しフランクに返すといったコミュニケーションを行っています。もちろん丁寧さは失わないように心掛けています。

――問い合わせ対応をテンプレにしないのはかなり大変そうですね。

【深川泰斗】4000万人のユーザーさんに対し、お問い合せの対応をするメンバーは6人ほど。海外の方の対応も含め、うまく回っています。かつては、3カ月に一回といったペースでユーザーさんをオフィスに招いてパーティを開催し、エンジニアメンバーもメンテナンス側で参加して、ユーザーの方の生の声を聞く機会も設けていました。その場でバグを教えてもらい、その場で修正したりといったこともしていましたね(笑)。

コロナ禍前はリアルなユーザーヒアリングの機会も定期的に開催[提供写真]
コロナ禍前はリアルなユーザーヒアリングの機会も定期的に開催[提供写真]

――先ほどの海外の話でもありましたが、TikTokでのバズをきっかけにApp Storeで1位を獲得するなど、日本とは違った形で流行しているようにも見えますが、日本と海外の違いや海外ならではのトレンドについて感じることはありますか?

【深川泰斗】サービス初期から、もともとは利用のされ方も近かったんです。家族ユーザーさんで使っていただいたり、伸び方も少しずつという感じだったのですが、昨年あたりからTikTokでバズがときどき起きるようになりました。そこは利用層がかなり違っていて、高校生や大学生の女性が多く、家族というよりは、親友4、5人の仲良しグループみたいな使い方で、相手の予定を見て、今なら空いてそうだから声をかけても大丈夫とか、「この日にみんなでどこどこに行こうよ」とか、年齢層と使い方が日本と少し違っていますね。そこでTimeTreeを知ってもらい、カップルでも使うというケースが増えていて、最近の海外、特に英語圏では、若い女性、高校生や大学生、友達同士、カップルでの利用というケースが増えています。おもしろいなと感じるのは、たとえばInstagramなどは自分が撮った写真をInstagram以外でも見せることができて、そこからまたユーザーさんが集まったりすると思うのですが、TimeTreeではそれはしにくい。というのも、“予定”なので、「うちの家族の予定です」って、あまり投稿したりしないですよね。でも、海外の若い世代の方はカレンダーのスクショをTikTokであげるという傾向があって、「私たちこんなに充実しているよ」といった感じのコミュニケーションのようです。

――現在の「TimeTree」はどのようにマネタイズをしているのでしょうか。

【深川泰斗】広告とプレミアムという有料プラン、ユーザー課金ですね。TimeTreeプレミアムはこの4月からスタートしたばかりです。アイデアベースでは、「カレンダーだから個人ユーザーさんからの課金はありえるかも」という考えは以前からありましたが、しっかりと事業として計画していたわけではありませんでした。その後、議論を何度も繰り返し、「有料モデルをやるならこうだろう」という形で議論が成熟し、スタートを切ったイメージです。

――今後の「TimeTree」の機能拡張やアップデートはどういったものを予定していますか?お答えできる範囲で教えていただければと思います。

【深川泰斗】ひとつはプレミアム。4月にスタートしたときは「広告が消せる」「プレミアム専用サポート窓口がある」という違いだけでしたが、そこから順次、予定にPDFやエクセルといったファイルを添付できる機能や、バーチカル表示(予定を時間単位で表示できるようになる)という機能を実装し、それから、大事な予定を一番上で目立たせたいときにピン留めする機能も実装しました。TimeTreeをヘビーに使ってくださる方、自分流に使い込んでいる方向けの機能をプレミアムでアップデートしていき、ヘビーユーザーの方々により便利に使っていただくということはひとつの方向として計画しています。

【深川泰斗】プレミアム以外、TimeTree全体でいうと、具体的なところはまだあまり言えないのですが、今はわりと「決まった予定をTimeTreeに書き込んでいく」、「口頭で相談して決まったらTimeTreeに登録する」という使い方が多いなか、TimeTree上で未来のことをもっと決めていける、相談していけるような形をつくりたいと考えています。

――スケジュールを考えるところから、それは新しいですね。基本的には、決まったものを登録していくのが世にあるスケジュール、カレンダーの機能ですし。

【深川泰斗】そういうお手伝いができればと考えています。TimeTreeは半分ツール、道具、手帖みたいな感じで、半分はコミュニケーションというサービスだと思っています。そこをもっと押し進めたら、どんな世界観、どんな世界が実現できるかを具体化していこうとしている感じです。

株式会社TimeTree CEOの深川泰斗さん[撮影=藤巻祐介]
株式会社TimeTree CEOの深川泰斗さん[撮影=藤巻祐介]

――最後に「TimeTree」を今後どのようなサービスにしていきたいと考えているか、深川さんの野望を教えてください。

【深川泰斗】サービスをつくったときから1億ユーザーという目標を掲げていました。野望というか、無謀というか…当初の資料に「5年で1億」と書いていました(笑)。先ほども話しましたが、おおもととして、「選択肢が増えていく中で時間がより大切に」というのがコンセプトなので、予定管理であったり、みんなの行動の決め方を刷新したい、人類の予定管理をアップデートしたいというのが野望ですね。「TimeTreeがなかった頃、予定ってどうやって管理してたっけ?」と言ってもらえたら本望です。それを世界中で実現できたらいいなと思います。携帯がなかった頃、どうやって待ち合わせをしていたか、もう思い出せないじゃないですか(笑)。

【深川泰斗】実際に、家族で共有して、運用フローも決めてらっしゃるご家庭だとそういう感覚があるとも言ってもらえているので、それをどんどん広げていきたいですね。それが野望です。そしてその先に、TimeTreeで設定している「明日をちょっとよくするために」というブランドプロミスがあります。「今日、子供が学校でこんな行事あったから早く帰って話を聞こう」とか「週末空いているけどこういうイベントがあるから家族で出かけよう」とか、TimeTreeがなかったときよりもいい選択ができて、いい時間が過ごせる。そんな世界を、世界中でつくっていきたいと考えています。世界中の予定管理の仕方をアップデートできたら、そう言い切るには数千万では足りないと思いますし、1億ユーザーにはまず到達したいと思っています。

――先のことをコミュニケーションしながらつくっていく、その過程を含めて、“生きていく道”がTimeTreeで完結したらすごいことですね。

【深川泰斗】先のことを自分ひとりで考えて「よし決めた」といってスケジュールが決まっていくことってあまりないと思うんです。予定って、家族であったり、友達であったりの間で「こんなのあったよ」とか「こんなお店できるらしいよ」といったコミュニケーションをして、「それいいじゃん」とか「木曜日は空いているよ」とかで決まっていくじゃないですか。コミュニーションが“推進剤”というか、そういう存在になるなと考えています。日付は決まっていないけどメモとして入れておいて予定化するとか、行きたいところをリストとして入れておいて共有するとか、今のTimeTreeにも一部そうした要素はあるのですが、それを全面化するような改修、アップデートをしていきたいと考えています。

――楽しい未来を自分で計画化していく、人類の明日をつくるサービスですね。

【深川泰斗】やっていきたいことは細かくて具体的なことの積み重ねなのですが、実現したいことを言葉にすると壮大で大袈裟な感じになってしまうんです(笑)。

――予定を一つひとつ切り取ると、各人にとっても小さいことだと思いますが、人生ってその積み重ねだと思いますし、一人ひとりに置き換えても、結果、実現されるものは大きなものになりますね。人類の予定管理をアップデート、TimeTreeのこれからを楽しみにさせていただきます。

【深川泰斗】ありがとうございます。

ウォーカープラス編集長

編集者/KKベストセラーズで『Street JACK』などファッション誌の編集者として活動し、その後、株式会社フロムワンで雑誌『ワールドサッカーキング』、Webメディア『サッカーキング』 編集長を務めた。現在は株式会社KADOKAWAで『ウォーカープラス』編集長を担当。2022年3月にスタートした無料のプレスリリース配信サービス「PressWalker」では、メディアの観点から全プレスリリースに目を通し、編集記事化の監修も担当。

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