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2024年の世界5大・天気ニュース

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
(提供:イメージマート)

一度あることは二度あるといいますが、2年続けて年平均気温が過去最高となったことは、近年一度もありませんでした。ある年に過去もっとも暑くなっても、翌年はそれよりは下がる、そんな変動を繰り返してきたのがこれまでした。

ところが今年は、過去最も暑かった2023年を上回って、十中八九、再び記録を更新するだろうといわれています。

そんな年でしたから、世界各地で気温の記録更新は当然のこと、異常な大雨、一方で干ばつ、そして強烈かつ異例な台風やハリケーンが多発した年となりました。

残すところあと一日となった今、私の独断と偏見で選んだ、今年2024年の世界の5大・天気ニュースをまとめます。

⓵ メッカの巡礼、高温で1,300人が死亡

酷暑メッカ巡礼死者1300人に サウジ保健相、8割無登録” (KYODO、6月)

イスラム教最大の聖地、サウジ西部メッカで14~19日に行われた大巡礼(ハッジ)中の死者が1301人に達したと公表した。多くは酷暑による熱中症が原因だとみられている。

大巡礼の期間は太陰暦に基づいて決まるため、年によって行われる時期は異なります。今年は6月中旬の最も暑い時期と重なりました。

それどころか巡礼の期間には、メッカで観測史上最高となる51.8度が記録されるという異例の暑さとなりました。同国サウジアラビアの過去最高気温は52.0度ですから、それに匹敵するほどの暑さです。

胸が痛むのは、数十万円ともいわれる高額な費用を払い許可証を入手した人々は、エアコンの効いた涼しいバスで移動できたものの、そうでない人々は炎天下の中を半日も歩いていたということです。2025年の巡礼も6月上旬に予定されており、酷暑が予想されます。

⓶ ハリケーン・ヘリーン

ハリケーン「ヘリーン」死者200人超に 米の経済損失36兆円と推計、大統領選に影響も” (産経新聞、10月)

米メディアは3日、ハリケーン「ヘリーン」が直撃した南東部の死者が200人を超えたと伝えた。2005年の「カトリーナ」に次ぐ規模の犠牲者数という。経済的損失は最大で2500億ドル(約36兆7千億円)との推計もある。

9月、ヘリーンはフロリダ州北部に「カテゴリー4」の勢力で上陸しました。上陸前の24時間で、ヘリーンはカテゴリー1から4へと爆発的に発達し、フロリダ州北部に上陸したハリケーンとしては過去最強の勢力での直撃となりました。

3日間にわたる降水量は780ミリに達し、「5,000年に一度レベル」ともいわれる異常な大雨が記録されました。

死者の大半はフロリダ州ではなく、ノースカロライナ州で発生しましたが、その要因の一つとして、ヘリーン上陸の10日前に降った「1,000年に一度レベル」の大雨によって、すでに洪水が発生していたことが挙げられます。

これだけでも記録的なハリケーンでしたが、ヘリーンから10日後には、別のハリケーンミルトンが同じくフロリダ州を直撃しました。中心気圧897hPaの、大西洋のハリケーンとしては観測史上5番目の強さにまで発達しました。

上陸直前のヘリーン (9月27日、出典はNOAA)
上陸直前のヘリーン (9月27日、出典はNOAA)

③ 水上竜巻でヨット沈没

竜巻に巻き込まれ、地中海で豪華ヨットが沈没...「英国のビル・ゲイツ」も行方不明”(News week、8月)

8月19日未明、イタリアのシチリア島沖で豪華ヨット「ベイジアン号」(全長56メートル)が竜巻に巻き込まれて沈没。乗客乗員22人のうち1人が死亡、6人が行方不明となった。「英国のビル・ゲイツ」と呼ばれる実業家マイク・リンチ氏も消息を絶った。

広い海上で発生した水上竜巻が、不運にもヨットを直撃し、痛ましい事故につながりました。海上で発生する竜巻は、たいてい弱くて細いものですが、時には非常に強力なものも発生します。

2015年には中国の長江で、大型客船が竜巻に見舞われ、450人以上が亡くなるという大事故が発生しました。これは戦争以外の海難事故としては、中国史上最悪の事態でした。

地中海での水上竜巻は珍しくありませんが、2024年8月の地中海の海面水温は平均28.9度に達し、観測史上最高を記録しました。地中海は半閉鎖的で、比較的浅い海であるため、他の海域よりも速いペースで温暖化が進行しています。

温かな海から供給される湿った空気により、大気はさらに不安定になり、嵐が発生しやすい状況が続いていると分析されています。

④ 緑化したサハラ砂漠

"The Sahara Desert flooded for the first time in decades. Here’s what it looks like" (CNN、10月)

サハラ砂漠は世界最大の砂漠(極域を除く)ですが、9月の衛星画像には広大な範囲が緑に覆われた様子が映し出されていました。

世界でもっとも雨の降らない場所の一つサハラ砂漠一帯では、8月、年間平均降水量の5倍を超える雨が降り、スーダン北部にあるアルバアットダムが決壊をしたほどでした。

また9月初旬には奇妙な低気圧により、アルジェリアやモロッコの一部地域で大雨が降りました。モロッコ南部のある村では、わずか24時間で約100ミリという通常1年分に相当する雨量が降ったようでした。

多くの洪水被害が報告されましたが、6年間続いた干ばつ後の大雨であり、地下水の回復につながる可能性があると期待されています。

⑤ アマゾンの干ばつ

"アマゾン川 干ばつで支流の水位が観測史上最低に 物流など影響" (NHK、10月)

干ばつの影響で南米ブラジルのアマゾン川では主な支流の水位が観測史上、最も低くなり、物流や観光業など幅広い分野に影響が広がっています。

ブラジルでは、記録的な干ばつが広い範囲で続いていて、中部では150日以上、雨が降らない地点も出ています。

反対に、世界最大の熱帯雨林を抱える南米ブラジルでは、統計開始以来最悪の干ばつに見舞われました。

アマゾンを流れる大河の水位は例年より3メートルも低下したほどです。ブラジル全土では史上最多となる森林火災が発生し、干ばつで生活が困窮する地域にさらに追い打ちをかけました。

ブラジルは昨年から2年連続で極端な少雨の状態が続いています。主な原因はエルニーニョ現象と考えられています。しかしそれだけではなく、森林伐採により熱帯雨林の5分の1が半世紀の間に消失したことも、干ばつを悪化させた一因となっています。

昨年、気温が40度を超える高温に耐えきれず、絶滅危惧種のイルカ200頭が死亡しました。今年に入ると、逆にイルカの命を守ろうと人々の監視下に置かれたことがストレスとなり、大量のイルカが命を落とすという事態が発生しています。

(↑極度の干ばつで川の水位が低下し、マナウス近郊のラジェス遺跡で古代の岩の彫刻が現れた)

説明がつかない

2024年は、世界の平均気温および日本の平均気温観測史上最高を記録する可能性が高いとの見方が強まっています。2023年から続く前例のない連続的な気温上昇は、これまでに例を見ない異常なレベルであるとWMO(世界気象機関)も指摘しています。

では、こうした現象は専門家たちの予測の範囲内だったのでしょうか。NASAゴダード宇宙研究所のギャビン・シュミット所長は、「その理由が分かればいいのですが、分からないのです」と率直に述べています。

では、2025年はどうなるのでしょうか。英国気象庁は、2025年は2024年、2023年に次いで、観測史上3番目に暑い年になる可能性が高いと予測しています。

気温上昇の要因が完全には解明されていない現状では、予測の不確実性が残るとはいえ、それでも、再び訪れる異常な高温への備えが必要であることは間違いないのでしょう。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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