五輪金メダリストからプロの世界王者、そして犯罪者となった男
メルドリック・テイラー(52)。
1984年に開催されたロスアンゼルス五輪に米国フェザー級代表として出場し、金メダルを獲得。同年プロに転向し、21戦20勝1分けの戦績でIBFスーパーライト級王座を奪取。
1990年3月17日、同タイトル3度目の防衛戦及び、WBC王座との統一戦で、メキシコの伝説チャンプ、フリオ・セサール・チャベスと対峙。68戦全勝のチャベスに対し、テイラーは相手のお株を奪うスピードとテクニックでポイントを重ねていく。第11ラウンドまでの採点は、2名のジャッジが107-102、108-101でテイラー有利としていた(残る一人は104-105でチャベスを支持)。
最終ラウンド残り17秒、疲労困憊したテイラーはチャベスの右を浴び、ダウンを喫する。それでも、このファイトを中継していたHBOのアナウンサーが「起き上がれば確実にテイラーの勝ちですね」と話すほどの内容であった。
テイラーは起き上がり、ファイティングポーズを取るが、レフェリーのリチャード・スティールが深刻なダメージを負っていると判断し、試合終了のゴングまで2秒というところで、チャベスのTKO勝ちを宣言する。
当時のボクシング界はスティールの判断を巡って、大論争が沸き起こる。テイラーは試合後、「勝利を盗まれた!」と繰り返し主張した。
雪辱を果たそうと走り始めたテイラーは1991年1月、WBAウエルター級王座に就き、2階級制覇を達成。そして1994年9月17日、因縁の相手であるチャベスとのリターンマッチを迎える。テイラーとの再戦までに、チャベスは初のドローと初黒星を喫し、やや衰えを見せていた。が、テイラー対策は万全で、手数、パンチの正確さで圧倒する。
第8ラウンド、左ボディでテイラーの動きを止めたチャベスは左フックを顎にヒットし、ダウンを奪う。立ち上がったテイラーだったが、ダメージは深く、レフェリーストップを食らう。テイラーは、またも敗者となった。
テイラーは35歳まで現役を続け、47戦38勝(20KO)8敗1分けで引退した。
6月4日、久しぶりにメルドリック・テイラーの名前がメディアを賑わす。残念ながら、彼が逮捕されたと聞くことになった。
テイラーは引退後、賃貸物件を所有しており、家賃を滞納中の26歳の住人に退去を迫る。その折、銃を見せながら脅したという。駆けつけた警官に対し、当初テイラーは素直に応じていたが、最後はSWATに取り押さえられている。
ここ数年、呂律の回らなくなったテイラーの状態を案じる声が複数上がっていた。彼もまた、転落人生を送るしかないのかーー。胸が痛むニュースだ。