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星稜・奥川に勝った!  履正社が初優勝!

森本栄浩毎日放送アナウンサー
夏の甲子園は履正社が星稜のエース奥川を攻略して初優勝。春のリベンジだ(筆者撮影)

 優勝インタビューで、履正社(大阪)の岡田龍生監督(58)は、「(センバツで負けて)奥川君にチームを大きくしてもらった。選手が力を出し切ってくれた」と、時折、目頭を押さえながら、余韻に浸った。センバツではわずか3安打。17三振で完封負けを喫し、初日に甲子園を去った。あれから5か月。この日も、星稜(石川)のマウンドには、履正社が目標としてきた奥川恭伸(3年)が立っていた。

主砲・井上の一撃で履正社が逆転

 滑り出しは互角だった。履正社先発の清水大成(3年)は三者凡退のスタートで、調子の良さをうかがわせた。しかし2回、先頭の4番・内山壮真(2年)に三遊間を破られると、2死から7番・岡田大響(ひびき=3年)に適時二塁打を浴びる。逆風でなければスタンドまで届いていたような当たりだった。センバツでも初回に星稜が得点し、同じような展開になるかと思われた。しかし3回、奥川は突如、制球を乱す。2死から連続四球を与え、今大会2アーチの4番・井上広大(3年)を迎える。井上は春、9回の反撃機に併殺打で最後の打者になっていた。最初の打席も、甘いスライダーに手が出ず三振に倒れていたが、奥川はその時と同じ球で入ってきた。「春は初球からいけなかった。積極的な打撃でチームを勢いづかせたい」と話していた主砲は、ここぞの場面で失投を見逃さない。大歓声の中、高い放物線を描いてバックスクリーンの左に吸い込まれた打球は、履正社が主導権を握る逆転の3ランとなった。

同点許すも、2年生岩崎が好救援

 星稜も2回以降、毎回安打と清水を脅かすが、奥川が打たれた動揺からか、けん制に誘い出されたり、走塁ミスなどの拙攻で好機をつぶす。それでも7回、清水に疲れが見え始めると、星稜は、9番・山瀬慎之助(3年=主将)と、3番・知田爽汰(2年)が適時打を放って追いついた。この試合の勝敗を分けた最大のポイントはこのあとの場面だ。履正社の岡田監督は、このピンチで準決勝完投の岩崎峻典(2年)をマウンドへ送った。夏の大阪大会直前に急成長した新戦力だ。「(交代が)ちょっと後手に回ったかと思ったが、あそこで追い越されなかったのがよかった。リードされて奥川君に力いっぱい投げられたら打てたかどうか」と岡田監督も祈るような気持ちだっただろう。岩崎は内山に四球を与えたが、今大会好調の5番・大高正寛(3年)を二飛に打ち取り、同点で8回に突入した。

直後に主将の一打で奥川を攻略

 星稜の林和成監督(44)も、「7回にひっくり返していれば」とふり返ったが、奥川も同じ気持ちだったのだろう。100球を超えてやや球威が落ち始めたところで、5番・内倉一冴(かずさ=3年)が粘って9球目を右中間に二塁打。三進後、7番・野口海音(みのん=3年・主将)が、高めの速球をとらえ、再び履正社がリードを奪う。これでがっくりきたか、奥川は今大会無安打の岩崎にも適時打を浴び、またも2点差をつけられた。その裏も、岡田の盗塁死などがあった星稜は、9回にも2安打を放って詰め寄る。しかし最後は知田が併殺に倒れ、センバツと同じ結末を迎えたが、勝者と敗者は入れ替わっていた。

ライバル・大阪桐蔭に胸張れる

 履正社は、今大会が同校にとって初の春夏連続出場。試合前に井上が、「春夏連続出場で新しい歴史を作ったので、先輩たちができなかった優勝(センバツで2度の準優勝)を成し遂げたい」と話していたが、とびきり大きな活字で「初優勝」という新たな1ページを書き加えることになる。それは同時に、「大阪2強」と言われながら、甲子園実績では大きく離されているライバル・大阪桐蔭に対しても、堂々と胸を張れる、素晴らしい内容での優勝だった。今夏の対戦はなかったが、昨年まで、夏に限ればライバルに11連敗中で、近年は、秋に履正社が先行しても、夏前に追いつかれ、最後に抜き去られるパターンで負けていた。今大会の履正社の強打は、今までとは全く違う。センバツで完膚なきまでにやられた奥川をも飲み込んだ。「夏に最大のライバルを倒す」。長年、それを模索し続けてきた岡田監督は、この優勝で確かな手ごたえをつかんだ。そのヒントは、今シーズン中の育成プランにあった。

シーズン入っても、ウエイトトレ減らさず

 冬場のウエイトトレーニングはどのチームでも行っているが、シーズンが始まると実戦重視になるのは当たり前だ。履正社は、今春、星稜に力負けした反省から、シーズン中の5~6月にもウエイトトレを行い、筋力の維持強化を図った。例年、シーズンが始まると、筋力の低下に気づかないまま過ごしてきたことを反省してのものだったが、この育成プランの成果は形となって表れた。大阪大会から絶好調だった打線は、6試合連続2ケタ安打で、奥川を始め、大会屈指の好投手を次々と攻略。「コンパクトなスイングで力強い打球が飛ぶ」と岡田監督も納得した。

これからは大阪桐蔭に力負けしない

 「このやり方(育成プラン)を続けていかないと」という岡田監督の采配も、バントも織り交ぜながら確実に得点する野球から、長打で一気に畳みかけるスタイルに大きく変化していた。これからはライバルに対しても、夏の大会で力負けしていた過去が嘘のように打ちまくるだろう。「監督、これで、大阪桐蔭にぐっと近づきましたね」そう筆者が水を向けると、「いやぁ、まだまだ。今ごろ、『来年は俺らや』と必死でやってるん違いますか」と一笑に付されたが、その目は自信に溢れていた。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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