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“インタレスティングたけし騒動”の奥にあるもの。チャンス大城が語る芸人の意味と個性の意味

中西正男芸能記者
芸人の意味、そして、個性の意味について思いを吐露するチャンス大城さん

14日放送のTBSテレビ「水曜日のダウンタウン」でピン芸人・インタレスティングたけしさんから仕掛けられた“芸人引退ドッキリ”が話題になっているチャンス大城さん(49)。番組内でインタレスティングたけしさんの吃音に対して涙ながらに持論を展開する姿に対し、今もSNSなどで多くの意見が交わされています。学生時代に壮絶ないじめを受け、芸人の世界に入ってからも地下芸人としてあらゆるキャラクターと向き合ってきた大城さんが考える芸人の意味、個性の意味とは。

 先日出演させていただいた「水曜日のダウンタウン」でインタレスティングたけしの吃音が改めて注目されました。

 もともとは昨年の(同番組の)企画で、インタレスティングたけしの吃音を笑いの対象として扱うのが適切ではないという話が出まして。それも、本当に、本当によく分かることです。

 吃音で悩んでいる方も、もちろんいらっしゃる。そして、そこをイジってほしくないと思っている方もいらっしゃる。当然のことです。その思いは絶対的に尊重されるべきだし、何かを押し付けるなんてことはすべきではない。

 でも、一方、吃音という状態がある中で、何かを表現しようとしている人間もいる。その場を奪う。これもあってはいけないことじゃないか。そう思うんです。

 昨年の番組でのことがあって、インタレスティングたけしがテレビに出にくくなった。いろいろな事情や考えがあってのことかもしれませんが、結果、世に出たいと思っている人間にフタをしてしまう。

 いろいろな立場や価値観を認め合う多様性の時代と言われますけど、それなら、そっちの立場も尊重しないといけないんじゃないか。そんなことも、烏滸がましい話ながら、考えもします。それでやっとフラットになるというか。

 吉本新喜劇でも滑舌が悪いことを武器にしている諸見里大介君もいます。うらやましいくらいの武器ですよ。池乃めだかさんも身長が170センチあったら、芸風が全く違っていたでしょうし、背が低いからこそ今のめだかさんがいらっしゃるんだと思います。

 世間一般のものさしで見たら、ネガティブに取られがちなものも、やりようで全てが武器になる。人に楽しんでもらえる要素になる。それが芸人の世界ですし、そこまで「ダメ!」となったら、その個性はどこで個性になるのか。個性がないほうがいいのか。そんなことも思うんですよね。

 そして、芸人の場合、例えば、めだかさんもただ単に背が低いということだけで笑いが生まれているのではなく、締めていたネクタイと同じ長さだとか、何かしらのセンス、アイデア、技術で笑いにしている。

 単に小さいから馬鹿にされて笑われているということではなく、それを材料にプロが調理して笑わせているわけです。そういった領域までひとまとめにして「ダメ!」が果たして良いことなのか。

 繰り返しになりますけど、背が小さいとか、頭が薄いとか、太っているとか、そういう部分をイヤだと思っている人にそんな言葉の刃を向けることは論外です。

 でも、自ら進んでプロのリングに上がってそれを武器に戦っている人から武器を取り上げるのも良いことなのかなと思います。その人がやっていることが面白くないから売れない。これは仕方ないことですけど、最初からリングに上がれない。上がりにくい。これはどうなのかなとも思うんです。

 一つのルールを作って「はい、これで」みたいなことができる領域ではないでしょうし、みんなが人のことを慮る意識をもって、その都度、話したり、考える。これしかないのかなと思います。烏滸がましいですけど。

 そして、お笑い、芸人の世界。これがあるから、今、僕はここにいる。それは僕自身のことなので、間違いなく断言できます。それくらい、やればやるほど、すごいものだなとも思っています。

 僕自身、小学校、中学校といじめられていて、ずっと笑ってなかったんです。そんな中、母親が吉本興業の劇場、うめだ花月に連れて行ってくれました。

 13歳の時で、僕は全く乗り気ではなかったんですけど「ま、行くくらいはエエか」と思ってついていった。そしたら、そこで見た間寛平さんの新喜劇が、まぁ、面白い!体に電気が走った思いがしました。そして、中心にいる寛平さんがすごくカッコ良く見えたんです。

 そして、気づいたら笑ってたんです。びっくりしました。次々と出てくる月亭八方さん、「中田カウス・ボタン」さん、どの方々も面白い!すごい!こんな仕事があるんだと心が震えました。

 その経験を経て「ダウンタウン」さんの深夜ラジオを聴いていたら「勉強できるヤツ、スポーツできるヤツ、面白いヤツはいじめられない」という言葉をおっしゃっていて。その言葉も僕からしたらこれでもかと心に刺さりまして。そんなことが重なって、芸人の世界に入りました。

 そこから本当にいろいろなことがありましたけど、去年、千原ジュニアさんと名古屋での講演会に呼んでいただきました。

 ジュニアさんは引きこもりの子どもたちに講演を、僕はいじめに悩む子どもたちに話をする。テレビ番組も入って、ネット配信もあって、多くの人に自分の経験をお話しする場だったんです。

 自分にあったマイナスなことも全て前向きな形にできる。それを伝えることで、少しは人の役に立てる。本当にすごい仕事だなと改めて思いました。

 本当にたくさんの方にお越しいただいたので、僕の話を手話で伝えてくださる方も入ってくださっていて。僕が「昔、山に埋められたことがありまして」というエピソードを話したら、手で首まで埋まっているというジェスチャーをされて「首まで埋まってるという手話はあれになるんやな」というのも勉強になりました(笑)。

 あとね、中にいて思うのは、芸人の世界はやっぱりやさしいです。

 先輩方に救ってもらったことなんて数え切れませんけど、もうこの世界を完全に辞める気だったところから救ってもらったこともありました。

 2017年にジュニアさんが「人志松本のすべらない話」に推薦してくださいまして。本当にありがたい話、出演させていただき、その後の打ち上げにも参加させてもらったんですけど、そこで、あろうことか失敗をしてしまいまして。泥酔してしまって、粗相をしまくったんです。

 恥ずかしい話、一切僕は記憶はないんですけど、相当な酔っ払い方をしてしまったようで。もうこれはこの世界を辞めて地元に戻るしかない。そう決めて、顔に泥を塗ってしまったジュニアさんには最後に連絡をしないといけないと思い、電話をしたんです。

 「この度はあってはならないことを本当に申し訳ありません。せっかく推薦してくださったジュニアさんにも迷惑をかけ、もうこの世界を…」と話していたら、話を遮るようにジュニアさんがおっしゃったんです。

 「それより、来月の『にけつッ‼』頼むな」

 こちらを責めるわけでもなく、怒るわけでもなく、それだけでした。なんでしょうね、圧倒的なやさしさというか、人間味というか、全部そうなんですけど、全部言葉にすると薄っぺらくもなりますけど、そんなことを一気に感じて、涙が止まりませんでした。

 そんな思いもいただき、芸人の仕事を続けていますけど、それ以来、お酒を飲んでいないことが、また次につながるというか、人の役に立てるというか。これも愛知県からお話をいただいて、断酒の講演会に呼んでもらうことにもなりました。

 お医者さんに混じって、僕も自分の経験を話させてもらいまして。ステージに上がる時に、講演のテーマがスクリーンに出るんですけど、向こうの方が作ってくださったのが「チャンス大城、断酒からのチャンス」だったんです。ホンマにその通りなんですけど、我が人生ながら、意外ときれいに韻を踏んでるなと(笑)。

 ナニな話ですけど、映画の「バックトゥザフューチャー」がありますよね。あれがずっと頭のどこかにあったというか、意識から離れることがなかったんです。

 過去に戻って未来を変えるという物語ですけど、ずっと「『すべらない話』の打ち上げの場に戻って、あの日、コーラだけ飲んでいたら…」。そんな思いがこみ上げてきて耐えられなくなる。

 でも、ここ何年かでありがたい流れをいただいて、意識が変わってきたんです。あの粗相があったから、今があるんだろうし、あそこで酒を止まってなかったら、もっと大変なことになって死んでいたかもしれない。

 迷惑をおかけした人たちには今でも申し訳ないばかりなんですけど、振り返るとしんどかった過去の色が少しずつ変わってきているんです。

 過去は変えられない。それは事実だとも思うんですけど、今の状態が変わると、過去のとらえ方が変わってくる。それはあるんだなとは思います。

 僕はクズみたいな人間です。それでも「チャンスさんが山で首まで埋められた話を聞いて、また明日も生きようと思いました」と言ってくださる方もいる。

 「引きこもっていたけど、チャンス大城、こんなヤツでも頑張って生きてるんだなと思うと、僕も頑張ることにしました」と言ってもらったり…。「こんなヤツでも」という部分には一定ムカッとしますけど(笑)、それでもその何倍もありがたいことだなと。

 芸人はヤクザな仕事だとか、楽してチヤホヤされると言われることもありますし、実際そういう部分もあると思います。

 でも、この仕事でしかできないこともある。それも、中にいさせてもらっている僕として感じる部分ではあります。

(撮影・中西正男)

■チャンス大城(ちゃんす・おおしろ)

1975年1月22日生まれ。兵庫県出身。本名・大城文章。吉本興業所属。中学3年でNSC大阪校に8期生として入所するが退所し定時制高校に通う。その後、94年に13期生として入所し、吉本興業での活動を経て、98年に大川興業に移籍。2009年にフリーとなり、18年から再び吉本所属となる。書籍「僕の心臓は右にある」(朝日新聞出版)が発売中。公開中の映画「シモキタブレイザー」(主演・佐藤嘉寿人)にも出演。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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