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「いつまでも自立せずに親と同居しているから結婚できない?」子ども部屋おじさんという生贄理論

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

結婚できないのは自立心の欠如?

よくメディアは定期的に、「若者の恋愛離れ」や「草食化」が昨今の少子化の原因であるかのような報道をするが、当連載で何度も書いている通りそんな事実はない。

百歩譲って、結果として恋愛しない割合が増えているとしても、それは若者の価値観が変わったからそうなったのではなく、先にそうせざるを得ない社会環境があったためであり、先に価値観が変わったのではない。

そうした背景には、事実ではないことをさも事実であるかのように恣意的に述べる有識者がいるからでもある。

同様に、未婚化の原因を「若者の自立心の欠如」のせいにしたがる有識者もいる。

つまり、現在の未婚化は、「20~40代の独身男女の6-7割が親や親族と同居している。子どもを手元に置いておき、仕事や結婚に関してまで口を出す親が昔より増え、自立できない若者が増えている。結果、結婚しようとしない若者の“増産”につながっている」などと言うのだ。

しかし、これは全く違う。

親元に住む未婚者の割合

確かに、2020年の国勢調査の段階で、実家暮らしをする未婚男女は6割程度存在する。これは正しい。しかし、だからといって、それが2020年までに急に増えていった話でない。

2000年、2010年、2020年の20年間において、20-59歳までの親元同居する男女の割合は、それぞれ59.6%、59.5%、60.5%であり、多少2020年は上昇しているもののたいした違いはない。

具体的に、各年齢における親元未婚率を上記の20年間の推移で表したのが以下のグラフである。

男性に関しては、39歳あたりまではほぼ20年間変化していない。女性に関しては、むしろ親元から離れ一人暮らしする未婚の方が割合としては増えている。

もちろん、男女とも40-50代においては、2000年と比べれば2020年は増えているが、それをもって、「親元から自立しないから未婚が増えた」と見るのは間違いである。

原因と結果の因果関係を,本来の関係でなく、「逆の向き」で判断されることを「因果の逆転」というが、まさにそれである。本来は「未婚のまま40歳を過ぎてしまったがために、結果としそのまま親元に住み続けている」と見るのが妥当である。

そもそも、親元を離れるきっかけは、進学や就職などの他は、結婚して新居を構えるというものに集約される。よって、結婚しないままなら、特に親元を離れる合理的な理由はないのだ。

当然、未婚者の絶対人口は2000年よりは増えているわけだが、にもかかわらず、親元未婚率がたいして上昇していないということは、親元に住もうが、一人暮らしで自立していようが、未婚の割合は変わらないということである。むしろ、女性に関しては、一人暮らし率が増えるにあわせて、女性の未婚率も上昇していると解釈することもできる。

偏見と悪意に満ちたイメージ像

こうした、中年になっても未婚のままで親元に住み続ける男性をわざわざ「子ども部屋おじさん」などという揶揄言葉を使って表現する界隈もある。「子ども部屋おじさん」とは2014年が初出と言われているが、もともと某匿名掲示板の中で蔑称として使われた言葉である。

テレビのワイドショーなどでも「子ども部屋おじさん急増中」などの煽りタイトルをつけて、「ゲームや漫画本、アニメのDVDに囲まれて、雑然とした部屋に万年床で身だしなみにも気を遣っていない」ような”いかにも”なオタク的キャラクターとして紹介しがちである。

写真:イメージマート

なぜなら、「そんなんだから結婚できないんだよ」と言いたいためであり、そこには偏見と悪意がある。そして、「結婚できないのは本人の問題であり、こうなったら終わりだ」というある種の「生贄」に近い扱いをしているのだ。

そうしたイメージの流布は、「親元に同居→自立心がない→マザコン」などという偏見に結びつき、結婚相談所においては「親と同居しているのはNG」という条件としても表出している。結婚後も親と同居したいというわけではなく、現在親と同居している時点でアウトだという。

そもそも、6割もいる親元未婚全員が経済的に自立していないわけがない。逆に、親の暮らしを支えている場合もあるだろう。ただでさえ、国民負担率の上昇で手取りが減る中、家賃や光熱費などをおさえることで、親元に住むという合理的な判断をしている場合もある。部屋がちらかっているのは、別に親元じゃなくてもあることだろう。

もちろん、親に依存している「すねかじり」の親元未婚もいないとは言わない。しかし、それは別に昭和の時代でも存在していたし、働いていない親元未婚がすべて「なまけ」や「甘え」による無職であるとも限らない。病気やけがで働きたくても働けない人もいる。

年金シニアプラン総合研究機構の2020年調査によれば、無職となった親元未婚のその理由の1位は男女とも「病気・けが・障害のため」で男性49.6%、女性44.1%である。

叩くことに飢えている人たち

個々人の事情はさまざまであり、親と同居しているから甘えているとか、一人暮らししているから自立しているなどと単純化できるものではない。未婚という状態も、すべてが「結婚したいのにできない」という不本意未婚者ばかりではない。「結婚する意志のない・結婚する必要性を感じない」選択的非婚の人たちも大勢存在する。一人暮らしの快適さを知って選択的未婚になる者も多い。

写真:イメージマート

親元未婚をバッシングしたところで、あるいは、未婚者の趣味をバカにしたところで、婚姻数が増える因果はない。むしろ、結論ありきで、本来の因果とは逆の因果で恣意的にデータを使う方が悪質である。

これに限らず、多くの人がネット上で叩くことの快感に溺れ、その対象を渇望する「生贄ジャンキー」化していることが問題であると思う。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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