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「リユース容器」日本でも続々 プラごみ大国の汚名返上なるか 企業の協力がカギ

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
「Loop」のリユース容器の数々(テラサイクルジャパン提供)

プラスチックごみを大量に排出する「プラごみ大国」の日本で、食品などに使われる使い捨てのプラスチック容器を減らし、代わりに、回収して何度でも使える「リユース容器」を普及させる試みが、にわかに注目を集めている。成功のカギを握るのは企業の協力だ。

イオンなど26社が参加

「これ、片手で持ちながらアイスクリームを食べ続けても手が冷たくならないので、米国では大人気なんです」。米テラサイクルの日本法人テラサイクルジャパンの冨田大介さんは、そう言ってハーゲンダッツのロゴが入った大きめのアイスクリーム容器を見せてくれた。手が冷たくならないのは、魔法瓶のような仕組みを採用しているから。「でも、これはアメリカンサイズ。日本人は一度にこんなにたくさん食べられません」と笑う。

他にも、おしゃれなデザインのガラスやステンレス製の容器が冨田さんの目の前に並ぶ。これらはすべて、テラサイクルが米国で展開する「Loop(ループ)」事業で実際に使用しているリユース容器だ。大きさやデザインがばらばらなのは、事業に参加している企業が、使いやすさやブランドイメージなどを考え、自らデザインを考案しているためだ。

ループは2019年5月に米国とフランスでスタート。2020年7月には英国、今年初めにはカナダでも始まった。日本でも間もなく始まる。すでに、イオンや味の素、キッコーマン、資生堂、ユニ・チャームなど26社が参加を表明している。

デザインや機能を重視

ループは一言で説明すれば、回収して何度でも利用できるリユース容器を使った食品や日用品の専門オンラインストア。消費者が注文した商品は、各企業の倉庫ではなく、ループが管理する倉庫から運び出されて消費者に届けられ、空になった容器はループが委託した運送業者が回収する。回収された容器は専用の施設で洗浄後、各企業の工場に返却され、中身が充填されて、再びループの倉庫に運び込まれる。

イオンの一部実店舗でも販売する。店内に容器の回収ボックスを設置し、次回以降の来店時に、客が自分で返却する仕組みだ。容器が確実に返却されるよう、オンライン、実店舗ともに、客からデポジット(保証金)を徴収する。事業の対象地域は、輸送コストの問題から、当面は東京都内が中心となる。

事業の成否を握るカギの1つは、消費者の関心だ。容器のデザインにこだわるのも、消費者に使ってみたいと思わせるため。冨田さんは「環境意識の高い一部の消費者だけを相手にしていては、事業は広がらないしプラスチックごみも減らない。環境意識がそれほど高くない消費者の利用をいかに増やすか。それには容器のデザインや機能性が重要になってくる」と説明する。

沖縄で実証実験

消費者の関心以上にカギとなるのが、企業の協力だ。商品の種類が少なかったり商品が魅力的でなかったりすれば、利用者は増えない。冨田さんによると、先行する欧米市場では、現時点で合わせて200を超える企業が参加し、取扱商品数は500点以上。日本でも、企業の参加数が事業の成否の分かれ目となる。

リユース容器の普及に取り組む企業は他にもある。電子部品メーカーのNISSHAとNECソリューションイノベータは、昨年12月から今年2月にかけて、沖縄県内で飲食店などの協力を仰ぎ、新事業「Re&Go(リーアンドゴー)」の実証実験をした。

リーアンドゴーは、飲食店が持ち帰り用の飲み物や料理をリユース容器に入れて販売するサービスで、購入した消費者は、空になった容器を購入した店舗やショッピングセンター内などに設置された返却スポットに返却する仕組み。返却スポットの検索や返却の手続きはLINEで行える。Re&Goプロジェクトリーダーの吉村祐一さんは、「実証実験の感触は非常によかった」と話す。

プラごみの半分を占める

リユース容器が注目されている理由の1つは、プラスチック製品の中で生産量、廃棄量ともに最も多い包装容器の使用を減らさなければ、プラごみ問題は解決できないとの認識が世界的に高まっているためだ。

国連環境計画(UNEP)の使い捨てプラスチックに関する報告書によると、世界のプラスチック生産量に占める用途別の割合で最も大きいのは、使い捨てを前提とした包装容器。全体の36%を占め、2位の建設・建築(16%)、3位の繊維(14%)を大きく引き離している。

プラごみに占める割合は47%とさらに高い。日本は、プラスチック包装容器の1人あたり排出量が米国に次いで多く、欧州連合(EU)の平均や中国を上回っている。プラスチック容器の削減は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)重視の経営をうたう多くの日本企業にとっても、無視できない問題だ。

リサイクルの限界

2つめの理由はリサイクル(再生利用)の限界だ。関係者のPRなどもあり、プラスチック容器は効果的にリサイクルされているというイメージが日本では強い。だが、テラサイクルジャパンの冨田さんは「ペットボトルなどほぼ単一素材のプラスチック容器はリサイクルが比較的簡単だが、化粧品の容器やファスナー付きプラスチックバッグなどは様々な素材が使われているものも多いため、リサイクルが簡単でなく、プラごみを減らす手段としては効率が悪い」と話す。

実際、UNEPの報告書によると、世界のプラスチック包装容器ごみのうちリサイクルされているのは、わずか14%。こうした現状を踏まえて報告書は、プラごみ問題解決の手段として最も好ましいのは、プラごみを出さないことだと指摘し、以下、好ましい順に、排出量の最少化、リユース、リサイクル、燃やして発電などに利用する熱回収、埋め立て、そして最後に、管理された保管を挙げている。

ちなみに、日本のプラごみのリサイクル率は86%で海外と比べても高いと説明される場合が多いが、86%の中にはUNEPがリサイクルより好ましくないとしている熱回収がかなり含まれており、実質的なリサイクル率は非常に低い。熱回収は温室効果ガスを発生させるという難点もある。

ドイツなどで急速に普及

欧米では、企業の積極的な協力もあり、使い捨て容器の使用を減らす動きが広がり始めている。ループもそうした動きの1つだ。NISSHAのリーアンドゴー事業も「ドイツの『リカップ』にヒントを得た」と吉村さんは明かす。リカップは2016年にスタートしたサービスで、消費者はカフェで飲み物を買う際、リユース容器を選択できる。サービスに参加している店舗ならどこでも返却できる便利さも受け、吉村さんによると、利用できる店舗は約5000カ所にまで広がっているという。

日本でも、環境意識の高い消費者の間では、使い捨てのコーヒーカップやペットボトルを使わずに、「マイカップ」や「マイボトル」を利用する動きが以前から広がっている。そうした消費者や海外の動きに比べると、日本企業の動きは一部を除いて鈍いとの指摘もある。環境NGOグリーンピース・ジャパンの大舘弘昌さんは、「プラスチックごみ問題の解決には、個々の消費者の意識や努力に頼るだけでは限界があり、企業の協力が欠かせない」と話し、日本企業にリユース市場への積極的な参加を訴えている。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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