「007」公開が延期。ハリウッドにも広がるコロナウィルスの影響
日本全国で卒業式が見送られる中、ダニエル・クレイグもジェームズ・ボンドからの卒業を延期した。コロナウィルスの脅威が拡大し続けるのを受けて、来月に予定されていた「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」の公開が延期になったのである。スタジオとプロデューサーは、ツイッターで「世界的な映画興行市場の状況を査定し、じっくりと考慮した結果」の判断と報告。新たな公開日は11月と発表した。
コロナウィルスの影響でハリウッド映画の公開が延期あるいはキャンセルされるのは、これが初めて。だが、このニュースは決して驚きではなかった。コロナウィルスのせいで映画館が閉鎖されたり、外出を自粛する人が増えたりする中、シリーズのファンの間では、公開延期を望む声が高まっていたのである。そもそも、この映画は、監督の交代で製作開始が延び延びになった経緯があり、ここまで遅れたのだからいっそ正しい時期まで待つべきだというのが、彼らの意見だった。また、この状況下で人がたくさん集まるプレミアを実施することへの疑問の声も聞かれている。
製作側にしても、せっかく大型予算をかけた挙句に、わざわざ誰も映画館に行かない時に出すのは、意味をなさない。ついでに言うなら、今のこの状況ではタイトル自体が悪趣味に聞こえなくもない。また、新たな公開日は、むしろふさわしくもある。「007」は伝統的に11月の公開で、今作も、先に述べた撮影開始前のごたごたがなければ、11月のはずだったのだ。11月後半には、アメリカで感謝祭の4連休があるという点でも、理想的である。
4月10日もまたイースターの週末で、なかなか良い公開日だったことから、「007」が抜けたとたん、そこには「トロールズ ミュージック★パワー」が入ってきた。ドリームワークスアニメーションは、この頃、まだ子供を連れて映画館に行ける状態にあるものと楽観視しているということだろう。一般的に、ハリウッドはまだ様子見モードで、毎年3月末にラスベガスで行われる興行主のコンベンション、シネマコンも、今のところ予定どおり行われる方向だ。また、テキサス州オースティンで毎年3月に行われる映画と音楽のフェスティバル、サウス・バイ・サウスウェスト(SXSW)や、今週始まるニューヨークでのフランス映画祭、ランデブーも、実施される。ただし、シネマコンには中国からの出席がなくなり、SXSWにはアマゾンが、またランデブーにはジュリエット・ビノシュらが参加をやめるなど、コロナウィルスの陰は、確実にある。
ヨーロッパではDisney+がイベントを取りやめ
一方で、ヨーロッパでは、もっと注意深い動きが見られる。たとえば、ディズニーは、現地時間今週木曜日と金曜日にロンドンで開かれる予定だったDisney+の欧州ローンチイベントを、寸前に中止した。スポークスマンが語るところによると、「記者たちのキャンセルが増えたことと、今の状況で国際線に乗ってもらうことの不安」が理由だ。また、今月末のカンヌでのテレビ業界イベントMIP TVもキャンセルされている。カンヌでは初の感染者が出たところで、5月のカンヌ映画祭に関して、映画祭事務局が「2ヶ月半先のことを今から憶測するべきではないが、映画祭に参加される方々の健康を守るため、必要とされる方策を取る方向でいる」と声明を出したばかりだった。
ソニー・ピクチャーズは、ロンドン、パリ、ポーランドのオフィスを今週いっぱい閉鎖した。社内で感染者は出ていないものの、ロンドン支社の社員のひとりが、最近、感染者が多数出ている場所に行った事実を受けての慎重な対応とのことだ。ほかには、今年第1回目を迎えるはずだったサウジアラビアでの映画祭が中止になっている。
イギリスにおける今日までの感染者数は、85人。アメリカでも増え続け、西海岸時間4日には、カリフォルニア州で初の死者が出た。現地時間4日、L.A.群の衛生局は、緊急事態宣言を出している。遠い中国の話だった脅威は、いよいよ身近まで来た。判断を迫られる場は、ハリウッドでも、これからますます増えてくると思われる。