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進撃やまぬ鬼軍曹・永瀬拓矢王座(28)満を持してついにA級昇級決定

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 3月11日。東京・将棋会館においてB級1組最終13回戦▲永瀬拓矢王座(28歳)-△近藤誠也七段(24歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は0時5分に終局。結果は153手で永瀬王座の勝ちとなりました。リーグ成績は、永瀬王座9勝3敗、近藤七段7勝5敗。永瀬王座は上位2枠に入ることが確定し、A級昇級が決まりました。

 永瀬王座は今期で順位戦参加11期目です。

 誰もがその実力を認めるトップ棋士が満を持して、ついにA級入りを果たしました。

永瀬王座、見事な妙手でA級へ

 ▲永瀬王座-△近藤七段戦、戦型は角換わり。永瀬王座は攻めの銀を手早く前線に押し上げる「早繰り銀」を採用しました。近藤七段は腰掛銀から銀矢倉にスイッチして柔らかく受け、銀交換になりました。

 中盤では互いに相手の攻撃陣に成駒を作って開拓していく展開。近藤七段は玉を中段へと押し上げ、入玉模様となりました。

 深夜に入って形勢不明の終盤戦。114手目、近藤七段は玉を五段目に逃げます。結果的にはこの手が疑問だったようです。

 近藤玉は永瀬陣三段目に入り込み、入玉を果たします。そこで121手目、永瀬王座は龍とと金、2枚の駒が利いている一段目に銀を打ちました。これが今期順位戦のフィナーレを飾るにふさわしい妙手。近藤七段はその銀を取れば、自玉が詰んでしまいます。

 11回戦▲山崎隆之八段-△松尾歩八段戦では、山崎八段は最後、自陣にタダで取られるところに金を打って鮮やかに決めました。永瀬王座の銀打ちは、山崎八段の金打ちと対(つい)になるような妙手でした。

 本譜、永瀬王座は相手の大駒(飛角)2枚を取り、全4枚を揃えます。あとは自陣に馬を引きつけ、大駒2枚を捨てて近藤玉を押し戻し、負けない情勢を築きました。

 近藤七段も時間が切迫する中、勝負を捨てずに粘ります。しかし永瀬王座は誤りません。最後は近藤玉を寄せきって、0時5分、見事にA級昇級を決めました。

 すでにA級昇級を決めていた山崎隆之八段は大熱戦の末に、郷田真隆九段い敗れました。その結果、永瀬王座と山崎八段は9勝3敗で並び、順位の差で永瀬王座が1位、山崎八段が2位での昇級と決まりました。

 永瀬王座と昇級を争っていた木村一基九段は深浦康市九段と対戦。この一局が今期順位戦で最後に終わった一局となりました。木村九段は終盤、非勢に陥りながらも百折不撓の精神であきらめず粘ります。そしてついに逆転。0時37分、勝利をあげました。しかし永瀬王座がすでに勝っていたため、次点で昇級には届きませんでした。

 残留争いでは23時48分、阿久津主税八段が勝ち星をあげて5勝7敗に。自らの勝利で残留を勝ち取りました。

 また阿久津八段が勝った瞬間、B級2組への降級者も決定。丸山忠久九段に続いて行方尚史九段、深浦康市九段が無念の陥落となりました。

 第79期順位戦は、これにて全日程が終了しました。「鬼のすみか」と呼ばれるB級1組にはいよいよ来期、名人候補・藤井聡太二冠が上がってきます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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