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新卒の方へ送る、これからのキャリアの築き方

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 今回は春らしく前向きなお話を。今年新たに社会人となった方やキャリアが浅い方に向けて、今後の雇用社会においてどのようなキャリアを築いて行くべきか、をテーマにしたいと思います。

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1 日本型雇用におけるキャリアとは?

 これまでの時代は会社主導型のキャリアでした。

 最近は大学でもキャリア教育などを行っており、「自分のキャリアは自分で築くべき」という話を聞いたことがあるかもしれません。しかし、ほんの10数年前までは、日本においてそのような考え方はほぼありませんでした。自分がどのように働いていくかは、「会社任せ」にする以外の選択肢を持たない人が、圧倒的に多かったのです。

 これまで日本企業では、正社員は新卒一括採用を行い、全国規模の配転・職種変更により様々なキャリアを経験させ、ゼネラリストとして全員幹部候補へというジョブローテーションによる育成方式を採用してきました。

 そもそも、日本型雇用における正社員は定年までの超長期契約として安定を得る代わりに、企業側に広い人事権が認められます(海外では定年までの雇用保障など無く、解雇されるリスクがある代わりに、仕事や職場の変更も勝手にはできないという雇用契約が多く見られます)。

 つまり、個人のキャリア形成は会社の人事権に委ねられ、行われてきたというわけです。

 そもそもこのような雇用慣行となったのは、高度経済成長期における右肩上がりの経済成長において、定年まで勤め上げることが当然であったこ上に、日本企業も体力があるので、従業員は原則として会社の指示に従ってさえいれば、雇用不安がなく、出世がかなわず幹部になれなかった人にも、何らかの形で定年まで仕事を用意してきたことによるものです。

 また、極端な話、その人に任せられる仕事がなくても、ただ会社に来ているだけで給与を保障する覚悟がありました。そして、定年後は退職金を得て、以後は余生を過ごすというライフプランが当たり前だったのです。

2 これからのキャリアの考え方

 

 しかし、これからの時代は個人が自らのキャリアを考えなければならない時代です。バブル崩壊、リーマンショックなどを経て、大企業でも今後10年・20年先にどのような形で存在しているかは誰にもわからない時代に突入しました。そして、2000年以降、日本企業は人件費削減策を実施したことにより、多くの会社では全ての従業員について時間を掛けて行き届いたキャリア形成をする余裕が無くなっています。

 会社に勤めていれば、望まぬ配置転換や職種転換の命令がされることも多くあるでしょう。それは、意に沿わぬ人事に耐える代わりに得るものが過去にはあったからです。つまり、会社がキャリア形成の責任を負っており、定年までその人の仕事と生活について責任を持つからこそ、耐える意味があったのです。

 現代では大企業でもリストラが常態化し、不採算部門は閉鎖されたり売却されたりするなど、素直に会社の指示に従っていたとしても定年までの雇用保障は確実ではないので、その前提が崩れています。

 そうだとすれば、これからの時代は、配置転換・転勤などについて会社の指示に従っていれば報われるかどうかは分かりません。その時、「この配置転換は自分のキャリアにとって意味があるものか」と自ら問う姿勢、つまり「自分のキャリアは自分で築く」という視点が、必要不可欠になるのです。

 これは自分の希望部署に就けなければ辞めればいいという単純な話をしているのではありません。最初は目の前の仕事に集中し、その後は周辺領域の仕事を増やして行き、何かの分野の専門家になっていき、時代の変化とともに、その時必要なスキルを自分で判断して仕事をしていくということです。

3 逃げるべき場合もある

 また、新卒の人に「3年は辞めるな」と言う人がいます。しかし、この言葉は半分正解で半分間違っています。もちろん、「なんとなく思い通りにいかない」から辞めるという程度では転職後も仕事がうまくいかない可能性があります。しかし、ハラスメントや極度の長時間労働、人間関係上の悩みなどがある場合、その会社に居続けることを選択する必要は、もはやありません。3年程度で離職してしまうと、その後の転職に不利になるという考えもありますが、このような考え方の根底にあるのは、一つの会社で定年まで働き続けることが素晴らしいという価値観です。

 命の危険を感じたら迷わず逃げましょう。

4 そこに居続ける意味はあるか、を考える

 しかも、今は筆者の時代のように就職氷河期ではなく、圧倒的な人手不足で、第二新卒など転職先は豊富にあります。正社員のレールから一度外れたら終わりという考え方は、古いものになっていると言っていいでしょう。大きい会社にいても冷遇されたり、期待されていなかったりするのであればそこに居続ける意味はあるのでしょうか。

 迷った時はまずは今の会社でできる限りのことをやって見る、特にできる限りの対話をしましょう。自分の意見は明確に述べないと伝わりません。以心伝心は無いのです。そして、組織との対話を続け、方々手を尽くして希望が叶わないとなれば離れることも検討しましょう。

 筆者としても、何の考えもなしに辞めていいというつもりはありません。しかし、「いつでも辞めて構わない」という姿勢で働いているのか、「会社にしがみついている」のかでは毎日の過ごし方に大いなる差が生じます。そして、好きなことを見つけたら、覚悟を決めて10年頑張るとよいと思います。

5 社外に目を向ける

 また、社内の人間関係しかないと発想の幅も狭まりますので、社外での交流も重要になります。業界も全く異なる人が集まるイベント、サークルなど「○○株式会社の○○部」という肩書きを捨てて、「裸の自分」として交流できる場所は重要です。

 例えば、筆者は弁護士業務以外に多様な企業の人事担当者が集まる日本人材マネジメント協会(JSHRM)という組織に属しており、以前はスピーチ力とリーダーシップを鍛えるNPOの「トーストマスターズクラブ」に所属していました。

 いずれも社外の方との交流が多いので、見識も広がりますし、社内でストレスがある場合にも発散の場となります。このような自宅でも会社でもない、サードプレイスを作ることを意識し「2枚目の名刺」を持つようなキャリアが形成出来れば、将来的には自分にとってもプラスになるでしょう。

6 これからのプロフェッショナル人材を考える

 さらに、「キャリアを考える」中では、これまでの延長線上で思考していてはうまくいかないでしょう。先輩の武勇伝は現代では通用しない可能性が高いです。特に今後は、AI・テクノロジーが仕事のあり方を変えていきます。その時、「20年、30年先残る仕事とは何か」を意識しながら仕事をすべきです。単純作業はAI・ロボティクスに代替されるでしょうがクリエイティブな仕事はそうそう無くなりません。

 これからの時代は、会社が定年まで面倒を見てくれる保証がないからこそ、個人としてプロフェッショナルな人材となり、むしろ自己のスキルにより会社と年俸交渉ができる人材になることを目指すべきだと思います。

 日々の業務に少しだけ、「今後のキャリア」という視点を入れておくと、きっと将来が変わると思います。皆様のキャリアが輝かしいものになることを祈っています。

7 おまけ

 最後に、新卒配属において人事や法務などの間接部門になり気落ちしている方は居ませんか?希望の部署に配属されなかった、華のある現場や営業担当の方が良かったなど様々な想いがそこにはあることでしょう。

 しかし、実は人事や法務は、どこの会社に行っても通用する汎用性の高いスキルが身につきやすい職種で、転職市場において有利です。

 また、仕事の魅力という意味でも、人事は会社の制度をデザインするクリエイティブな仕事であり、極めて創造的です。単に給与計算やタイムカードをチェックする仕事ではありません。法務は戦略的に法的リスクを低減させ、ビジネスモデル構築の一翼を担う創造的な仕事であり、単に契約書をチェックするだけの仕事ではありません。

 

 改めて本年度入社の皆様、頑張ってください!

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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