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育成年代の飛躍が明るく照らす日本女子サッカーの未来。国内リーグのレベルアップがもたらす相乗効果も

松原渓スポーツジャーナリスト
U-19女子代表はWEリーグで活躍する選手も多い

【U-20/U-17W杯でのダブル優勝を目指して】

 なでしこジャパンの妹分にあたるU-19女子代表とU-16女子代表が、4年ぶりのW杯に向けてチーム作りを本格化させている。

 U-19代表は来年8月のFIFA U-20W杯(コスタリカ)、U-16代表は来年10月のFIFA U-17女子W杯(インド)を目標として、今春から国内合宿を重ねてきた。

 とりわけ育成年代の選手たちは学生でもあるため、海外遠征は(帰国後の隔離措置があるなどの理由で)まだ難しい状況だ。その点は、プロ選手主体のなでしこジャパンとは異なる難しさがあるというが、U-16女子代表を率いる狩野倫久(かのう・みちひさ)監督は、限られた環境下でも「できる準備をしていきたい」と語る。

「(開催国の)インドで、使えるはずの練習場が使えなくなるなどの(アクシデントが起きる)可能性もある中で、選手たちにストレスなくサッカーに集中してもらうためにも、事前に合宿を行って経験するのが一番ですが、(行けない場合を考えて)いろいろなシミュレーションをしていこうと検討しています」

 合宿では単に選手を集め、寝食をともにすることだけを目的にはしていない。狩野監督は選手やチームに様々な角度から成長のためのアプローチを仕掛けて、個々の自主性を引き出しながら、グループとしてのチャレンジを促している。

 日本は世代別代表のW杯ではコンスタントに上位に進出しており、U-20W杯は2010年以降、優勝1回、3位が2回。U-17W杯は優勝1回、準優勝2回の実績がある。

 だがその一方で、トップのなでしこジャパンは2015年のW杯の準優勝を最後に5年以上決勝の舞台から遠ざかっており、レベルアップを続ける欧米の強豪国に苦戦を強いられ続けている。それだけに欧米各国に追随していくためにも、戦術面や技術面に加え、個のレベルアップが育成年代からの一貫したテーマとなっている。

 多くの指導者や元代表選手たちが口を揃えるのは、なでしこジャパンがW杯で優勝した10年前に比べて、「選手たちのテクニック(ボールコントロールスキル)は確実に向上している」ということだ。データを駆使したトレーニングの進化や、指導者による技術面のアプローチの多様化などが、その理由として考えられる。

 一方、「日本人選手はフィジカルでは欧米の選手に劣る」というイメージが根強い中で、海外勢に見劣りしない身体能力を持つ選手たちが世代別代表から頭角をあらわしていることは、意外と知られていないのではないだろうか。

 11月上旬に行われたU-16代表の国内合宿では、参加者28名の半数である14名が160cm台後半から170cm台の高身長選手だった。平均値は164cmで、同年代のアメリカ(162.5cm)やイギリス(163.4cm)の一般女性の平均身長より高サイズとなる。(参照元)。

 狩野監督は、代表チームの長年のフィジカルデータに基づいた分析から、「背が高いというだけでなく、足元の技術や体の操作に加えて判断の要素など、サッカーのベースとなる部分は上がっていると言えるかもしれません」と、選手の平均身長や運動能力が上がっていることを示唆。また、その強みを実戦の中で磨く大切さを強調した。

「身体的な強さや速さは、世界的に見ればまだ(強豪国との)差はありますが、サッカーは『せーの』で(同時に)飛ぶわけではないですから。競うときに相手を自由にさせないために、先に飛ぶとか体をぶつけるといった知恵や生きた教材を、若い年代でも日常のリーグで実践できるようになりつつあります」

 実際、WEリーグが発足し、プロ選手が増えたことは、国内リーグのプレースピードや強度の向上を促し、育成年代の選手たちにも好影響を及ぼしている。特にU-19代表の年代は、WEリーグで試合に出ている選手もいて、狩野監督が言う「生きた教材」から学べる機会が多い。

 国内リーグで確かな土台を築き、“世界を”目指す。地道ながらギラギラした野心を持ち、トップリーグで心・技・体を磨く若い選手たちの台頭は頼もしい。

 U-19代表は、10月になでしこジャパンを引き継いだ池田太(いけだ・ふとし)監督が兼任しているが、池田監督は、なでしこジャパンや狩野監督率いるU-17代表とも緊密に連携し、「オールジャパンで世界一を獲りに行く」ことを掲げている。

 11月15日から4日間、Jヴィレッジ(福島県)で行われたU-19代表の合宿では、「W杯で戦うための世界への意識づけ」をテーマに、守備のトレーニングを集中的に行っていた。球際では、対峙する相手に対して「もう一歩寄せる」「前を向かせない」ことなどを徹底し、練習から試合同様の高い強度でアプローチの意識を高めていた。

 3日目に行われた東日本国際大学附属昌平高校(男子)とのトレーニングマッチでは、2-0で快勝。選手間のコミュニケーションは活発で、チームとしての積み上げが感じられた。

 池田監督が「最終ラインを突破するところの最後の質やコンビネーションはもっともっと高めていきたい」と語ったように、攻撃面はこれから細部まできめ細かく詰めていくことになるのだろう。

【WEリーグを彩る若手選手たち】

 どんなチームに仕上がるか今から楽しみでもあるが、ここではWEリーグで活躍するU-19代表から、旬の注目選手を挙げたい。

 ちふれASエルフェン埼玉の攻撃の核として活躍するMF吉田莉胡(よしだ・りこ)は、スピードに乗ったドリブルや豊富な運動量で90分間、ところ狭しと駆け抜けるサイドアタッカーだ。第9節終了時点で、エルフェンでは中盤の格となるボランチのMF瀬戸口梢に次ぐ出場時間を得ており、11月7日の第8節では自身2点目のゴールが決勝弾となり、チームの初勝利に貢献した。

吉田莉胡
吉田莉胡

「サッカーをやっている以上、一番の目標は代表に関わることだと思ってきました」と語る吉田にとって、所属チームでFW荒川恵理子やMF山本絵美など、なでしこジャパンで実績のある選手たちから学ぶことも多いのだろう。語り口は穏やかだが、プレーはとにかくアグレッシブだ。

 好きな選手にはマンチェスター・シティのMFケヴィン・デ・ブライネを挙げており、「ポジションに囚われずにサイドから鋭いクロスをあげたり、オールマイティにこなすところを参考にしています」と、イメージトレーニングも欠かさない。

 開幕9連勝で首位を快走しているINAC神戸レオネッサのDF長江伊吹(ながえ・いぶき)は、U-19代表の核となる選手の一人だ。全国屈指の名門校である藤枝順心高校で主将を務め全国優勝に導いた経験を持つ長江は、各年代の代表で活躍し、前回のU-19代表にも飛び級で入っていた。

 鋭い予測を生かしたプレーが魅力で、本職はセンターバックやサイドバックだが、今季、INACではアタッカーとして起用されることも。前線からの守備力で勝利に貢献し、新境地を開いている。

長江伊吹
長江伊吹

 9試合無失点の堅守を誇るINACの守備について、「少し右、とか、もう少し絞って、とか、言葉一つかければ奪えるところも逃してしまうことがあるのでコミュニケーションの大切さを感じます」と語っており、日々の練習で受ける刺激が自身の成長につながっていると実感しているようだ。

 U-19代表ではセンターバックでプレーしており、「1対1でも強みを出していきたい」と言う。トレーニングマッチでは最終ラインからだけでなく、ベンチにいるときも率先して声を出してチームを盛り上げるなど、そのリーダーシップにも期待が高まる。

 そのほか、FW陣では三菱重工浦和レッズレディースのFWで、力強いポストプレーや高いシュート技術を見せるFW島田芽依や、飛び級で出場したAFC U-19女子選手権で5ゴールを挙げて優勝に貢献したFW山本柚月(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)。ディフェンダーでは、JFAアカデミー所属ながら浦和に特別指定選手として加わったDF石川璃音(いしかわ・りおん)の存在感も光る。172cmの高さやパワーは魅力で、身体能力の高い新世代を象徴するセンターバックの一人だ。

石川璃音
石川璃音

 育成に力を入れてきたことで、日本女子サッカー界では最近は次々と若き才能が芽を出している。それだけに、昨年予定されていたU-20W杯とU-17W杯がコロナ禍で中止になってしまったことは残念だった。

 4年ぶりの開催となる次の大会が無事に開催されることを祈りつつ、両代表のW杯への道のりを見守っていきたい。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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