Yahoo!ニュース

伝統あるリーグが完全消滅!マイナーリーグを完全掌握したMLBの狙い

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
マイナーリーグの完全掌握化に成功したMLBのマンフレッド・コミッショナー(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【MLBがマイナーリーグ新体制を発表】

 MLBは現地時間の2月12日、2021年シーズンから新たに導入されることになったマイナーリーグ新体制の概要を発表した。

 今シーズンからMLBが直接統轄することになった同リーグは、昨シーズンまでの180チーム制から60チーム削減し120チーム制となり、これまで各クラスで複数リーグ制をとっていたものを、1リーグに統轄し地区制に変更されている。

 例えば昨シーズンまでの3Aは、インターナショナル・リーグとパシフィックコースト・リーグの2リーグ制を採用していたが、今シーズンから3Aをまず大きく東と西に分け、さらに東を北東部、中西部、南東部の3つに、そして西を東部、西部と、計5地区に分けている。

 下部クラスの2A、1A(上部と下部の2リーグ)も同様で、これまで各クラス内のリーグごとに任されていた運営を、MLBが一括で統轄するシステムになっている。

 ちなみにインターナショナル・リーグは1884年に設立され、一時はカナダやキューバのチームを抱えるなどした歴史を誇り、パシフィックコースト・リーグも1903年に誕生した伝統あるリーグだ。こうしたリーグが消滅してしまったことに、寂しさを覚えるファンも少なくないはずだ。

【MLBの一括統轄で待遇改善と効率化】

 MLBの一括統轄でマイナーリーグが変化したのは、体制だけではない。これを機に、様々な効率化と選手やチームスタッフの待遇改善も図られている。

 まずMLBが明らかにしたところでは、これまでMLB昇格経験のないマイナー選手たちのサラリーはかなり低額に抑えられていたが、これを38~72%まで昇給させる方針を打ち出している。

 またMLBは、マイナーリーグを一括統轄するに当たり、マイナーリーグに所属していた各チームに審査基準を設定し、それに同意し、基準をクリアしたチームとのみライセンス契約を結び、改めてマイナーリーグに迎え入れるかたちをとっている。

 その審査基準の中に、「プロアスリートが満足に使用できる最新設備が揃った施設」「選手やスタッフが快適に過ごせるアメニティの充実」が入っており、各チームは抜本的な球場施設の整備を受け入れているのだ。

【3Aの3チームが下部リーグに格下げ】

 さらに審査基準には「選手やスタッフの遠征の削減」「地理的に効果的なチーム振り分け」も加えられたことで、体制変更ととともに大幅なチームの入れ替えも断行されている。

 例えば3Aの30チームは、提携するMLBチームの本拠地から200マイル圏内に入るように配置され、ツインズ傘下のセントポール・セインツとアストロズ傘下のシュガーランド・スキーターズは独立リーグから、またマーリンズ傘下のジャクソンビル・ジャンボシュリンプは2Aから新規参入している。

 そのため昨シーズンまで3Aに所属していたサンアントニオ・ミッションズとウィチタ・ウィンドサージは2Aへ、またフレズノ・グリズリーズは(1A)下部に降格させられている。

【独立リーグとも提携し包括的な若手選手育成を】

 またこれら120チームによるマイナーリーグの他に、独立リーグとも提携し、米国内に包括的な若手選手育成体制を作り上げようとしている。

 まずマイナーリーグとは別枠で、キャンプ施設で実施される「コンプレックスリーグ(従来のルーキーリーグ)」を設定。さらに「アメリカン・アソシエーション」「アトランティック・リーグ」「フロンティア・リーグ」「パイオニア・リーグ」の4つの独立リーグともパートナーシップ関係を締結した。

 これらすべてを合わせると、米国内に19リーグ、209チームのプロ組織体制が構築され、幅広く若手選手を受け入れようとしている。

【MLBに権力が集中した背景】

 ちなみに昨シーズンまでは、MLBとマイナーリーグという2つの組織が業務提携契約を結び、MLB側から選手やスタッフを派遣し、マイナーリーグがリーグ運営を担ってきた。

 ところが昨シーズンで契約期限が終了するため、傘下チーム数を削減したいMLBとマイナーリーグの間で契約更新に向けた協議が続けられていたが、最終的に合意に至らず。そのためMLBはマイナーリーグとの関係解消に踏みきり、MLB内にマイナーリーグ運営担当部を立ち上げ、自ら統轄していく道を選び、今日に至ったというわけだ。

 今回明らかになった新体制を見ても、MLBの狙い通りにマイナーリーグが効率化したのは間違いないところだ。だがその一方で、独立リーグを含めた米国のプロ野球界がMLBに完全掌握されたともいえる。

 何事においてもそうだが、権力が集中するのは良いことばかりではない。多少の不安を感じるのは自分だけなのだろうか…。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事