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千葉大は弱くない、じゃない、強い!~風評被害を志願動向・就活で検証

石渡嶺司大学ジャーナリスト

記事の前にいまだに続く卒業保留処分の是非について

寺内容疑者による埼玉少女誘拐監禁事件が段々と明らかになりつつあります。

一方で、千葉大の卒業留保処分を巡ってはいまだに議論が続いています。

議論も何も、過去の学生による不祥事を考えれば、「卒業保留→取り消し・放校処分」という流れは自然なはずです。

私が前記事「千葉大の卒業留保が正しく、容疑者の企業選びが謎な件」で藤代裕之・法政大准教授の誤解を指摘しました。

私だけでなく、碓井真史・新潟青陵大教授も3度にわたり記事にされています。

2016年4月8日現在の最新→

「千葉大の卒業保留処分に学内専門家から違法性の指摘」は誤解:誘拐監禁事件で傷つく人々を守るための再考

藤代准教授はYahoo!JAPANのメディア化・ステートメントについても記事にされるなどメディア論に造詣深い方です。

いずれご自身の記事の是非についても明らかにしていただけるものと期待していますが、それは今回の本題ではありません。

今回のテーマは「大学・学生の不祥事が志願者動向・就活に影響あるか」。

なんかもう結論が明らかなような気もするのですが、気にする千葉大生も多いようなので。

夕刊フジが風評被害について記事化

どこかが風評被害について記事にするかな、と思っていたら夕刊フジが記事にしていました。

少女監禁 千葉大“大打撃”…イメージ悪化、就活“風評被害”心配の声

「大学通信」の安田賢治ゼネラルマネジャーは「大学に対するイメージが低下するのはもちろん、現在、就職活動をしている学生たちに対しても影響はゼロではないはずだ。特に寺内容疑者と同じ工学部の学生は、採用側でヘンな噂が立たないともかぎらない」と危惧する。

千葉大をめぐっては07年に英国人女性が、園芸学部の卒業生に殺害される事件が発生。犯人である市橋達也受刑者=2審で無期懲役が確定=は2年以上も逃亡を続けたことから事件は国民的関心を呼んだ。寺内容疑者の逮捕を受け、インターネット上では「千葉大学、とんだとばっちりだなあ…」との声もあがっている。

安田氏は「15年度の大学受験で、千葉大は国立大志願者数第1位だった。この4月からは国立大で初めて『国際教養学部』を新設するなど、力を入れている。今後の志願者数に影響を与えることはあまりないだろうが、事件が大学の活気に水を差しているのは間違いない」と話す。

2度あることは3度ある…とならないことを祈りたい。

過去の大学不祥事と志願動向の影響は?

だったら、検証してみよう、ということでまずは過去の大学不祥事(学生が関与)と志願動向について。

主なものとして、以下の3事件の前後を比較しました。

1975年・東京女子大学教授凌辱事件

事件概要:男性教員のマンションにて男性教員2人・女性大学院生2人が酒を飲みつつ歓談。女性1人が酔ったところ、男性教員が凌辱。3か月後に女性側が告訴。男性教員2人は辞職するが虚偽告訴で逆告訴。泥仕合となるも、結局、双方が不起訴。

1975年度受験者数 3260人 競争倍率 2.6倍

1976年度受験者数 3396人 競争倍率 3.2倍

2003年・スーパーフリー事件

事件概要:早稲田大生らによるサークル・スーパーフリーによる集団レイプ事件。代表は早稲田大政治経済学部に入学・除籍後、第二文学部に再入学。副代表は早稲田大教育学部。他、慶応義塾大商学部、東京大農学部、学習院大、日本大などの学生が逮捕。実刑判決を受ける。

2003年

政治経済学部 9831人 9.4倍

教育学部 14606人 7.0倍

2004年

政治経済学部 9462人 7.7倍

教育学部 12804人 6.6倍

2005年

政治経済学部 8558人 8.5倍

教育学部 12698人 6.3倍

2005年・同志社大学塾講師小6女子刺殺事件

事件概要:同志社大法学部生が塾講師のアルバイトをしていた。その教え子である小6女子児童を教室内で刺殺。

2005年

同志社大全体 38271人 2.9倍

同志社大法学部 6587人 3.7倍

2007年

同志社大全体 45134人 3.3倍(前年3.0倍)

同志社大法学部 6308人 3.6倍(前年3.3倍)

※事件発生が2005年12月だったので、2005年・2007年で比較

志願動向はほぼ影響なし

結論、それほど影響していません。

というか、むしろ、微増すらしています。

1975年の東京女子大事件は、週刊誌で「夜の桃色講座」と取り上げられたり、被害者女性の実名が出たり、男性教員擁護派と批判派が持論をぶつけ合うなどしました。

スーパーフリー事件、塾講師女児刺殺事件や今回の埼玉少女誘拐事件にも匹敵するほど注目されていたはずなのですが、結果は微増。

これは大学の規模と、不祥事であっても大学全体は特に関係ない、ということが影響しています。

大学が深くかかわった事件であれば、志願者動向にも大きな影響が出て当然です。

が、学生もしくは一部教員による不祥事であれば、あくまでも一部の話で合って大学全体は特に関係ありません。

もちろん、事件が再発しないような対応は求められますが、それはまた別の話。

2003年サンデー毎日の検証記事でも結果は同じ

スーパーフリー事件を受けてか、サンデー毎日2003年8月17日・24日合併号に「モラル低下が大学の命運を握る」が掲載されました。

大学でのスキャンダルが志願動向に及ぼした影響をまとめた記事です。

今のところ、大学スキャンダルと志願動向を関連付けた記事はこれしかありません。

ま、こんな面倒なこと、やれるのはサンデー毎日や週刊朝日など学歴ネタをがっちりやれる週刊誌が多くない、というのと、結論が見えているというのもあるかもしれません。

この記事では、1999年から2003年にかけての不祥事をまとめ、志願動向でどんな影響が出たかをまとめています。

しかし、こちらも志願動向はそれほど影響が出ていません。

国士館大の剣道部寮・ヤキ入れ暴行事件(1999年9月/17108人→2000年・11512人)と高岡商科大の成績改ざん・不正入試事件(1999年8月/351人→2000年・非公表)くらいでしょうか。

記事にはこうあります。

これを見ると、事件が公になった後も、大半の大学では同程度の受験生を集めている。志願者数の増減にはさまざまな要素が含まれるので、事件との関係は必ずしも明らかではないが、目に見えた人気下落には直結しないようだ。

これは今回の千葉大にも当てはまるでしょう。

受験生・高校側からすれば、大学全体が組織ぐるみで不正などに関わっていれば敬遠しよう、ということになります。

実際、群馬県の創造学園大学は理事長が尺八を演奏しただけで単位を認定するなど教育そのものが崩壊。県教育委員会が県内の公立高校へ、生徒が志望しないよう指示する文書を出すなどしました。

それもあって、ついには廃校に至っています。

一方、学生の一部(または教員の一部)による不祥事であれば、受験生からすれば、志望校から外す積極的な理由にはなりません。

では就活は?

それでは就活は、と言えば、これも大きな影響はありません。

これも、志願動向と同じです。

大学が組織ぐるみで関わるスキャンダル、たとえば、授業成績の改ざんなどがあれば、気にする企業はあるでしょう。

授業成績を採用につなげる動きもありますし、理工系はもともと勉強・研究が第一。

そこに不備があれば、やめよう、と企業側が考えるのは合理的です。

しかし、今回の事件のような学生の一部による不祥事だとどうでしょうか。

大学全体の権威に傷ついたことはいうまでもありません。

が、個別の企業からすれば、大多数の千葉大生に対しては、

「なんか色々大変だね」

で、おしまいです。

それすら言わずに気にしない企業も多いはず。

不祥事に積極的に関与していたならまだしも、そうでなければ、千葉大生を敬遠しなければならない合理性がありません。

その企業が欲しいと考える基準に到達していれば、内定を出すのが当然です。

「寺内容疑者と同じ大学だから」という理由だけで評価を下げるのはまずあり得ない話です。

不祥事で就活実績は変わる?

という話をしても、心配な千葉大生もいるでしょう。

志願動向と異なり、就活実績はデータがあまりありません。

あえて、ということで、『大学ランキング』(朝日新聞出版)の学部別就職実績から、スーパーフリー事件の主犯である早稲田大政治経済学部と教育学部について、2003年・2004年(事件発覚後)を比較してみました。

早稲田大政治経済学部

2003年卒

みずほフィナンシャルグループ 21 NHK 18 大和証券グループ12 東京三菱銀行11 NEC 11 日本生命10 NTTデータ9 日本経済新聞社7 毎日新聞社7 日立製作所7

2004年卒(事件発覚後)

みずほフィナンシャルグループ 18 東京三菱銀行13 国家公務員1種13 東京海上火災11 NHK 11 NTTデータ11 富士通10 大和証券グループ本社10 日本生命10 三菱商事8

早稲田大教育学部

2003年卒

富士通8 安田生命7 国家公務員2種 7 大日本印刷6 野村総合研究所5 CSK5 NTTデータ5 日立製作所5 国家公務員1種 4 サントリー4

2004年卒(事件発覚後)

日立製作所7 NHK6 三井住友銀行6 NEC6 国家公務員2種6 みずほフィナンシャルグループ6 東京三菱銀行5 NECソフト5 富士通4

企業名の入れ替えこそありますが、あまり大きく変わらないと思う方が大半のはず。

ネットであれこれ言われるほど、影響はない、と断言できます。

夕刊フジ記事のコメントは一体?

では、先にご紹介した夕刊フジの識者コメントが間違っているか、と言えばそうではありません。

これは推測ですが、このコメントを出した大学通信の安田さんは大学業界に詳しい方ですし、就活への影響もほとんどないことをご存じのはずです。

にもかかわらず、

「影響はゼロではないはずだ。特に寺内容疑者と同じ工学部の学生は、採用側でヘンな噂が立たないともかぎらない」

とのコメントになっているのは、マスコミの仕様、というものです。

おそらく、私でも他の方でも似たようなコメントになっているはず。

私なら、先に上げたようなデータを延々と出したうえで、

「それでも、採用担当者も千差万別ですし、こう言ってはなんですが、優秀ならざる方もいます。学生の本質よりも、見た目とか風評を最優先する方もゼロではありません。そのあたりを考えると、影響がゼロ、というのもちょっとウソでしょうね」

くらいは話します。

長い前提条件付きの

「影響があります」

と、何の前提条件もない、

「影響があります」

では、大きな違いがあります。

おそらく、夕刊フジのコメントもそういうものでしょう。

繰り返しますが、あれだけの大事件ですから、影響がゼロ、というのはさすがにウソです。

とは言え、大半の企業は事件の有無とは無関係に採用を進めます。

完璧さを求めないこと

「でも、影響がゼロでない、ということはやっぱりあるんですよね」

こういうことを言い出す千葉大生がいるかもしれません。

だからね、ゼロかゼロでないか、と言えばゼロではないわけですよ。

ゼロではないですけど、それは大勢からすれば誤差の範囲内で実質的にはゼロに近いわけです。

千葉大では2009年にキャリア講演をしたことがあります。そのときに気になったのが、些細なことまで気にしすぎる学生です。

これは千葉大だけでなく、難関国公立大ではそこそこいます。

優秀だからこそかもしれませんが、やるだけやってダメならダメでまた考えればいいのに、と思います。

千葉大は大丈夫

そもそもネット、特に匿名性に逃げ込めるメディアでは、あれこれ言いやすいわけです。

そこを千葉大生が気にしても、くだらない書き込みが消えるわけではありません。

今回の事件による風評被害は学生にとっては気の毒な話です。

が、現実問題としては影響がほとんど考えられないことは先に示した通りです。

安心してください、千葉大は大丈夫ですから。

そうお伝えして、本稿を終わるとします。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計33冊・66万部。 2024年7月に『夢も金もない高校生が知ると得する進路ガイド』を刊行予定。

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