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杉 真理 提供曲は300曲以上、“ミスター・メロディー”の流儀「わかりやすくてでも誰とも違うものを」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

300曲以上の提供曲から杉自身が116曲をセレクトした『Mr. Melody~杉 真理提供曲集~』

イラストジャケット/赤川芳之
イラストジャケット/赤川芳之

杉 真理が45周年を迎えた。シンガー・ソングライターとしてアルバムを20作以上リリースし、同時にBOXやPiccadilly Circusといったユニット/バンド、須藤薫とのデュオ名義などでも数多くの作品を発表している。また「ウイスキーが、お好きでしょ」(石川さゆり)を始め、数多くのアーティストに楽曲を提供するソングライターとしても大活躍しており、そんな杉の作品集『Mr. Melody~杉 真理提供曲集~』(6枚組CDBOX)が11月23日に発売され、話題を集めている。

300曲以上の提供曲の中から116曲を杉がセレクト。稲垣潤一、Wink、岡田有希子、榊原郁恵、須藤薫、竹内まりや、ハイ・ファイ・セット、中村雅俊、早見優、松田聖子、松原みき、森山良子、山口百恵、由紀さおり等82組のアーティストの楽曲が収録されている。この作品について杉にインタビュー。メロディーメーカーの仕事の流儀を聞かせてもらった。

提供曲のファン投票1位はハイ・ファイ・セット「素直になりたい」

この作品の発売にあたり、エンタメサイト「otonano」内の「杉真理デビュー45周年スペシャルサイト」では『あなたの好きな杉真理提供曲』を募集し、選曲の際の参考にした。1位「素直になりたい」(ハイ・ファイ・セット)、2位「パラソルと約束」(SAYAKA)、3位「雨のリゾート」(松田聖子)という結果だったが(サイト内で20位まで発表)、この結果を見ての感想から聞いた。

「1位は『ウイスキーが、お好きでしょ』じゃないんだ、意外とマニアックな人が多いなと思いました(笑)。でも『素直になりたい』が1位というは嬉しい。SAYAKAさんの『パラソルと約束』は未発表曲で、今回が初CD化です。CMを見たことがある人は、そこで使われた部分しか聴いたことがないと思うので、期待値も含めて投票してくれたのだと思います。この曲を世の中に出すことができてよかったです」。

「自分への曲と楽曲提供、両方をやってきたからこそ、今まで続けることができたのかもしれない」

これまで600曲を越える作品を世の中に発表し、うち、他のアーティストへ300曲以上提供している。シンガー・ソングライターとして、そしてメロディーメーカーとして、楽曲作りという点において、それぞれどんな向き合い方をしてきたのだろうか。

「自分で歌う曲を書く時は、何かメッセージを入れた方がいいのかなとか、余計なことを考えてしまいがちですが、人に書く時はもちろん制約もあるけど、自由にやれるというか。制約がある中で曲を作って、それをボツにするのは向こうの人がやってくれればよくて。ところが自分用の曲はボツにするのは自分で、そこが違うところで、ある意味チャレンジができます。大変な部分もありましたが、『このやり方ありなんだ』ということが、結局自分に返ってきてそれが引き出しになるので、両方やったからこそ今まで続けることができたのかもしれません」。

「洋楽ばかり聴いて日本の音楽は通ってこなかったはず。でも歌謡曲が自然と自分の中に入ってきていました」

杉は1960~1970年代の洋楽ポップスの影響を大きく受けており、特にビートルズフリークとして有名だ。当時の日本の音楽は聴いてこなかったが、杉が生み出すメロディーには知らず知らずのうちにその成分が溶け込んでいたという。

「両親もあまり歌謡曲を聴いてなかったので、どちらかというと洋楽を日本語詞でカバーしたものや映画音楽をよく聴いていました。でもテレビやラジオをつければ歌謡曲が流れていたので、自分は日本の音楽を通ってきていないつもりでしたが、結構入ってきていて、それが意外とタメになっていたと思います。でもシンガー・ソングライターに主軸を置く僕としては、向かってはいけない“方向”でした。当時の歌謡曲をはじめ、日本の音楽に感じる“湿度”がどうも苦手でした。今はあの湿度がいいなと思いますが、例えば僕の周りの洋楽志向のアーティストも、一回ちょっと歌謡曲っぽい曲をやって、それが売れたりすると“そっち側”の人になってしまうこともありました。だから歌謡曲のパワーってすごいなって思っていたから、余計にそこから離れようとしていました」。

「大切なことは全てビートルズが教えてくれた」

杉が作る楽曲は、どの作品にも洗練されたポップスセンスが散りばめられており、その人懐っこいメロディーは自身の曲でも提供曲でも変わらず輝きを放っている。数多い提供曲の中で、ソングライターとして自身の中で大きなポイントになっている作品を教えてもらった。

「いくつかあって、竹内まりやさんに書いた『ホールド・オン』(アルバム『UNIVERSITY STREET』に収録/1979年)は、自分でもよく書けたなって実感があったので、もしかしたらソングライタ―として資格があるのかなって思えた一曲です。それから須藤薫さんに書いた楽曲は、ポップでキャッチーなものが好きなのにも関わらず、そういうわかりやすいものはどこか大衆に媚びているようで、嫌だなという思いがどこかにあったので、捻ったものを作っていました。でもやっぱりポップでキャッチーなものを、というリクエストがあったので作ってみると、思っていたほど迎合してないなと思って。わかりやすいものを作りたいけど、誰とも違うものを作りたいといつも思っています。大切なことは全てビートルズが教えてくれたというか、ビートルズって一曲の中に必ずわかりやすいところと、わかりづらいマニアックなものが入っています。例えば「オール・ユー・ニード・イズ・ラヴ(愛こそはすべて)」のサビはみんなで歌えるけど、Aメロは誰も歌えないという、あの複雑さとポピュラリティがいい。だからマニアにもグレーゾーンにも受け入れられたのだと思います」。

一曲の中に相反するものがある、それが杉が理想とするポップミュージックだ。須藤薫へ楽曲提供をするようになって、その“スパイス”の配分が掴め始めた。今回の作品のDISC6は須藤に提供した曲だけで構成されている。「50曲以上書いているので、本当に絞るのが大変で、絞りに絞って20曲選びました」。

「自分が作った作品に恋すること。いつも世界で一番いい曲だと思って作っている」

『Mr. Melody~杉 真理提供曲集~』CD6枚組 116曲収録/¥11,000(税込)  杉真理自身が執筆した3万8000字におよぶ全曲解説も掲載した歌詞ブックが同梱されている。
『Mr. Melody~杉 真理提供曲集~』CD6枚組 116曲収録/¥11,000(税込)  杉真理自身が執筆した3万8000字におよぶ全曲解説も掲載した歌詞ブックが同梱されている。

6枚組CD-BOX『Mr. Melody~杉 真理提供曲集~』は、DISC1~3<白盤><赤盤><青盤>が、人気曲と自身がお気に入りのレア曲がミックスされ、収録されている。DISC4<オレンジ盤>はノーランズをはじめ外国語曲や、俳優、女優に書いた曲などを中心にセレクト。DISC5<緑盤>は、南佳孝やハイ・ファイ・セット等当時ソニーミュージック所属のアーティストが中心に集まり結成されたPops All Starsの「Holiday Company」「Yellow Christmas」などが収録されている。どの曲にも共通しているのは、全く瑞々しさが失われていないということだ。理想とするポップミュージックと向き合う、その第一歩として大切にしていることとは?

「これは最近気づいたことですが、作品を作るということは、その作品に恋することだと思います。いつも世界で一番いい曲だと思って作っているので、愛情たっぷり注ぎ込みます。やっぱり恋をしている時は、みなさんお肌ツヤツヤじゃないですか(笑)。どの曲もできた瞬間のことはなんとなく覚えていて、それは毎回恋をするのと似ていると思っていて。コード進行とか、新しい発明をしたような気持ちになるんですよ。しかも提供した曲はアレンジや歌によって自分が思っていた以上のものになることがあって、その逆も然りで、そこも含めて人に曲を作るという作業は面白いですね」。

『Mr. Melody~杉 真理提供曲集~』は杉の作品集であると同時に、多彩なアレンジャーが作った音の聴き比べという楽しみ方もできる。杉は曲を作る時に、同時にアレンジも頭の中で鳴っているタイプだという。自分の曲をアレンジャーがどんな曲に仕上げてくれるのか「委ねるしかない」が、楽しみだった。しかし「コード進行を変えられるとちょっと…(笑)」と教えてくれた。そんな中でも、ファン投票で1位になったハイ・ファイ・セット「素直になりたい」の、井上鑑のアレンジには脱帽だったという。「当時ハイ・ファイ・セットのレコード会社移籍第1弾作品で、今までとは違う感じのものにしようという流れで、恐れ多くも僕が作詞・作曲に加えてコーラスアレンジも任されました。井上さんのブラスアレンジが新しい世界観を作ってくださいました。素晴らしいアレンジです」。

「できたメロディーに、意味も全てハマる言葉が必ずどこかに存在していて、作詞はそれを探す作業」

言葉、歌詞に関しては、ソニーレコード時代のディレクター須藤晃氏(尾崎豊、玉置浩二、橘いずみ他)の存在が大きかったという。

「僕はほとんどが曲先なので、できたメロディーに意味も全てハマる言葉が必ずどこかに存在していて、作詞はそれを探す作業だと思っています。そうすると見つかるんです。須藤さんに出会うまでは、探しても見つからない時はあきらめて、英語にしてしまえ、という感じでした。でも須藤さんに『それは違うんじゃない?』と言われて、粘って探していると最後にピタッとハマる言葉が見つかるんです。でも、これはウケるだろうとか邪念を持って探していると、見つからないんです。邪念がなくなった時に正解が見つけられるということがわかりました。この時代だからこういう言葉を入れようというのが一番ダメ。『ウイスキーが、お好きでしょ』は、田口俊さんが書いてくれた歌詞ですが、作った時はウイスキーを飲む人がどんどん減っていて、その後ワインや日本酒、焼酎ブームがきて、ウイスキーと共にこの曲も廃れていくんだろうなって思っていました。それが今や皆さんに愛される曲になって、あの時邪念を持たないで良かったなと思います(笑)」。

「ビートルズがそうだったように、温故知新した上で新しい音楽を作っていきたい」

45年間曲を創作し続けてきて、これまでにスランプに陥ったことはなかったのだろうか?

「今のところないんですよ。先ほども出ましたが、それも人に曲を書かせてもらったり、色々やらせてもらっているからだと思います。刺激が入ってくるので、それで書き続けることができているのではないかと感じています。僕が好きなのは、いつの時代でも新しくて、でもそれは温故知新した上での新しさです。ビートルズがまさにそう。調べれば調べるほど彼らは昔の音楽を研究していて、その上で新しい音楽を作って時代を突き進んだじゃないですか。古いものを壊していくためには、古いこと、ものの良さを知っていないとダメだと思います。そうじゃないものって一過性で終わってしまう気がしています」。

「コロナ禍で改めて音楽を探求して新しい刺激を受け、たくさん新曲を書いた」

「型」を極めた人が違うことをやるから「型破り」で、それが新しいものになる。杉もコロナ禍で改めてビートルズや昔の音楽を勉強し直し、それが大いに刺激になっているという。

「コロナ禍で立ち止まって、改めて温故知新の精神になりました。2020年から2021年3月までNHK-FMで『ディスカバー・ビートルズ』という番組を和田唱さん(TRICERATOPS)と一緒にやらせていただいて、改めてビートルズとその音楽を掘り下げ、研究しました。彼らについての知識はある方だと思っていましたが、まだまだ知らないことがたくさんありました。研究していくと例えばアーヴィング・バーリン(「ホワイト・クリスマス」「アレクサンダーズ・ラグタイム・バンド」「ショウほど素敵なショウはない」他)という作曲家に辿り着いて、さらに深く掘っていくと面白いことがたくさんわかって、僕にとっては“新曲”もたくさんありました。それに刺激を受けて、曲がたくさんできました。ライヴでは新曲は分が悪いですが、セットリストの約半分が新曲というライヴもやって、手応えを感じています」。

コロナ禍で音楽を探求し、再び刺激を受け、それを新しい曲に昇華し「ミュージシャン生命が延びたと思う」と語る“ミスター・メロディー”のクリエイティブ魂は、さらに熱を帯び、日々グッドメロディを紡いでいる。

otonano 杉 真理デビュー45周年スペシャルサイト

杉 真理オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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