世界選手権へ向けてパラ水泳日本代表合宿。パリ出場権と若手の成長へチームで挑む!
マンチェスターで7月に開幕するパラ水泳世界選手権の日本代表合宿がナショナルトレーニングセンター・イースト(東京都北区)で行われ、5月5日メディアに公開された。
3月の選考会で選ばれた選手たちはその後イギリス、シンガポールでのワールドシリーズに出場し、合宿を重ねた。東京パラリンピック以降の新たな世代の底上げに取り組み、来年のパリパラリンピックを目指す中、世界選手権を通じいかに成長できるかが鍵となる。
世界選手権では2位以上の国にパラリンピック出場1枠が与えらえる。
マンチェスターでの成果目標について上垣匠日本代表監督は「少なくとも今年の世界ランク8位以上に10人は入ってもらいたい。プラス世界ランク16位以上5人、合計15人くらいの出場枠がとれれば、リレー枠もしっかりエントリーできるだろう」と話していた。
若手の成長と世代交代が大きなテーマ
「地元開催だった東京と比べ、パリパラリンピックに向けてはチームとして戦う意識を高めていく。若い選手が競技に向き合えるよう長い時間をとってのぞみ、チーム力を向上させていく」と上垣監督は話す。
チームキャプテンには東京パラリンピック初出場の齋藤元希(弱視・国士舘大学 PST)が、副キャプテンには宇津木美都(右腕欠損・大阪体育大学)と知的障害から初めて山口尚秀(四国ガス)が選ばれ若手がチームの中心となっている。
齋藤は、先日行われたシンガポールでの大会3日目に7レースを泳ぎ、すべてのレースで予選より決勝のタイムを上げていくことができ、種目数をこなす強化として手応えを掴んでいた。
「僕もタカさん(鈴木孝幸)と一緒でチームを引っ張るより押すっていう方が向いていて、そういう形でチーム運営していきたい。他の競技もベテラン選手から次の世代に受け継ぐ流れがあるので、水泳でもそういう流れで選んでくれたと思います」とキャプテンの役割を受け止めていた。
激闘を迎え撃つ注目の顔ぶれピックアップ
パラリンピック前年で昨年と異なり今年の世界選手権は中国選手が参加してくる。さらに、ウクライナ情勢によってロシア、ベラルーシも大会に選手が復帰する可能性もあり、コロナ前2019年のロンドン大会程度にレベルが高いと考えられている。「メダルの数としては厳しいだろう」と、上垣監督は予想している。そうした中でも世界との競り合いで強さを発揮しそうな選手について共有しておきたい。
木村敬一(全盲・東京ガス)
3月シェフィールドでの100メートルバタフライS11で好タイム(1:01.59)をマーク、金メダルが確実視されている。
木村は、シンガポールには参加しなかったがその理由を「技術的な練習をしたかった」と語った。練習では、オリンピアンで200メートルバタフライ2大会連続銅メダルの星奈津美さんのアドバイスを受けているという。星さんに加え、ストレングスのトレーナー、メニューはナショナルチームのコーチに作ってもらっている。
「いろんな人に入ってもらいながら同じ方向に向かっている」とチーム・キムラの体制ができている様を口にしていた。この合宿では映像撮影や身体測定により「技術的なところも、トレーニングの方向性も間違っていないことを確認できた」とこれまでの練習の成果を感じていた。
山口尚秀(知的障害・四国ガス)
もはや圧倒的世界王者といえる山口は、シンガポールでのリレーで自己ベストに近い泳ぎをし自信を高めていた。パリパラリンピックでの2連覇を目指す。
「2連覇を達成しているのは、健常者なら北島康介さんが連覇していますけど、パラスポーツでは国枝慎吾さんぐらいで、少ないので私が2連覇を出して、パラスポーツの存在をポジティブに、プラス面を捉えてもらえるようにしたい」
窪田幸太(左腕麻痺・NTTファイナンス)
社会人2年目となる窪田は、3月の選考会で100メートル背泳ぎS8で自己ベストを大きく更新(01:05.56=世界ランキング1位)、シンガポールではタイムを7秒台に落としたが「5秒台、その先を見込める順調な経過」と上垣監督は評価している。
鈴木孝幸(四肢欠損・GOLDWIN)
今年10年間過ごしたイギリスから帰国、鈴木はここナショナルトレーニングセンターを拠点に1月から新たなコーチとともにスタートしている。
「非常に順調で大会を重ねるごとにしっかりとタイムを上げています。(日本での練習は)プラスの材料になっています」と、来年のパリパラリンピックを目標に選手活動の「終活」のに取り組む。
富田宇宙(全盲・EY Japan)
富田は、水泳を中心に、ダンス、宇宙飛行士の夢、昨年からサーフィンにも挑戦する。そのパワフルさでライバル・木村敬一を刺激する存在となっている。
「泳ぎの効率がすごくよくなっていて、スピードを出しやすい分、ひと掻き、ひと蹴りにかかる力も大きいため最後まで持続させる工夫が必要。いい泳ぎで泳いで疲れてきたら、それまで使ってなかった筋肉を動員して泳ぐように、たとえば肩がつかれてきたら、胸とか背中とかをしっかり使うことで最後まで持続して泳ぐ、そういう練習を積んでいきたい」と話す。
辻内彩野(弱視・三菱商事)
辻内は、シンガポールで50メートル自由型で好タイム(27.97)をマークし、オーストラリアの世界記録(0:26.56)保持者のタイムに近づいた。パリ前の来年6月までにクラス分けが予定されている。病気の進行が見られクラスが変わる可能性もあるがS13クラス(現状)は幅が広いため変わらない予定で練習を継続する。
「50m自由型で27秒台で4年前から確実に進化し手応えを感じた。世界選手権に向けて、入水後の水中での姿勢が課題。水平に徐々にあがって15メートルのところでぎゅっと上がる感じでフラットになれば強くなる」と話す。
木下あいら(知的障害・大阪府)
知的障害女子で初メダルを目指す木下は、シンガポールでは平泳ぎで自己ベスト更新、200メートル個人メドレーで金メダルを獲得した。「平泳ぎは潜っちゃうところを浅く(平らに)泳ぐことを意識しました。全世界から集まる大会は初めてで、楽しいだろうと思うけど緊張すると思う。(先日の)シンガポールでは、香港の選手が早くなっていて1位取れないかもと焦った」と、恐る恐る競争の世界へと踏み出していた。
なお当初保留選手となっていた石原愛衣(弱視・神奈川大学)は、健常者のユニバーシアード代表に選ばれたため辞退している。パリに向けて改めて合流していく予定となっている。
2週間後、身体障害の選手たちはフランスへ遠征、同地でのワールドシリーズへ出場する。その後は国内大会を経て世界選手権へ出発の予定。知的障害も含めた全体合宿としては最後の機会となった。
東京パラリンピックで共有された選手たちの魅力を存分に担うパラ水泳に、あらためて注目したい。若手選手の育成や、競技力の向上につながる取り組みを見守り、次世代のアスリートたちが世界で活躍できるように声援を送りたい。来年のパリパラリンピックへの中間地点となるマンチェスター世界選手権でのチームの成長、代表選手たちの活躍に期待している。
<参考>
マンチェスター2023パラ水泳世界選手権