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希望の党の公約の「雇用」関連部分を読んでみた。

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(写真:ロイター/アフロ)

 さて、総選挙です。

【ここまでのあらすじ】

 安倍総理が「仕事人内閣」を立ち上げ、臨時国会が始まるぞ、と与党も野党もマスコミのみんなも身構えていたところ、突然、総理が「今、日本は国難だから」という謎の理由で臨時国会冒頭解散を断行。

 総選挙の対決構図は当然「自民・公明・維新」vs「民進・共産・自由・社民」だろうと誰もが思っていたが、小池都知事が希望の党を結党し国政へ参戦し混沌とする情勢。

 さらに前原さんによる「民進党は希望の党へ合流します宣言」で一夜にして野党第一党が総選挙に参戦しないことが確定。

ところが小池都知事のリベラル系議員を「排除いたします(ニコリ)」宣言で合流話はグダグダになり、リベラル系の枝野さんが立憲民主党を立ち上げ、一方の希望の党からもボロボロと人が離脱しはじめて…、さて、明日は何が起きるの?

という状況で希望の党が公約を発表しました。

 色々な評価はあるでしょうが、様々な意味で台風の目となっている政党であることは間違いありません。

 その希望の党の雇用の公約を見てみようと思います!

公約の内容は…?

 公約の「5」がそれにあたるようです。

 タイトルは、

雇用・教育・福祉の充実

 タイトルの次に大きな字で

正社員で働ける、結婚できる、

子どもを育てられる社会。

そこに少子化問題解決のカギがあります。

とあります。

 このあたりの認識はどの政党もほぼ同じです。

 さらに小さな字でもう少し詳しいことが書いてあります。それは次のとおりです。

多くの若者が希望するのは、

正社員で働ける、結婚できる、子どもを育てられる社会。

長時間労働を規制し、正社員を増やす企業を応援します。

少子化問題の解決のカギもここにあります。

 この記載から分かる具体的政策は、

・長時間労働規制

・正社員を増やす企業の応援

の2つです。

 では、どれだけ具体的な制度を想定しているのかな、ということで、さらに詳細な解説をみてみます。

 タイトルは、

5. 雇用・教育・福祉に希望を ~正社員で働ける、結婚できる、子どもを育てられる社会へ~

となっています。

 「正社員で働ける」とあるところがポイントでしょうか。

 詳しく見ていきましょう。

正社員化促進法

正社員雇用を増やした中小企業の社会保険料負担を免除する「正社員化促進法」を制定し、正社員で働ける社会を目指す。

 助成金ではなく、社会保険料負担を免除する方式にするようです。

 これで正社員が増えるのかどうか、やらないよりはいいですが、効果のほどは疑問です。

 本気で正社員を増やすには、非正規社員を減らすことが必要です。

 派遣法の規制強化や有期雇用の入り口規制の導入などが本来は検討されるべきところとは思いますが、それらは入っていません。

長時間労働規制

 次は、長時間労働対策です。

長時間労働に対する法的規制、男性を含めた育児休暇取得の支援などにより、柔軟な働き方を社会全体で支えていくことを通じ、ワークライフバランスのとれた社会を実現する。

 うーん…。「法的規制」だけでは、ちょっと抽象的に過ぎますね。

 自民党・公明党は、法案として、残業時間を月80時間平均まで、単月最長100時間未満を打ち出しています。

 これに対抗するのであれば、具体的な数字を出す必要がありますが、残念ながら、抽象論で終わっています。

 ちなみに、共産党は「残業は週15時間、月45時間、年360時間まで」と掲げています。

 また、勤務間インターバルについては言及されていません。

 もう1つの「男性を含めた育児休暇取得の支援」については、これをあえて公約に掲げるのは好印象です。

同一価値労働同一賃金

「待機児童ゼロ」の法的義務付け、病児/病後児保育の充実、配偶者控除を廃止し夫婦合算制度へ移行(再掲)、

同一価値労働同一賃金など、女性が働きやすい社会を創る。

 ここの部分に「同一価値労働・同一賃金」が入っています。

 これは、「同一労働同一賃金」とは異なり、「同一価値労働」と「価値」が入っているのが違いです。

 要するに仕事が同じではなくても、仕事の「価値」が同じならば、同じ給料を払うべき、というものです。

 価値をどうやって計るのかなど、課題も多く、なかなか実現をするのは難しいですが、昔からある概念です。

 これに本気で取り組むのであれば、すごいことです。

 ちなみに、「同一価値労働同一賃金」を公約に掲げている政党としては他に社民党があります。

経済政策のところにある雇用関連

 上記の「5」以外にも雇用関連の記載があります。

 まず、経済政策のところに記載があるので、それも見てみます。

働き方改革の推進、再就職支援制度の抜本拡充などにより成長分野への人材移動を円滑化するとともに、「時差 Biz」による「満員電車ゼロ」実現など生活改革を進め、労働生産性を高める。

 これは、「時差Biz」や「満員電車ゼロ」を除けば、政府のかかげる政策とほぼ一致しています。

 特に、「再就職支援制度の抜本拡充などにより成長分野への人材移動を円滑化」との点は、竹中平蔵氏からのアドバイスなのかな、と思ってしまうくらい同じです。

中小企業政策のところにある雇用関連

 中小企業政策のところにも雇用関連の公約があるので、それも見てみましょう。

若者を苦しめるブラック企業について、残業、休暇、給与などに関する要件を明確化し、該当企業の名前を公表することにより、「ブラック企業ゼロ」を目指す。

 すみませんが、「残業、休暇、給与などに関する要件を明確化」の意味が分かりません。

 何を言いたいのか皆目分からないのですが、企業名は公表するぞ!という意気込みだけは伝わります。

 あと、これが中小企業の政策のところにあるので、もしかして、ブラック企業は中小企業だけという認識なのか?とも思ってしまいます。

政権を取ることを目指すにしては抽象的過ぎる

 希望の党の雇用関連の公約は以上です。

 少ない上に抽象的で、政権を取ろうという政党としては、これだけでは何がしたいのか、はっきりとはわかりません。

 結党からまだ時間もないし、考え方が違う人たちもおられるだろうから、まとめきれなかったのではないかとの印象を受けます。

 また、政府が提出しようとしている働き方改革関連法案に含まれている「残業代ゼロ法案」への態度は不明です。

 

 今後は、候補者アンケートなどを通して、希望の党を含め、各政党・各候補者の雇用政策について、もっと明らかにしていきたいと思います!

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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