新幹線殺傷事件で無期懲役「出所後また殺す」と宣言の男は何年で仮釈放になる?
新幹線で乗客1人を殺害、2人を負傷させた男(23)に対し、求刑通り無期懲役が言い渡された。確定すれば何年くらいで社会に戻ってくるだろうか。出所したら新たな凶器を購入して人を殺すとまで述べていたからだ。
無期刑は特別扱い
刑法は、仮釈放の条件としてその受刑者に「改悛の状」があることに加え、有期刑だと刑期の1/3、無期刑だと10年の経過を要求しているが、現実にはその程度だと仮釈放などあり得ない。
ケースバイケースだが、有期刑の場合、服役が初めての者でおおむね刑期の3/4程度、再入者で4/5程度を経過し、所内での生活態度や身柄引受人などに問題がなければ、ようやく仮釈放を許可するか否かのレールに乗るというのが相場だ。
一方、無期刑の場合、15年から20年程度の服役で仮釈放が認められるといった誤解も蔓延しているが、2004年ころまでの話だ。2005年の刑法改正で有期刑の上限が20年から30年に引き上げられた影響や、昨今の厳罰化傾向もあって、この十数年は30年超が当たり前となっている。
しかも、仮釈放の審査にあたっては、1人ではなく複数の地方更生保護委員によって面接を行うほか、被害者や遺族に対する聴き取り調査、検察官に対する意見照会なども念入りに行っている。
そのため、無期刑による受刑者は例年末で1800人程度いるが、仮釈放が許可される者は例年10人程度、この10年間で89人、許可率は2割程度にとどまり、平均在所期間も約31~35年と、有期刑に比べてかなり狹い門になっているのが現実だ。
10年間で89人といっても、いったん仮釈放が許可されたものの取り消され、再び仮釈放が許可された者が22人いるから、初めて仮釈放が許可された者だけに絞ると実質的には67人だ。
もし許可されても、一生涯にわたって保護観察下に置かれる。再犯に及んだり、きちんと保護観察所に出頭しないなど、何らかの遵守事項違反があれば仮釈放が取り消され、再び刑務所で服役することとなる。
しかも、あくまで仮釈放まで生きていればという話であり、現実にはそれに至らないまま獄中死する受刑者が多い。2018年にも24人、この10年間で210人が獄中死しており、例年、仮釈放者の数を上回っている。
現時点ですでに服役期間が50年超のものが11人、40年以上50年未満のものも40人おり、高齢化も顕著だ。
ネット上などでは終身刑と違って無期懲役は出所してくるのが通例だといった言説も流布されているが、明らかな誤りだ。統計調査などを行っている法務省の周知不足もあり、仮釈放の実情が知られていないからだろう。
「マル特無期」の運用も
もっとも、たとえ30年超の服役を経たからといって、また、わずかの数だったとしても、社会に出てくることができるのであれば「無期」懲役とは言えず、仮釈放のない文字通りの終身刑を導入すべきだといった意見も根強い。死刑廃止の代替措置としても提唱されている。
そこで、検察庁では、死刑求刑に対して無期懲役となった事案や、反省の情が乏しく、再犯のおそれが極めて高く、遺族の処罰感情が特に厳しいような事案の場合には、刑務所や地方更生保護委員会に対して仮釈放の審理を慎重に行うように求めるとともに、逆に刑務所や委員会から意見を求められた際には断固反対し、事実上の終身刑となるような運用を図っている。
特別の「特」に「○」を付けた印を書類に押すので「マル特無期」などと呼ばれる。現に検察が仮釈放に反対したケースでは9割が不許可となっているし、許可されたケースも反対しなかったケースに比べて服役期間が長くなっている。
もし今回の事件が最終的に無期懲役で確定したとしても、検察はこの取扱いをするはずだ。少なくとも30年超は服役するし、再犯のおそれが払拭されない限り、獄中死するまで刑務所から出てこられないのではないか。
もちろん、それでも甘すぎであり、違和感を覚える人も多いだろう。パーソナリティー障害があるとしても、一生刑務所に入りたいという身勝手な動機から公共交通機関内で計画的かつ無差別に人を死傷させる重大な結果を引き起こしたわけだし、被害者やその家族らからすると相手が誰であろうと関係ないからだ。
しかも、男は「3人殺すと死刑になるので、2人までにしようと思った。1人しか殺せなかったら、あと何人かに重傷を負わせれば無期懲役になると思った」とまで述べており、実に計算高く犯行に及んだことが分かる。
判決の言渡し後には立ち上がり、「控訴はしません。万歳三唱します」と叫んだうえで、実際に万歳を繰り返したという。
そもそも無期懲役ではなく死刑にすべきで、検察は求刑で死刑を選択すべきだったと思うのも当然であり、素朴な正義感のあらわれとして理解できる。無期懲役の求刑に死刑の判決など考えられないからだ。
とはいえ、国民の処罰感情を裁判に反映させようという裁判員制度の導入で厳罰化に拍車がかかる一方で、最高裁や高裁は死刑を避けようとする傾向にある。今後、ますます「マル特無期」のような運用がクローズアップされることとなるだろう。(了)