アートの大衆化にならえ! Zoffがアンディ・ウォーホル起爆剤に売上高500億円目指す
アイウエアブランドの「ゾフ」(Zoff)が、アンディ・ウォーホルにインスパイアされた新シリーズ「アイム アンディ・ウォーホル」(I’m Andy Warhol)を発売中だ。ウォーホルのスタジオ兼サロンの名を冠した“シルバーファクトリー”、代表作に着想を得た“シルクスクリーン”、彼自身がかけていた眼鏡をイメージした“セルフポートレート”の3シリーズだ。発売前夜に開いたパーティにはクリエイターやメディア関係者に加え、陸上アスリートのケンブリッジ飛鳥や女優の井川遥、人気女子アナの姿も見られるなど、NYマンハッタンの伝説のディスコ「スタジオ54」のような賑わいだった。
アメリカのポップ・アートの巨匠であり、多くの有名作品を残すウォーホルとのコラボのオファーは今も引きも切らない。87年に彼が亡くなってから商標権を管理してきたアンディ・ウォーホル財団が価値を認め、実現にいたるのはわずか2%といわれている。そんな中で、なぜ「Zoff」がライセンス契約をすることができたのか?「Zoff」がこの協業に込めた想いとは?それらをひも解くために、「Zoff」の成り立ちや現在・未来の戦略をまとめてみたい。
「Zoff」を手がけるインターメスティック社と店舗展開を担う子会社ゾフの創業はともに1993年。創業者で現在も会長兼社長を務める上野照博氏は学習院出身。財務大臣・副総理の麻生太郎氏とは竹馬の友だ。大学卒業後、アパレルのニシキ(後にレナウンと共にダーバンを設立)を経て、68年に家業の上野衣料に専務として入社。71年に「ポロクラブ」ブランドを立ち上げ、89年にはポロクラブジャパンを設立し代表取締役に就任。ライセンス事業も拡げ、ブランド売上高300億円を達成する立役者となった人物だ。まずは、ライセンスビジネスに知見があったことがわかる。
その後、代理店出身で「ポロクラブ」の広告を取引先として担当した際に手腕を見込まれて経営に参画することになった現副社長の田口進氏とともに、後のインターメスティックとゾフを設立。2001年に下北沢に「Zoff」1号店をオープン。当時台頭していた「ユニクロ」と同様に、中国などで大量生産し、自社で企画・販売するSPA(製造小売り)型のビジネスモデルをアイウエア(メガネ)の世界で実現。通常2万~3万円近くしたメガネを、フレームとレンズ込みで5000円、7000円、9000円という低価格でセミセルフ販売し、即日持ち帰りもできるスピード感で提供。メガネ業界の価格破壊者として注目された。
競合の登場などもあり、数年でブームは落ち着いたが、その後も堅実に商品開発と店舗開発を進め、テレビCMなどのプロモーションを実施。近年は売上高が前年2ケタ増を続け、2017年12月期には240億円を記録。中国に続き、香港やシンガポールなどグローバル化も進めている。とくに昨年進出した香港では大手商社リー&フォングループと提携したこともあり、好立地の商業施設内への出店が続いている。最近も繁華街の旺角(モンコック)にある大型ショッピングモール、ランハムプレイスに10月10日に香港5号店で旗艦店となる店舗をオープン。10月20日に香港と中国で販売する新シリーズ「Zoff Secret Agent」のイメージキャラクターに起用した水原希子を招いたオープニング記念イベントを催したばかりだ。ウォーホルの新シリーズも200店舗以上の国内店舗やECストアに加え、アジアの店舗でも販売されるというスケール感やグローバル展開もプラスに働いたことと思われる。
並行して、リブランディングも進めている。“「ゾフ」=低価格”というイメージが先行し、最近では機能性を追加してきたが、ここにファッション性を加味。視力の矯正だけでなく、オシャレを彩るアクセサリーとしての訴求を強めている。そのためクリエイティブデザイン室を昨年新設し、ゼネラル・クリエイティブ・ディレクターにチダコウイチ氏を迎えたりもしている。チダ氏はビギグループを皮切りに数々のブランドのディレクターを務め、直近ではマッシュホールディングスで「ジェラートピケ」で故ジョエル・ロブション氏やスヌーピーで知られる「ピーナッツ」とのコラボを実現。ウェルネスカンパニー化のコンセプトワークなども手掛けた人物だ。
さらに今春には経営理念も再策定。「メガネが主役の時代をつくる」というミッションのもと、「アイ アム ア ヒーロー!(EYE AM A HERO!)」をスローガンに多彩な取り組みを実施している。2011年の発売以来、累計300万本を売上げた丈夫でしなやかな「ゾフ・スマート」を始め、モデル田中里奈プロデュース商品、「うたの☆プリンスさまっ♪」「名探偵コナン」「ディズニー・コレクション」などキャラクターコラボでもヒット商品が誕生。ブレイク直前のシンガーソングライターあいみょんらを夏のキャンペーンビジュアルに続き、秋の顧客向けイベント「ゾフロック」でも起用し、新たな顧客層を開拓した。さらに、8月には伊勢丹新宿本店に2週間限定のポップアップストアを出店して予算の3倍を売上げ、デザイン性と価格のリーズナブルさが富裕層や高感度層にも認められたと自信を深めている。新ラインとしてメンズクリエイターの松島紳氏とコラボした高級ラインや、レトロ調の「ストロボ バイ ゾフ・スマート」を発売。9月には羽生善治・竜王にならい、斎藤慎太郎7段が新調したメガネが「ゾフ」であることを公表して将棋ファンをざわつかせるなど、話題性も高まっている。
今後はファッション化とグローバル化、さらには老若男女をターゲットにしたマーケティング戦略を軸に、中期売上高目標500億円の達成を目指す。前置きが長くなったが、その起爆剤として期待するのが、アンディ・ウォーホルの新シリーズの投入だったのである。
実際、「ゾフ」のオフィスを訪ねると、エントランスからミーティングルームまで、いたるところにウォーホルの作品が飾られている。よく知られたものから、世界に3点しかない(うち2点を被写体本人が所有しているという)、ミュージシャンの坂本龍一氏を描いた希少な作品もある。
とくに上野博史専務チーフ・デザイン・オフィサーのウォーホルへの思い入れは強い。「2001年に『ゾフ』をスタートしたときの本質的な目的が『メガネを大衆化すること』だった。ウォーホルの作品は、見ているだけで幸せな気持ちにさせられ、元気の源となるものばかり。しかも、ウォーホルはアーティストであるだけでなく、ビジネスマンの側面も持ち、アートを大衆化した張本人であり、同じ哲学を宿していると親和性を感じていた。しかも、大量生産・大量消費の時代が続き、デジタル化や情報化が進み、どこでも同じようなものが買えてしまう今、個性やオリジナリティ、そしてアートの要素がますます重要になってきている。ウォーホルとの取り組みはその象徴だと考え、熱烈にオファーをさせていただいた」と明かす。しかも、「売上げのロイヤリティについては、次世代のアーティストの育成にも活用されると聞き、ますます意義があると感じていた」と上野専務。
ウォーホルの作品をプリントするだけでなく、彼の精神性を伝えたいと、残した言葉の数々まで読み込み、テンプル(メガネのツル部分)の裏側にはウォーホルの「誰もが15分間なら有名人になれる。いずれそんな時代が来るだろう」という意味の言葉を刻印した。これは新経営理念「メガネが主役の時代をつくる」とスローガン「EYE AM A HERO!」と同調するものだ。また、彼の発言をイメージさせる“”(ダブルクオーテーションマーク)をアイコンにして、ビスの形にも取り入れたりしている。
実際に表参道のオフィスを訪れたアンディ・ウォーホル財団のチームは、ワークスペースに飾られたウォーホルの作品群や、ストーリー性のある商品展開計画やプロモーション計画、なによりもウォーホルに対する熱い想いを受け止めて、今回のプロジェクトにゴーサインを出したわけだ。
「簡単に持ち運べる、身に着けられるアートとして楽しんでもらえれば。ウォーホルのシリーズを多くの方々に訴求する中で、社内外にわれわれの企業理念を浸透させるとともに、メガネのファッション化を世界に広げていきたい。メガネをかけ、個性を主張する姿勢やスタイルも同時に打ち出したい」と意気込む。