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今話題の「美容ハリ」を女医さんに受けてもらい、医学的に考えた

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
美容ハリの施術中の様子

美容ハリが最近ひそかに女性たちの間で話題になっているが、実際のところその効果と安全性について気になっている人が多いようだ。

筆者は西洋医学を礎とする消化器外科の医師だが、鍼灸医療を含むいわゆる代替医療に以前から興味を持っていた。理由は、これまでの医者経験の中で、西洋医学で治せないものの存在を痛切に知り、「理論的説明がつかなくとも効果のあるものは使うべきである」と考えているからだ。

その興味から、前回「西洋医学の医者がハリ治療を受けて感じたこと」という記事で実際に筆者自身が経験した鍼灸治療についてなるべく客観的に評価するとともに、安全性について医学的見地から考察した。

今回はその延長上の検討だが、最近話題になっている「美容鍼」について自身も経験し、さらに同僚の女性外科医への治療を観察した。

一つこの検討の問題点がある。「美容効果」=「ハリでどれくらいキレイになったのか」は客観的な評価が難しい。そのため自身が体験し、医師である女性にも体験していただくことで医学的な視点からの「美容効果」を限定的にでもお伝え出来ればと考える。

ちなみに、今回の美容鍼は「顔面および頭部にはりを刺す」もの限定でお話をする。今回治療を受けた治療院では、全身に鍼を刺す美容鍼のコースもある。

筆者が検討した項目は三つ。

1、顔にハリを打つのは痛いのか?

2、顔にハリを打って安全か?

3、その効果は?

である。

結論から言うと、

1、顔へのハリは、男性はまあまあ痛いが、女性は全然痛くない

2、顔にハリを打っても安全

3、打ってすぐに効果が現れ始め、翌日にピークがきて、五日間くらい継続する

であった。

1、顔にハリを打つのは痛いのか?

筆者、顔の美容ハリ中
筆者、顔の美容ハリ中

筆者はかなりの痛みを感じた。全く痛くないときを0点、人生最大の痛みを10点とする(これをペインスケールという)と、顔への鍼は2から3点ほどの痛みだった。

イメージとしては、ひとハリ刺されるごとにちくりと感じ「イテッ」っと声が出るくらい。やっていただいた石川鍼灸師は、「男性であればそれくらいの痛みを訴える方が多いです」と語る。

一方、被験者になっていただいた女医さん(32歳)は、

「ほとんど痛みを感じませんでした。ペインスケールでいうと0.5〜1点くらい。イタ気持ちいいくらいで、苦痛はほとんどありませんでした」と語った。もちろん痛みの感じ方は個人差が大きいが、一般的に痛みに強いとされる女性ではこの程度ですみそうだ。もしかしたら「美しくなりたい」という強い思いが痛覚を鈍磨させているのかもしれないが、それはそれで痛くないので良いのである。

女医さん(32歳)の顔へのハリ風景
女医さん(32歳)の顔へのハリ風景

2、顔にハリを打つのは安全か?

顔にハリを刺す。

これは他のあらゆる医療行為と同じで、100パーセント安全ではなく一定のリスクを伴う。あとはそのリスクの大きさが、ハリをやることで得られる利益とてんびんにかけられてどちらがいいかを個々人で決定する必要がある。例えばお化粧をしたって、その化粧品のアレルギーから接触性皮膚炎が起きるリスクはあるわけだ。

その前提の上で、筆者はいくつかのリスクを指摘したい。

「感染」これはほぼゼロに近いと考えて良いが、一度使い切りのディスポーザブル製品のハリを使用している場合に限られる。筆者はこのハリによる危険性について検討するため、ハリについての学術論文と似た状況のインスリン自己注射の感染についての論文を検索したが、結論としては適切な方法によるハリであれば感染リスクはほぼゼロであると結論づける。

「皮下出血」可能性はあるが、顔面に刺すハリは髪の毛よりも細い、極めて細いものを使用するためたいしたリスクにはなりえず、もし出血したとしても圧迫すれば数分で確実に止血可能なもののみであろう。

赤と青の先端部分が顔に刺したハリ。一番下の髪の毛くらい細いのがわかる。
赤と青の先端部分が顔に刺したハリ。一番下の髪の毛くらい細いのがわかる。

「神経障害」顔面には無数の神経が走っているが、仮にハリが神経に直接刺さったとしてもハリの太さから考えて神経障害を起こす可能性は極めて低いだろう。筆者の知人の耳鼻科医師(顔面神経麻痺などの治療をするため顔の神経に明るい)は、「ハリが顔面神経の細い繊維にダメージを与える可能性は理論上はあるが、実際にそのようなケースは聞いたこともなく学術誌への報告も見当たらない。まず問題にならないだろう」と語った。筆者自身も医学中央雑誌で医学論文を検索し、頸部へのハリによる神経障害の報告はあるが、顔への美容ハリによる障害の報告は見つからなかった。

3、その効果は?

正直なところ、男性である筆者は顔の違いはよくわからなかった。日常的に自分の顔を見ていないからかもしれない。

一方施術を受けた女医さんは、

「翌日は頬がピンクになり、血流が良くなった印象でした。また側頭筋が収縮したのか、小顔になっていました。さらには、いつもは5日かかるニキビの治りが今回は2日で、いつもは跡が残るのに今回は綺麗になくなりました。一週間は鏡を見ても効果を実感でき、化粧水の入り方がすごく良い状態が続きました」

と感想を教えてくれた。さらに、

「施術前に皮下出血を起こす可能性を説明されちょっとだけ身構えましたが、実際には全く起こりませんでした。個人差はあるかもしれませんが、効果が目に見えてわかったのでとても良かった」とのことだった。

筆者には客観的評価は困難なので、この感想とビフォーからアフターの写真を掲載し効果とする。

こちらが施術前。

施術前
施術前

そして施術後。

施術後。
施術後。

施術後は髪をくくり、やや照明が赤みを帯び、笑顔になっているがそれを差し引いても十分な効果は実感出来る。

女医さんが自身の顔を見てとった変化の所見としては、

・血色がよくなった

・頬の位置が高くなった

・顎のラインがシャープになった

・目の下のクマが消えた

なお、写真の加工はサイズを合わせた以外何も行っていないことを宣誓しておく。

では、一体どのような鍼灸院を選べば良いのか?

施術をしてくれた石川鍼灸師は、

「美容鍼灸は保険診療ではなく自費診療ですから普通の鍼灸治療より高価な金額が取れます。ですからうちのようにに100本近く刺すところもあれば、10本しか使用しないのに1万〜3万円もかかるところがあります。材料費の中で一番高いのはハリ代ですのでこのようなことが起きるのです。施術を受けている間は、顔をみることがないためなかなか分かりにくいかもしれません。事実、顔にとりあえず刺しておけば美容鍼灸などと言う悪質なところも増えてきてしまいました。」

と語る。ハリの本数は一つの信頼できる指標になりそうだ。

さらには「健康の上にあるのが美容=健美(中国でも伝統医学治療の中に健康美容鍼灸)です。全身治療と合わせて受けることに意味があることはお伝えしたいです。」これには異論がないだろう。

最後に、「興味はあったが実際どうかわからなかったからやっていない」人々へ、未知とも思えた東洋医学のハリ治療は実際にはこのようだった。一度トライしてみてはいかがだろうか。

(謝辞)

顔の掲載を快諾下さった女医さん、顔面神経麻痺についてのコメントを下さった新井智之医師に厚く御礼申し上げます。

(施術を受けたところ)

美龍(メイロン)

〒150-0022

東京都渋谷区恵比寿南2-3-12 

石川美絵先生

(参考文献・ホームページ)

「総説 鍼灸安全性関連文献レビュー2007〜2011年」

古瀬 暢達ら

全日本鍼灸学会雑誌 Vol. 63 (2013) No. 2 p. 100-114

「美容鍼灸(美容鍼・美容針)とは 北川式美容鍼灸」

http://www.yojospa.com/index-1.html

「インスリン自己注射部位の非クロストリジウム性ガス壊疽に高圧酸素療法 (HBO) 併用が著効した1例」

今村 秀基ら

糖尿病 Vol. 42 (1999) No.3 P.209-213

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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