【高野町(高野山エリア)】和歌山の優れた薬草「大深当帰(トウキ)」にもっと光を
和歌山県高野町富貴地区では昔から当帰が栽培されており、数トン単位で生産されていました。
その当帰は「大深当帰」と呼ばれ各地のブランド当帰の中でも品質が良いことで有名でした。
※文献では大深にオオブカという読み仮名が書いてありますが、地域の方は昔からオブカ、と読みます。
ただ、現在富貴地区には生産者が一軒しかおらず、このまま伝統ある大深当帰栽培が無くなるのはもったいないので、地域で生産されていたことや、漢方の代表的な生薬として非常に優れた効能を持つ当帰について皆様に知ってもらいたいのでご紹介させていただきます。
当帰栽培は種まきしてから出荷まで3年もかかる貴重な薬草です。
途中、はぜかけして天日乾燥、湯もみといった特殊な処理や作業が必要であり、これも後継者が現れにくい原因になっています。
以下、文献からの引用まとめ
▼当帰基本情報
トウキ(当帰、Angelica acutiloba)は、セリ科シシウド属の多年草。漢方薬として用いられます。
一般英名 Japanese Angelica
・利用部位:根
・特有の甘い香り
▼成分
精油:Z-ligustilide、 butylidene phthalide、butylphthalide、safrole、isosafrole、bergapteneなど
ポリアセチレン化合物:falcarinol、falcarindiol、falcarinolone
クマリン類:scopoletin、umbelliferone
その他:vanillic acid、choline、多糖物質、β-carboline 誘導体など
▼薬理作用
鎮痛、抗炎症、解熱作用、血圧降下、眼圧降下、抗アレルギー
▼臨床応用
温性の駆瘀血、強壮、鎮静、鎮痛薬として、貧血症、腹痛、身体疼痛、月経不順、月経困難、月経痛、血行障害、そのほか婦人の更年期障害などに応用。
▼かつての使われ方(漢方、和方、民間薬)
・鎮痛、鎮静、浄血、補血、強壮、腹痛、自律神経の乱れに使われていた。
・貧血や瘀血、婦人病薬、強壮剤として、根を10g、水700ccで煎じ、1日3回食間、食前に温分服する。酒で煎服しても効く。
・根150gを細切れにして氷砂糖200gとともに、1.8Lのホワイトリカーに漬け込む。2カ月ほどで香ばしい薬酒が出来る。体を暖め、血行をよくし、便秘に効き目がある。ただし、軟便や下痢気味の方は飲まない方がよい。
・葉は浴湯料として用いられ、体を温め、ひびやしもやけ、不眠症、肩こりにもよいとされる。
▼現在の使われ方
・温補・補血作用があり、冷え性、月経不順、貧血を主訴とする婦人病などに用いられる。
・一般用漢方製剤294処方のうち、当帰芍薬散、紫雲膏、当帰建中湯,疎経活血湯、四物湯、十全大補湯、加味逍遥散、当帰芍薬散、防風通聖散、補中益気湯等など78処方に配合されている。
・他にも、家庭薬の婦人薬(実母散、命の母、中将湯など)の主薬として配合されたり、養命酒や、ユンケル、チョコラBBなどのドリンク剤にも使われている。
※当地の大深当帰は非常に高品質なため、よく見る漢方メーカーのエキスを抽出して作った顆粒状態での使用ではなく、根をスライスしたものを一枚ずつを煎じて使用されています。
※紫雲膏は、紀州和歌山が生んだ江戸時代の医聖「華岡青洲」が中国の潤肌膏を改良して創製した軟膏剤といわれています。華岡青洲は江戸時代に世界で初めて全身麻酔を用いた乳癌手術を成功させた医師。
本文は上記の効能効果を保証するものではありません。
あくまで文献上に書かれている当帰の情報をまとめたものになります。
薬草や生薬は天然由来なので副作用が出ないと勘違いされている方もおられますが、そんなことはありません。
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引用文献、参考文献リスト
東京生薬協会HP
神戸薬科大学薬用植物園HP
熊本大学薬学部 薬草園 植物データベース
伊沢、馬場、松下;食べる漢方大百科、講談社、1984年
森田直賢;よく効く薬用植物がわかる本、健友館、1990年
東、大竹、村上;民間薬の実際知識、東洋経済新報社、昭和63年
富山医科薬科大学和漢薬研究所;和漢薬の事典、朝倉書店、2002年
水野、米田;明解家庭の民間薬・漢方薬、新日本法規、平成9年
伊沢凡人;原色版日本薬用植物事典、誠文堂新光社、2000年
難波恒雄;原色和漢薬図鑑、保育社、昭和59年