ミニを食うか? 新種SUV「フィアット500X」に乗る。
フィアット500(チンクチェント)といえば、今も昔もイタリアの国民車。小さいボディですばしっこく走り回れる格好のシティコミューターとして愛されている。もっともかつてのチンクチェントと今のチンクチェントでは、驚くほどボディサイズは異なる。比べると当然新型は大きい。それは日本のリッターカーが今や決して小さくないのと同様の話だ。
VWビートルの復活、ミニの復活、そうして全てボディサイズは昔とは異なる「現代の規格」となった。今やBMWミニは3ナンバーのクルマだ。そうした中で、やはり復活したチンクチェントも同じ流れにある。実際の寸法は全長3545×全幅1625×全高1515mmと、小型車とはいえ立派なサイズだ。
しかし、今回登場したチンクチェントのSUVである「500X」は、それよりもさらに大きい。3サイズは実に、全長4250×全幅1795×全高1610mm。これは日本のSUVで見ると、スバル・フォレスターより300mm短いものの全幅は同じで全高は100mm低い程度。日産ジュークよりも115m長く、30mm幅広く、45mm高い。と記せば大体のサイズが分かるだろうか? つまり言いたいのは、名前こそ「チンクチェント」というイタリアン・コンパクトのそれを用いるが、実際にはかなり「デカい」1台だ。
しかし、そのデカさが逆に魅力となっているのが実際のところ。実はこのくらいの大きさが今、日本では重宝されている、と言っても良いかもしれない。
かつてクルマのボディタイプが限られていた時代は、セダンやコンパクトカーしか選べなかった。だが、時代は変わって乗用車はもちろん軽自動車でもミニバンが流行り、選択肢が増えるとともに新たなボディタイプへと主流は移っていった。
なぜならセダンやコンパクトカーよりも、より自然座れて室内空間もゆとりのあるミニバンタイプの方が、道具としては明らかにラクだったからだ。そうした流れは既にひと段落しているものの、いまや自然に座れたり室内空間的なゆとりは、自動車に求められる要素としてデフォルトになった。
そんな時代を経て、最近台頭しているのがSUV。かつての4駆ブームの頃と異なるのは、4WDの走破性=アウトドアとの親和性云々よりも、そのスタイルがイマドキにフィットしているのが人気の理由だ。
いま、新たなクルマを買おうと考えた時、SUVは選びやすい。特にミニバン以外を考えた時は、オーソドックスで地味なセダンやコンパクトカーよりも、乗り降りが楽なちょっと高い車高を備え、室内的にもプラスαのゆとりを感じさせ(決して圧倒的に広いわけではない)、そしてスタイリッシュな感覚がある。そしてなんとなくイマドキっぽくて見栄えも良い。またその性格上、日々の足からアウトドアにまで使えそうな雰囲気を存分に醸し出している点も、“リアルを充実させてくれそうな要素”として強い武器だといえるだろう。
話が長くなったが、そうした理由でSUVは売れていて、特に通常モデルとSUVモデルの両方を持っている車種ではSUVの方が強い傾向がある。その典型がBMWミニ。こちらも復活を果たしたレトロモダンの代表格だが、そこから派生したミニ・クロスオーバーは販売も好調だという。
そして今回のフィアット500Xは、まさにこのミニ・クロスオーバーとガチンコ勝負が宿命づけられたプロダクトだ。
ミニ・クロスオーバーは、ミニの世界観を持ちつつも、広い室内、ちょい高い車高、5ドアのボディで使い勝手は抜群。そうしたバランスの良さとイマドキっぽさで人気モデルとなった。
対する500Xもまさに同じ要素でブツかる。フィアット500のもともと持っているポップな世界観、広い室内、ちょい高い車高、5ドアボディの使い勝手の良さ…と言った具合だ。
さらに価格もがっぷり四つ。FCAジャパン株式会社は今回、もっともベーシックなポップスター(FF)を286万2000円と300万円以下で提供した。もっとも売れ筋だろう装備充実のポップスタープラス(FF)をが307万8000円、そして高出力エンジンと4WD機構、9速ATを組み合わせた上級モデルのクロスプラスが334万8000円という設定だ。
ちなみにミニ・クロスオーバーは、288万円からという設定。まさにライバルと呼ぶに相応しい価格となっている。
フィアット500というと、それほど装備が充実しているイメージはないが、この500Xでは、いわゆる自動ブレーキを始め、レーンデパーチャーウォーニング(車線逸脱警報)やブラインドスポットモニター等も装備しているのも特徴。まさに売れる要素は揃った、という感じの1台でもある。
世の中はどのクラスでもSUVが注目されている。そうした中では、この500Xも意外やチンクチェントのメインモデルになる可能性を大いに秘めている。