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タジキスタン政府「ロシア軍のイラン軍事ドローンがタジキスタンで製造されていることはない」報道を否定

佐藤仁学術研究員・著述家
イラン政府の軍事ドローン提供に反対するキーウの人たち(写真:ロイター/アフロ)

「タジキスタンとシリアで製造されている」報道を否定

2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。また民生用ドローンも監視・偵察のために両軍によって多く使用されている。そして両軍によって上空のドローンは迎撃されて破壊されたり機能停止されたりしている。

2022年10月に入ってからロシア軍はミサイルとイラン政府が提供した標的に向かって突っ込んで行き爆発する、いわゆる神風ドローンの「シャハド136(Shahed136)」、「シャハド131(Shahed131)」で首都キーウを攻撃している。

イラン政府がロシア軍に提供している軍事ドローンがタジキスタンとシリアで製造されており、タジキスタンで製造された軍事ドローンをロシア軍が使用している可能性があると報じられていた。ウクライナの著名なジャーナリストのドミトリー・ゴードン氏もイラン政府が提供している軍事ドローンはタジキスタンで製造されている可能性があると伝えていた。報道によると2022年5月にイラン政府がタジキスタンの首都ドゥシャンベで軍事ドローンの製造を開始した。

たしかにイラン政府はイランの軍事ドローン「Ababil-2」をタジキスタンで製造、販売すると地元メディア、イスラーム共和国通信(IRNA)が報じていた。イランの軍事ドローンをイラン国外で製造するのは初めて。

タジキスタン政府はイラン政府がロシア軍に提供している軍事ドローンをタジキスタンでは製造していない、またドローンの訓練や輸送などにも一切関わっていないとの声明を発表していた。タジキスタン政府はウクライナのジャーナリストのゴードン氏も名指しで批判していた。

▼イラン製軍事ドローンでのキーウ攻撃を伝えるメディア

2022年7月からイラン政府がロシア軍に軍事ドローンの提供で協力している。米国の国家安全保障担当大統領補佐官のジェイク・サリバン氏は2022年7月11日にホワイトハウスの記者会見で、イラン政府がロシア軍に対してウクライナ紛争で使用するためのドローン数百台を提供する可能性があると語っていた。イランは7月からロシア軍に攻撃ドローンの訓練も行っていた。米国のシンクタンクの戦争研究所は、イラン政府がロシア軍に対してイラン製の攻撃ドローン「シャハド129(Shahed129)」を46機提供しているとの調査結果を発表していた。米国CNNの報道によると、ロシア軍はイランでウクライナでの戦闘のために、イラン政府が提供した攻撃ドローンの操縦訓練を行っている。CNNによるとイラン製の攻撃ドローン「シャハド129(Shahed129)」のほかにイラン製の監視・偵察ドローン「サーエゲ(Shahed Saegheh・Shahed191)」もロシア軍に提供されるということだった。

ロシアのプーチン大統領は2022年7月19日にイランを訪問し、最高指導者ハメネイ師、ライシ大統領と会談していた。ハメネイ師はイランとロシアの中長期的な協力関係をプーチン大統領に呼び掛けていた。2022年8月には米国国防総省のパット・ライダー報道官は「イランの飛行場からロシアに向けて軍事ドローンが輸送された。ロシア軍はイラン政府からイラン製の軍事ドローン数百機をこれから調達する予定。入手した情報によると、今回輸送されたイランの軍事ドローンはすでに多くの不具合(numerous failures)が生じている」と語っていた。

2022年9月からイラン製のドローン「シャハド136(Shahed136)」と「マハジェル6(Mohajer6)」がウクライナでの攻撃に使用されるようになった。ロシア軍が以前に使っていたロシア製の軍事ドローンに代わって多くのイラン製ドローンで攻撃を行っており、ウクライナ軍によっても迎撃された写真や動画も公開されている。また2022年9月にウズベキスタンで開催されていた第22回上海協力機構首脳会談で、イランのライシ大統領とロシアのプーチン大統領は会談し、NATOの脅威は欧州だけでなく世界共通の脅威であると語っていた。

2022年10月には首都キーウへの攻撃ではミサイルだけでなくイラン製の軍事ドローンが使用されて、国際人道法(武力紛争法)の軍事目標主義を無視して軍事施設だけでなく民用物や、文民たる住民までが標的になっていると報じられている。ウクライナ軍によって多くのイラン製ドローンが迎撃されて破壊された残骸をSNSなどで公開して世界にもアピールしている。また米国国務省の報道官のネッド・プライス氏がイラン軍の兵士がウクライナのクリミアに入ってロシア軍に軍事ドローンのトレーニングをしていると記者会見で述べていた。またロシア軍はウクライナ攻撃と欧州からの軍事支援阻止のためにキーウに近いベラルーシにもイラン製軍事ドローンを配置すると報じられている。そしてイラン政府はロシア軍への軍事ドローンの提供を否定しているとも報じられていた。

イランの兵器のほとんどは1979年まで続いた王政時代にアメリカから購入したもので、現在はアメリカとの関係悪化による制裁のためアメリカから購入できないので、特にドローン開発に注力している。イランの攻撃ドローンの開発力は優れており、敵国であるイスラエルへも飛行可能な長距離攻撃ドローンも開発しており、イスラエルにとっても脅威である。イスラエルのガザ地区の攻撃の際にはパレスチナにドローンを提供してイスラエルを攻撃していたと報じられていた。またイランでは開発したドローンを披露するための大規模なデモンストレーションも行ってアピールもしていた。

イラン製の軍事ドローンはロシア軍のウクライナ侵攻のために開発されたものではなく、イランにとっては敵国であるイスラエルを標的にして使用することを念頭に開発されたものだ。そのためロシア軍がウクライナで使用しているイラン製の軍事ドローンの攻撃力、破壊力についてはイスラエルの多くユダヤ人も強い関心を示している。

▼イランの軍事ドローンがタジキスタンの工場で製造されていることを伝えるニュース

▼イランの軍事ドローン「シャハド136」

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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