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2024年12月、ジューダス・プリーストが日本来襲。ヘヴィ・メタル“神=ゴッズ”の真の意味とは

山崎智之音楽ライター
Rob Halford of Judas Priest(写真:REX/アフロ)

2024年12月、ジューダス・プリーストが最新アルバム『インヴィンシブル・シールド』を引っ提げて日本公演を行う。

デビュー50年を経てさらに鋭く斬り込むサウンドとベテランならではの盤石の構え。新旧のプリースト・クラシックスで攻めるライヴは、2024年を締め括るに相応しいヘヴィ・メタルの祭祀だ。

来日までのカウントダウンが始まる。「“シールド=盾”は防御だけではない。敵陣に向かって押し込んでいく攻撃の手段でもあるんだ」と語るヴォーカリスト、ロブ・ハルフォードに日本来襲に向けての抱負、そして名曲にまつわる秘話について訊いてみた。

Judas Priest Japan Tour 2024ツアー・ポスター / courtesy Creativeman Prductions
Judas Priest Japan Tour 2024ツアー・ポスター / courtesy Creativeman Prductions


<日本にはたくさんの鋼鉄のメモリーがある>

●ジューダス・プリーストは日本と常に素晴らしい関係を築いてきました。1979年の2度目の来日公演を収録した『イン・ジ・イースト』を初のライヴ・アルバムとして発表したこともそうですが、2019年の“DOWNLOAD JAPAN”フェスでは出演キャンセルとなったオジー・オズボーンの代わりに急遽ヘッドライナーとして日本に来てくれたことに感謝しています。

日本でプレイするのはいつだって最高のスリルだよ。それは1970年代に初めて来たときからそうだった(1978年)。宿泊しているホテルに大勢の女性ファンが集まって絶叫するんで、別のホテルに移動しなければならなかったんだ。クレイジーだった。ザ・ビートルズになった気分だったよ(笑)。それからもう50年近くが経つけど、プリーストと日本の絆は変わることなく強いものだ。私たちが日本を必要とするのと同じぐらい、日本のファンは私たちを必要としてくれるんだ。日本にはたくさんの鋼鉄のメモリーがある。日本の人々や文化、食べ物もそうだし、どう変化したかを見るのも楽しみだよ。初めて行ったとき西洋のロック、特にヘヴィ・メタルはまだ比較的新しいものだった。でも今ではたくさんの日本のヘヴィ・メタル・バンドがアメリカやヨーロッパのフェスティバルに出演している。とてもビューティフルな経験だね。

●『ロブ・ハルフォード回想録 メタル・ゴッドの告白 ~Confess~』だと日本のホテルで消火器をぶちまけて移動させられたとありましたが、それと同じときですか?

それはまた別のときだ。半世紀前のことだよ。当時は私たちも若くて愚かだった。知らない日本のビジネスマンに消火器の中身をぶちまけてしまったんだ。今では本当に申し訳なく思っているし、二度とそういうことはしないよ。数年前テレビで日本のゲーム・ショーを見て、消火器事件の思い出が蘇ったんだ。相手を池の中に突き落としたり、小麦粉まみれにしたり...『Yoshi’s Castle』だっけ?タイトルを思い出せないんだ。今でも日本でやっているのかな?

●『Takeshi’s Castle(風雲!たけし城)』だと思います。オリジナル・シリーズは1980年代に放映されて最近、新シリーズが放映されました。

日本に行ったときに新シリーズをやっていたらぜひ見たいね。

●ジューダス・プリーストが現在のツアー・ラインアップになってから6年が経ちますが、リッチー・フォークナーとアンディ・スニープの2人のギタリストはバンドでどんな役割を果たしていますか?グレン・ティプトンとK.K.ダウニングがいた頃とはどのように変化したでしょうか?

プリーストの音楽にはひとつの様式がある。メンバーが替わることでテキスチャーが異なったりもするけど、みんなが愛するプリースト・ミュージックは変わることがない。このバンドの音楽は個々のメンバーよりも大きなものなんだ。『ロッカ・ローラ』から『インヴィンシブル・シールド』まで、切れることのない鎖のような一貫性がある。「生け贄 Victim Of Changes」は1970年代半ばも2024年も、同じパワー、エネルギー、アグレッション、パッション、ファンとの一体感に満ちているよ。それはライヴ・パフォーマンスについても言えることだ。もしベストを尽くすことが出来ないと感じたら、自分の意思でステージを下りる。グレンがそうだったんだ。「自分にはもう出来ない。ファンが求めるパフォーマンスを聴かせられないんだ」と言ってきたのは、彼自身だった。その自己犠牲の精神は気高いもので、彼が本当にこのバンドを愛し、誇りにしていることが伝わってきた。彼はアンディに助言を惜しまなかったし、私たちも彼のことを本当に誇りに思ったよ。

●グレンの体調はいかがでしょうか?日本のファンは彼の健康を祈っています。

うん、グレンは精神的にも身体的にも健康で、ハッピーに暮らしているよ。パーキンソン病のせいで思うように指が動かなくても、彼がギターを弾くのを止めることは出来ない。グレンは変わることなくプリーストの一員だし、『インヴィンシブル・シールド』でも一部ギター・リフを弾いている。日本のファンが彼を愛してくれることに我々全員が感謝しているし、彼のスピリットは12月、日本にステージ上にあるだろう。

●グレンは『インヴィンシブル・シールド』でもギターを弾いているのですか?

具体的に“この曲のこの部分”と言うのは難しいけど、グレンはレコーディング・セッションでずっとスタジオにいたし、アルバムのあちこちでリフを弾いているよ。ギター・ソロはリッチーがすべて弾いたけどね。彼は元々グレンの大ファンだったから「彼だったらこう弾くだろう」と考えて弾いたパートもあった。グレン自身も驚いていたよ。「いつの間に俺は弾いたんだ?」ってね(笑)。もちろんリッチーには独自のスタイルがある。だからまるで2人が弾いているように聞こえるところもあって、それがまたプリーストらしさの要因となっているんだ。

●現在のツアーでは新旧のクラシックスが披露されますが、あなた達の名曲には(1)「リヴィング・アフター・ミッドナイト」「ユナイテッド」のようにヘヴィ・メタル・ファンが連帯する曲と、(2)「エキサイター」「ペインキラー」のようにメタル・モンスターが地上を焦土と化し人々を殺戮するという相反する2タイプの曲があります。そんな両極のスタイルがバンドのトレードマークとなったのは、どれだけ意図的なものだったのでしょうか?

ヘヴィ・メタルは排他的な音楽ではない。その逆で、あらゆるテキスチャーを取り込むことが出来るんだ。「ペインキラー」はゴジラのように人類を蹂躙する。「エンジェル」はその対極にある曲だ。ヘヴィ・メタルにはそれだけの大きな器がある。「これはやって良い」「やっちゃいけない」など誰にも指図されない。かつて私とグレン、ケン(K.K.)が生み出した方程式が今日も世界中で受け継がれていることは誇りにしている。『インヴィンシブル・シールド』も私、グレン、リッチーで同じ方程式に基づいて作った作品だ。だからタイプは異なっていても、新旧の曲すべてに一貫性がある。プリーストがプレイする音楽はすべてがヘヴィ・メタルなんだ。

●あなた達が“メタル・ゴッズ”として世界中のファンから崇拝されているせいもあり、「メタル・ゴッズ」はメタル・コミュニティの連帯の歌だと誤解されがちですが、実際には“鋼鉄の神”が世界を壊滅させるという内容ですね。

「メタル・ゴッズ」は大型のバイクをイメージして書いたんだ。日本のロボット・アニメみたいにビルの街を破壊していく。とてもヘヴィ・メタルな題材だし、私がステージ上でロボットのようなムーヴをすると、みんなすごく盛り上がるんだ。歌って楽しい曲だよ。確かに当初意図したのとは異なった捉えられ方をしているかも知れない。でもファンのみんなが自分のイマジネーションを巡らせて、“メタル・ゴッズ”というフレーズがヘヴィ・メタル・カルチャーにおける重要なステートメントとなったことは素晴らしいね。1980年、『ブリティッシュ・スティール』を作っているときに40年後、自分が“メタル・ゴッド”と呼ばれるなんて言われたら、絶対に信じなかったよ。「何を言ってるんだ、頭がおかしいんじゃないか」と答えただろう。今だって“神”と呼ばれるなんて戸惑いを感じるし、「あなたは神様ですか?」と問われたら「いや、私は神ではない」と答えるよ。でも私のヴォイスやステージ・パフォーマンスを支持してくれるのは光栄だし、その域に少しでも近づけるよう努力を続けたい。

●「メタル・ゴッズ」はAI(人工知能)の脅威を40年以上前に予見していたとも言えますが、当時から人類が機械に支配される危険性に気付いていたのですか?

この話題についてだったら何時間でも話すことが出来るよ。最近、科学雑誌を読んでいたんだ。これから100年以内にAIは“神”の域に達すると書いてあって、恐ろしくなった。それが具体的にどんな状態を指すのか判らないけど、未知の恐怖を感じたんだ。しかもそれは既に始まっている。何十年か前、工場でロボットが使われるようになったことで、効率アップが図られた。ロボットは休憩なしで24時間働き続けるし、給料を払う必要もない。でも当初から私は不安に思ってきた。人間はどうなるんだ?ってね。我々は仕事をして報酬を得る。それで家賃や食事代を支払うんだ。すべての欲を捨て去った僧侶だって、食べなければ生きていけない。AIがすべての仕事をやるようになったら、オフィスや工場で働く人たちはどうなってしまうのか?...ってね。人類の未来に不安を感じるよ。

●インターネットの登場は我々の生活を一変させてしまいましたね。

うん、その通りだ。インターネットは人類にとって素晴らしい前進の一歩となる筈だったし、現代の我々は少なからず恩恵を被っていることは確かだろう。でも同時に、音楽業界に与えたダメージは甚大なものだった。「パニック・アタック」ではインターネットの影響力でフェイク・ニュースや陰謀論が炎のように広まってしまう危険を歌っているんだ。AIも音楽の敵になり得る危険を孕んでいる。こないだ友人から「曲を送るから感想を教えて下さい」と言われたんだ。良いメタル・ソングだけど何か不思議な感覚があって、誰の曲だか訊いてみた。そうしたら、すべてAIだと言われたんだ!ヴォーカルもドラムスもギターもベースも、コンピュータが作ったものだと言われて、衝撃を受けたよ。それと同時に、悲しくもあった。音楽に備わっているべき人間のハートはどこにあるんだろう?ってね。その瞬間、確信したんだ。ジューダス・プリーストの音楽は決してAIには作り得ないってね。

Judas Priest / photo by Andy 'Elvis' McGovern
Judas Priest / photo by Andy 'Elvis' McGovern

<史上最高のヘヴィ・メタル・ショーをお見せする>

●「切り裂きジャック The Ripper」は2019年の“DOWNLOAD JAPAN”フェスでも演奏されましたが、その歌詞の原点である1888年ロンドンの“切り裂きジャック”事件にはどの程度関心がありますか?

犯罪そのものよりも19世紀、ヴィクトリア女王のガス灯時代に霧のロンドンで起こった未解決事件からヒントを得て歌詞を書いたんだ。私は常にインスピレーションを探し求めているけど、ある日パッと下りてきたんだよ。読んでいた本だったか、テレビを見ていたか...曲と歌詞のどちらが先に出来たのかも覚えていない。もう半世紀ぐらい前のことだからね。とても恐ろしい事件であるがゆえに、多くの人の心を揺さぶってきたんだ。

●『インヴィンシブル・シールド』のデラックス・エディションにはボブ・ハリガンJr作の「ザ・ロジャー」が収録されています。1980年代に『運命の鎖 (Take These) Chains』『叛旗の下に Some Heads Are Gonna Roll』を書いた彼によるこの曲は、マリー・ベロック=ローンズが“切り裂きジャック”をモチーフにした小説『下宿人』(1911)と同作をイギリス時代のアルフレッド・ヒッチコックによる映画版(1927)から着想を得た、いわば「切り裂きジャック」の続編だといえるでしょうか?

いや、実はレコーディングするまでそのことを知らなかったんだ!5年ぐらい前、ボブがライヴを見に来て、バックステージで「君たちに合いそうな曲がある」と言ってきた。「ザ・ロジャー」のダークで苦悩に満ちた歌詞に惹きつけられたけど、ちょうど前作『ファイアパワー』(2018)を作ったところで、すぐには使えなかった。そうしたらボブが「他のバンドが使いたいと言ってきた」と言うんで「ちょっと待ってくれ!次のアルバムでレコーディングするから!」と説得したんだ。アルバムが出た後、知人からメールで「ヒッチコックの映画が元ネタだよね?」と訊かれた。ボブに確認したら「うん、そうだよ」とのことだった。何だ、もっと早く教えてくれればいいのにね(苦笑)!「ザ・ロジャー」は歌詞も曲も、全体のムードも気に入っているし、アルバムのデラックス・ヴァージョンのみボーナス収録なのがもったいないぐらいだ。すごく良い曲だけど、アルバムの起承転結にフィットしなかったんだ。とは言ってもストリーミングではむしろデラックス・エディションの方が標準仕様だし、容易に聴くことが出来るよ。

●「切り裂きジャック」を収録したアルバム『運命の翼 Sad Wings Of Destiny』(1976)が発表された後にイギリスで“ヨークシャー・リッパー”事件が起こり、そんなせいもあって1980年にはシン・リジィの「キラー・オン・ザ・ルース」や映画『殺しのドレス』のラジオ放送/上映反対運動がありました。「切り裂きジャック」もそんな誤解を受けたことがありますか?

私たちの曲が発表されたのは事件がメディアで騒がれる前だったし、シングル・カットやラジオでのオンエアもされなかったから、特に問題は起こらなかった。それに私たちはあらゆる暴力を否定する。ステージ上でバイクをムチで叩くことはあるけど、それは愛の行為だ。シン・リジィとは1970年代、何回か一緒にショーをやったことがあるよ。「脱獄 Jailbreak」「ロザリー」はライヴ前に楽屋で聞いて、気分を盛り上げたものだ。フィル・ライノットは最高の存在感を持つパフォーマーだったし、話してとても楽しかった。どんな会話をしたっけな...記憶がボンヤリしているんだ。たぶんイアン・ヒル(ベース)だったら覚えていると思う。プリーストの百科事典は彼なんだ。すごい記憶力で、「あのとき、どうしたっけ?」と訊くと即答してくれるよ。

●ライヴでプレイする曲はアルバムからのシングル・ナンバーが中心となりますか?

私たちは曲を書いてアルバムにする。シングルを選ぶのはレコード会社に任せているんだ。「ユーヴ・ゴット・アナザー・シング・カミング」はアメリカ市場での成功のきっかけになったし、「ブレイキング・ザ・ロー」「リヴィング・アフター・ミッドナイト」もそうだった。他人に任せた方が良いこともあるんだよ。私たちにとってはどの曲も可愛い赤ちゃんだし、プライオリティを付けることは出来ないからね。そんな気持ちはライヴでも同じだ。オープニングからアンコールまで、どの曲も全身全霊を込めてプレイする。史上最高のヘヴィ・メタル・ショーをお見せするから、楽しみにしてほしい。




【来日公演】

JUDAS PRIEST

INVINCIBLE SHIELD TOUR

JAPAN 2024

【追加公演】神奈川12月10日(火)KT Zepp Yokohama

OPEN 18:30 / START 19:30 TICKETS GOLDスタンディング¥20,000・一般スタンディング¥16,000・

2F指定席¥20,000(各税込/1ドリンク別途必要)

<問>クリエイティブマン:03-3499-6669

愛知12月5日(木)愛知県芸術劇場 大ホール

OPEN 18:00 / START 19:00 TICKETS GOLD指定席¥35,000・一般指定席¥16,000(各税込/全席指定)

<問>キョードー東海:052-972-7466

【SOLD OUT! 】兵庫12月6日(金)あましんアルカイックホール

OPEN 18:00 / START 19:00 TICKETS GOLD指定席¥35,000・一般指定席¥16,000(各税込/全席指定)

<問>キョードーインフォメーション:0570-200-888

岡山12月9日(月)岡山芸術創造劇場 ハレノワ大劇場

OPEN 18:00 / START 19:00 TICKETS GOLD指定席¥35,000・一般指定席¥16,000・着席指定席¥16,000(各税込/全席指定)

※着席指定席は会場の構造上、常時着席でのご観覧となります。

<問>YUMEBANCHI(岡山):086-231-3531

神奈川12月12日(木)ぴあアリーナMM

OPEN 18:30 / START 19:30 TICKETS GOLD指定席¥35,000・一般指定席¥16,000(各税込/全席指定)

<問>クリエイティブマン:03-3499-6669

企画・制作:クリエイティブマンプロダクション 

協力:ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル

https://www.creativeman.co.jp/artist/2024/12judaspriest/

Judas Priest『Invinsible Shield』ジャケット(ソニーミュージック・ジャパン/現在発売中)
Judas Priest『Invinsible Shield』ジャケット(ソニーミュージック・ジャパン/現在発売中)

【最新アルバム】

ジューダス・プリースト『インヴィンシブル・シールド』

JUDAS PRIEST “INVINCIBLE SHIELD”

●デラックス・エディション SICP 31698 ¥3,000(税込)[完全生産限定盤]

高品質Blu-spec CD2仕様/全14曲収録/ハードカヴァー・ブック仕様(全28p)

●スタンダード・エディション SICP 6557 ¥2,640(税込)  

通常ディスク/全11曲収録/ジュエル・ケース仕様/ブックレット(全12p)

https://www.sonymusic.co.jp/artist/JudasPriest/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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