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ブルーシートをかけただけで10万円!?被災者狙いの便乗商法で初の逮捕者 防御策は #専門家のまとめ

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

能登半島地震の被災者を狙い、被災した住宅に雨漏りなどを防ぐブルーシートをかけただけで10万円といった高額な請求をする便乗商法が問題となる中、ようやく初の逮捕者が出ました。神戸の業者であり、70代の女性らと契約を締結する際、クーリングオフなどの書面を交付しなかった特定商取引法違反の容疑です。本来は1枚3万円程度で済む工事だという報道もあり、法令に基づく書面をきちんと交付しないようなこうした業者にだまされないためには、消費者の防御策も重要となります。参考となる記事をまとめました。

【前提となる問題】

そもそも被災地で問題となっているのは、作業員が突然やってきて、困っている高齢者を言葉巧みに勧誘し、足場も組まずにハシゴを使って直ちに作業を始め、屋根にブルーシートをかけてひもで取り付けるのみで、防水テープで止めたり重しの土のう袋を置いたりせず、20~30分程度で作業を終え、その段階で一転して高額な請求をし、同様のやり方で次々と被災住宅を巡る業者の存在です。作業員が1人だけのケースや数日すると風でシートが浮いたり外れたりするケースもあります。そうした工事で10万円とか12万円といった金額が妥当なのかという問題が前提となっているわけです。

【記事のポイント】警察は「屋根にひもでブルーシートを取り付けただけで、法外な請求をされた」という相談を受けて捜査を進めていた

【記事のポイント】県警には地震に伴う訪問販売などに関し、2月6日時点で162件もの相談が寄せられている

【記事のポイント】県警によれば、違法な訪問販売だと疑われる相談の中でも目立っているのがブルーシートをかけるとうたうもので、相場は3万円ほどだが12万円を請求されたケースも報告されている。高齢者を狙って「品薄ですが、優先的にやります」と焦らせたり、勝手にブルーシートを置いていき、後で料金を請求したりする手口まである

【記事のポイント】「神戸から来た」という若い男が家を訪ねてきて、「他に予約もありますけど、いまなら最初にやりますよ」と勧誘し、20~30分ほどで作業を終え、「12万円です」と告げて支払わせ、警察や消費者センターに相談されると初めて返金に応じる業者も

【記事のポイント】業者を名乗る若い男がいきなりやってきて「予約はいっぱいあるけど、お宅を一番先につけます」と勧誘し、車からハシゴをおろして20分ほどで作業を終えたが、設置料金の相場は高くても5~6万円なのに12万円も請求されたばかりか、支払ったあとわずか2日後にはそのブルーシートが屋根から外れたという

【記事のポイント】「近所で工事をしていたらお宅の屋根が目についた。応急処置をしておきます」と半ば強引に敷地に入り、作業を始める業者もいる

【記事のポイント】業者の親切な言葉には裏がある!向こうから近づいてくる親切な業者こそ要注意!訪問営業が来たらまずは疑うこと!

【記事のポイント】(1)契約を迫られてもその場では契約せずに複数業者で比較検討する、(2)不安をあおる勧誘を受けた場合は業者の話だけを信じない、(3)契約の際は工期や費用を十分確認する、(4)「保険を使って自己負担なく修理できる」「申請サポートをする」と勧誘されたら要注意、(5)請求期限が迫っているといった勧誘をうのみにせず安易に契約しない。訪問販売や電話勧誘販売で契約した場合にはクーリング・オフが可能であり、「おかしい!困った!」と思ったら消費者ホットライン(電話番号188)に早めに相談を

【解説】

今回の事件のポイントは、警察が詐欺罪ではなく、特定商取引法違反で業者を立件していることです。前者だと、その家屋の被害状況が具体的にどの程度で、業者が実際にどれくらいの人数や時間をかけてどのような工事を行い、原材料費や人件費などを含めて工事に要する本来の金額はいくらが妥当だったのかを確定した上で、これを工事の前に家主らにきちんと告知しなかったといった事実まで捜査で詰める必要があります。

この点につき、先ほど挙げた「FRIDAY DIGITAL」の記事ではブルーシート設置の相場は3万円ほどだと報じられており、「ABEMA TIMES」の記事でも高くても5~6万円だと報じられています。「ブルーシート 設置 相場」でネット検索をかけると、3~5万円といった金額が上がってきます。

また、2019年の房総半島台風などの際は、千葉県が主導して県内外から被災地にブルーシートを設置する業者を募集し、被災者とマッチングする官民連携の事業を行いましたが、業者の受注窓口となったクラフトバンク株式会社のレポートによると、平均は7万8039円だったものの、全体の6割が5万円以下だったとのことです。今回の震災でも、石川県では緊急を要する被災住宅のブルーシート設置工事について、その費用を自治体が負担し、業者に直接支払うという制度を始めていますが、これも金額の上限は5万円にとどまります。

ただ、「ウチではそうした金額だと受注できない」という業者もいるでしょうし、現場の状況などによってはこれよりも高くなる場合もあるでしょう。そうであれば、工事にとりかかる前にこれをきちんと家主に伝え、法令に基づくクーリングオフなどの書面を交付し、その納得や了承を得るようにすれば済む話です。家主もほかの業者から相見積もりをとって比較検討したり、行政の窓口に相談したりできます。

これに対し、特定商取引法違反は形式犯なので、工事の内容や工事代金の妥当性などを検討する必要はなく、単に訪問契約に際して法令に基づく書面を交付しなかったという事実さえ立証すれば足ります。警察は余罪の捜査も進めているところであり、これ以上被害が拡大する前に、より立件しやすい罪名を使って業者を逮捕したというわけです。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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