震災が「商機」?能登半島地震発生から1ヵ月 大雪の被災地を食い物にして嗤う「最低の悪党たち」
「取材の方ですか?」 能登半島の中央に位置する石川県穴水町の住宅街を歩いていると、背後から二人組の若い警察官が筆者に声をかけてきた。身分証や名刺を見せ、取材で来たと告げると、警察官がこう打ち明けた。 【画像】ひっくり返った家屋に為す術なく…大地震の猛威を物語る「戦慄の現場写真」 「最近、メディア関係者を装った人間が、たくさん来ていましてね。中にはカメラを持って勝手に他人の家の敷地に入っちゃう人もいるんですよ」 東京から応援で来たという警視庁の警察官が去ると、今度は秋田県警のパトカーが通り過ぎるのが見えた。現地では今、多くの警察官が街中を巡回している。空き巣や不審者の相談が相次いでいるからだ。 マグニチュード7.6を記録した、1月1日の能登半島地震。とくに被害が大きかった輪島市、珠洲(すず)市、七尾市を始め、能登半島一帯は今も震災の爪痕が残ったままだ。そうした中、被災地では混乱に乗じた悪徳業者や詐欺師まがいの輩(やから)が急増しているという。未曾有の災害から約1ヵ月、大雪に見舞われた能登半島で、今、何が起きているのか――。 輪島市では、愛知県から来たという自称大学生の男が民家から高級ミカンを盗み、珠洲市では30代の男が被災した家から摸造刀を持ち出し逮捕されている。避難所周辺や倒壊した民家の付近には、今も怪しい人物が紛れ込み、住民を不安に陥れているという。七尾市の避難所で出会った男性が憤る。 「地震の直後から、変な男が近所をうろついているとか、自宅に変な電話がかかってきたという話でもちきりですよ」 七尾市内の和倉温泉周辺では、二人組の白人男性が警官に職務質問をされていた。一眼レフカメラを片手にオレンジとグリーンの蛍光色のジャンパーを着た二人は、ニヤニヤしたまま職質を受けている。冷やかしの野次馬か、それともSNSへ投稿して注目を浴びたい観光客かは不明だが、レンタカーで乗りつけて”被災地観光”を楽しむ不届きな輩が後を絶たない。 地震発生から約2週間後、七尾市の高齢の自営業男性のもとには、知らない番号から、女性の声で「水道管を交換します」という怪しい電話がかかってきた。 「七尾が断水しているのは、水源である手取川と市内を繋ぐ送水管が漏水していたため。家の水道管を交換したところで水が出るわけじゃない。地元の事情を何も知らない怪しい業者だったので、すぐに電話を切りました」 七尾市の断水は3月までに概ね解消されると発表されているが(1月30日現在)、当初は夏頃まで続くと言われていた。電話の主は、住民の不安に付け込んだ悪徳業者だった可能性が高い。 不審な電話がかかってきた例は他にもある。七尾市に帰省していた会社員の男性がこう話す。 「実家の固定電話は外出中に電話がかかってきたら携帯電話に転送されるよう設定しているのですが、ある日、知らない人から『被害状況の確認をしている』と電話がきて、『今、どちらですか?』と聞かれました」 自宅にいますと答えると一方的に電話は切れたというが、「不在だとわかったら盗みに入るつもりだったのかもしれない」と男性は警戒を強めた。 ◆「県外の業者」も狙っている 電話だけでなく、実際に民家を訪問する業者も出没している。 石川県警によれば、元日から1月23日までの間に、違法な訪問販売だと疑われる相談が131件あったという。 中でも目立っているのが、倒壊した家屋の屋根にブルーシートを掛けると謳(うた)う悪質商法。相場は3万円ほどだが、「業者に12万円という高額を請求された」というケースも報告されている。 「うちの近所にも業者が来ていました。確かに地震直後からブルーシートが不足していると言われてはいましたが……、ヤツらは決まって『品薄ですが、優先的にやります』と声をかけてくる」(穴水町の農家の男性) ブルーシートのほか、怪しい屋根のリフォーム業者も被災地を跋扈(ばっこ)していた。 「お宅の屋根瓦、ずれていますよ」 そう言って若くてガラの悪い男が突然、白山(はくさん)市の高齢女性の家を訪ねてきたのは1月4日のこと。この家に住む高齢の女性が、ちょうど帰省していた娘を呼んでくると告げた途端、男はその場を立ち去ったという。 「その男は『向かいの電柱に登って作業をしていたら、偶然うちの屋根が壊れているのを見つけた』と言っていたというのですが、脚立も持っておらず、手にスマホを握っているだけ。自宅前に停めていた母の車に、高齢運転者を示す『もみじマーク』がついていた。それを目印に高齢者宅ばかりを狙っていたのだと思います」(高齢女性の娘) 石川県警生活安全企画課によると、被災地では現在、正体不明の会社から地震保険のセールス電話がかかってきた、点検と称して不審人物が家に上がり込もうとした、という相談が複数件寄せられているという。 〈「今なら安くなる!!」「今日だけ特別!!」慌てさせて契約させる手口です〉 金沢市と隣接する内灘町の役場には、悪徳商法に警戒するよう呼びかける張り紙があり、「その場で契約せず周りの人に相談するように」と注意喚起していた。 だが、そんなアドバイスを嘲笑うように詐欺師たちは、こんな手口を考え出していた。 「損壊した家の前に、誰かが勝手にモノを置いていく手口が多発しています。たとえば綺麗なブルーシートが家の前に置かれている。住人が行政から配布されたものだと勘違いして使うと、後から料金を請求されるというわけです」(輪島市の農家の男性) 石川県警によると、注文していないのにペットボトルのミネラルウォーターが詰められた段ボール箱が玄関前に置いてある、との通報も数件確認されている。 震災を「商機」と捉える業者は多い。ある中古自動車販売業者は、被災者の自動車買い替えを狙って、今、中古車をかき集めている。震災で壊れた車は保険が下りる時期に新しく買い替える場合が多いといい、そのタイミングで集めた車を一気に売り捌くそうだ。 県外から金儲けの機会をうかがっている業者もいる。被災地から大量に出る木材や鉄くず、骨董品などを、タダで拾って転売を狙う愛知県のリサイクル業者はこう明かす。 「時機を見て被災地に入って、動かない自動車やバイク、倒壊した家に『高価買取』と書いたチラシを貼り付ける予定です。実際に高価で買うことはありませんが……」 不安と混乱の中にいる被災者を食い物にした最低の悪党たちは、今後さらに増えていくのかもしれない。 『FRIDAY』2024年2月16日号より 取材:文:甚野博則(ノンフィクションライター)
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