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1年で200万部減「新聞離れ」は止まらず 「一般紙」は15年後に消える勢い

亀松太郎記者/編集者
一般紙の発行部数は15年後にゼロになるペースで減少を続けている(画像:筆者作成)

日本新聞協会がこのほど公表した最新データで、一般紙の総発行部数が3000万部を大きく割り込み、2800万部台まで落ち込んだことが明らかになった。この5年間で失われた部数は1000万部。平均すると、毎年200万部ずつ減っている計算だ。もし今後もこのペースが続けば、15年後に紙の新聞は日本から消えてしまう勢いだ。

日本新聞協会は2022年12月後半、同年10月時点の新聞の発行部数を公表した。それによると、スポーツ紙を除く一般紙の総発行部数は、前年に比べて約196万部(6.4%)減少の2869万4915部だった。10年前の2012年は約4372万部だったが、年々減少が続き、当時の3分の2以下の規模まで落ち込んだ。

急速な新聞離れについて、全国紙のビジネス部門で働く新聞社員は「想像通りの結果で、数年前から分かっていたことだ」と認める。また、新聞記者出身のネットメディア編集者は「紙の新聞を読んでいるのは主に高齢者。新聞の衰退は止まらないだろう」と指摘する。

紙の新聞は15年後、消滅しているのだろうか? ネットメディア編集者にたずねると「新聞を読むことが習慣化している人が一定数いるので、ゼロにはならないだろうが、一般紙全体で100〜500万部ぐらいまで減っているのではないか」という予測を示した。

紙の新聞を購読する人は減り続けている
紙の新聞を購読する人は減り続けている写真:イメージマート

「新聞が廃れるのは避けられない」

一般紙の減少ペースをもう少し細かく見てみよう。直近の5年間の部数減少は次の通りだ。

  • 2017年→18年 194万部減
  • 2018年→19年 195万部減
  • 2019年→20年 242万部減
  • 2020年→21年 180万部減
  • 2021年→22年 196万部減

新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年は特に減少が大きく、約240万部が失われた。翌21年は減少ペースが鈍化したが、22年になると再びペースアップしている。この5年の平均減少部数は201万部。冒頭で述べた通り、おおよそ毎年200万部ずつ減っている。

減少ペースは今後ゆるやかになる可能性もあるが、新聞離れ自体は止まらないとみられる。インターネットとデジタルデバイスの普及によって、ニュースを知る手段としての新聞の必要性が大きく減っているからだ。

前出のネットメディア編集者は、元新聞記者としての経験を踏まえながら、次のように語る。

「新聞はデジタルと違い、検索ができない。気になるニュースをたどれない。大判で読みやすい側面もあるが、持ち運びづらい。情報の整理(切り抜き保管など)も一手間かかる。制作コストが高く、配達コストも高い。というわけで、新聞が廃れるのは避けられない」

ニューヨーク・タイムズCEO「2040年までに新聞の印刷をやめているだろう」

特に若い世代は「ニュースを知るのはネットで十分。わざわざ新聞を買う必要はない」と考えている人が非常に多い。

筆者が担当している関西大学総合情報学部の講座で2022年9月、学生146人に「ニュースを知るとき、どのメディアを最も利用しているか」とアンケートしたところ、「インターネット」が112人(77%)で、「テレビ」が32人(22%)。「新聞」と答えた学生はたった1人だった。

また、同じ講座の別のアンケートで学生128人に「週3回以上、紙の新聞を読んでいるか」とたずねたら、「読んでいる」と答えた学生は4人(3%)しかいなかった。

紙の新聞を日常的に読んでいる学生はほとんどいない(画像:筆者作成)
紙の新聞を日常的に読んでいる学生はほとんどいない(画像:筆者作成)

一方、「週3回以上、インターネットのニュースサイトを見ているか?」という質問に対しては、8割にあたる98人が「見ている」と答えている。最近は「YouTubeやTikTokなどの動画サイトでニュースを見る」という学生も増えている。

若い世代の多くが「紙の新聞」を読んでいない中で、新聞を支えているのは高齢世代だ。

公益財団法人新聞通信調査会が2022年11月に公表した「第15回メディアに関する世論調査」によると、「自宅で月ぎめ新聞を購読している人」の割合は、30代が30.3%、40代が42.5%と半数以下なのに対して、60代は73.3%、70代以上が81.3%と高い数値になっている。

しかし年を追うにつれ、この高齢世代が衰え、新聞を購読できない状況になっていくと考えられる。その分だけ新聞の部数も減少していくはずだ。15年後には、人口が多い団塊世代が90歳前後となる。そのころ、新聞の発行部数が限りなくゼロに近づいているというのは、ありえない未来ではないだろう。

海外では「紙の新聞はいずれなくなる」とみて、そのための布石を着々と打っている新聞社もある。

米国のニューヨーク・タイムズのマーク・トンプソンCEO(当時)は2020年8月、米CNBCテレビのインタビューに対して「もし20年後にニューヨーク・タイムズが印刷されているとしたら、大変な驚きだ」と延べ、2040年までに紙の新聞の発行をやめているだろうという見通しを示している。

日本の新聞社は「DXが大きく遅れている」

このような厳しい未来の中で新聞社が生き残っていくためには、デジタルシフトを本気で進めるか、大胆にリストラするしかないと考えられるが、新聞社は状況をどう受け止めているのだろうか。

前出の全国紙社員によると「危機感がまだ感じられない」という。「残念ながら横並び意識が強いので、どこかの新聞社がつぶれない限り、強い危機感が生まれないのかもしれない」と嘆く。

「海外の事例を見ればわかるように、新聞社の命運は、真のデジタルシフトができるかどうかにかかっている。特に経営基盤を作れるサブスクモデルをデジタルでも完成させることが不可欠だ。それなのに、組織改革やデジタル人材の採用・育成が全く追いついていない」

もしこのまま新聞の部数が減り続けたとしたら、「大規模なリストラを行うか倒産するか、どちらかを選ばないといけない新聞社が出てくるだろう」という。

「DX(デジタル・トランスフォーメーション)は新聞業界に限らず、国内企業ほとんどの課題だが、新聞業界は特に経営方針や現場のスキル、社員の意識において、DXが大きく遅れていると言わざるをえない。残された時間は少ないが、経営や現場がどれだけ必死にDXと向き合えるかが、生き残りの分かれ道だと思う」

一方、前出のネットメディア編集者は「今後の新聞社は、デジタルに対応したニュース屋としてなんとか生き延びるか、いろいろな事業を多角的に展開する企業に生まれ変わるか、あるいは、倒産するか、どこかに買収されるか。この4つに分かれるのではないか」と推測する。

DXに正面から取り組めるかどうかが問われている
DXに正面から取り組めるかどうかが問われている提供:アフロ

「ポスト新聞」の世界で生き抜くために必要なこと

いずれにしても新聞業界が激動に晒されるのは間違いない。そんな中で働く新聞社の社員はどうすればいいのか。なかには、転職の道を探る人もいるだろう。新聞記者から転身したネットメディア編集者は次のように指摘する。

「記者経験者は情報を取り扱うプロフェッショナルとして、他の業界でも活躍できる可能性がある。培ったスキルの多くは、デジタルメディアはもちろん、一般企業のコミュニケーションやPR、オウンドメディア運営などでも活かせるだろう」

だが、新聞記者として合格点なら他でも十分やっていけるかといえば、「単純にそう考えるのは甘い」という。

「ポスト新聞の世界で生き抜くためには、今のうちから社外の人たちと積極的に情報交換して、どんなスキルを身につけるか、伸ばしていくかを考えるのがいいのではないか」

記者/編集者

大卒後、朝日新聞記者になるが、3年で退社。法律事務所リサーチャーやJ-CASTニュース記者を経て、ニコニコ動画のドワンゴへ。ニコニコニュース編集長として報道・言論コンテンツを制作した。その後、弁護士ドットコムニュースの編集長として、時事的な話題を法律的な切り口で紹介するニュースを配信。さらに、朝日新聞運営「DANRO」の創刊編集長を務めた後、同社からメディアを買い取って再び編集長となる。2019年4月〜23年3月、関西大学の特任教授(ネットジャーナリズム論)を担当。現在はフリーランスの記者/編集者として活動しつつ、「あしたメディア研究会」を運営。在住する東京都杉並区のニュースを取材している。

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