保育園通いが発達を促進?研究結果を現役保育士目線で解説「保育園児は慣れているからできる側面も」
共働きの現役保育士です。
東北大学が「早期保育施設通いが発達に悪影響を及ぼすことはない。むしろ発達に好影響」とするプレスリリースを発表しました。
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調査ではじき出された数値自体は非常に参考になるものですが、現役保育士の立場としては研究結果を鵜呑みにすることは危険であると考えています。
今回は前回記事に引き続き、東北大学のプレスリリースの内容を保育現場目線で検証したいと思います。
早期の保育園通いが発達を促進する?
東北大学のプレスリリースによると、1歳未満から保育施設を利用していた子どもは、3歳まで保育施設を利用しなかった子どもに比べて、コミュニケーション・粗大運動・微細運動・問題解決能力・個人社会スキルの5つの領域で3歳時点での発達が良いことが分かったとしています。
出展:共同通信
東北大学の研究では、この5領域について保護者等に質問票への回答を依頼し、数値化しています。
保育園児は練習を積んでいる
この研究で発達の尺度を判断するために使用しているのが、生後1か月から5歳半までの小児の発達の遅れを見つけるために作られたスコアツール「Ages and Stages Questionnaires (ASQ)-3 」です。
ただ、保育の現場にいる者としては、子どもの発達を見るために尺度を用いることは重要ですが、何を尺度としたのか自身の目で見ていくことも大切だと感じています。
ASQ-3(3歳児用)の質問票から抜粋して中身を見てみましょう。
※すべて引用元は「ASQ-3/Michigan Medicine」
コミュニケーション
ジャケットを着るときなどにチャックの上げ下げをしますが、家庭保育の場合は3歳児であっても保護者が手伝うことが多いのではないでしょうか。
集団行動である保育園では、保育士が全員分のチャックを上げ下げするわけにもいかないため、1歳児クラスの時から自分でチャックを上げてジャケットが着られるように練習していきます。
保育園児は、チャックを上げて下げてという声掛けで動くという練習をすでに積んでいるので、本調査でも良い成績が出るのは当然と思ってしまいます。
粗大運動発達能力
家庭保育の場合は、子どもを抱っこできる状況にあるので歩ける子も抱っこしている時間が長いことでしょう。
保育園では職員が全員を抱っこするわけにはいかないため、抱っこして欲しいと訴える子がいたとしても「頑張って歩こう」という声掛けにならざるを得ない場面も多いです。
確かに、足腰は鍛えられ、階段がある保育園ならなおさら、階段昇降する力も鍛えられることでしょう。
一方、保育士としては抱っこして欲しい気持ちにも寄り添いたいと思いつつ、「頑張って歩こう」と声をかけるしかないことにジレンマを感じることも多いです。
手先の運動機能/微細運動機能
家庭では紐を通すという動作を頻繁には行う機会がなく、調査ではじめて行った子もいるのかもしれません。
走り回りたいさかりの年齢の子どもたちが同じ居室内で過ごすのが保育園。
室内遊びで一番苦慮していることは、いかに落ち着いて座って遊んでもらうかだったりします。
そんなときに、座って集中しないとできない紐通し遊びなどを提供することが良くあります。保育園児の場合は、調査に参加する時点で紐通しが初めてということはほぼないのではないでしょうか。
問題解決
保育園では「外に出るから帽子を被ってください」という指示を全員に一斉にして、子どもたちが一斉に帽子を被るといったことが常です。
ここで、話を聞いておらず帽子を被っていない場合、「先生のお話を聞いてくださーい」と言われてしまうことになります。
保育園の子どもたちは、これからの予定についての話を聞く、行動の予測を立てて動くということを毎日やっているので、先の見通しを立てて動く力に長けており感心します。
ただ、訓練により先を見通し動く力が付いたとしても、他のお友達もいるのに「先生のお話を聞いてね」と言われてしまうのは悲しい経験でもあるでしょう。
社交性
集団生活の場である保育園では、「先生あのね」と話しかけるのすら順番待ちにならざるを得ません。
保育士も普通の人間なので、残念ながら1人ずつしかお話が聞き取れませんし。
滑り台を滑るのも、手を洗うのも全部順番待ち。
保育園児は日々の習慣により1歳児ですら順番が待てるようになっていきます。
ただ、待つ時間で失っているものもあるはずで、待つ能力が高いからと手放しで良しとするのは違う気もします。
まとめ
「早期保育施設通いは発達に好影響」とする東北大学のプレスリリースについて、育現場目線で検証してきました。
このようにプレスリリースの後半でも補足されているとおり、本研究では、3歳までの発達について述べられていますが、心理的安定などについては論じられていません。
保育現場にいる者としては、数字だけを鵜呑みにして「保育園が良い」などと判断するのは非常に危険であると考えています。
保育園だろうが家庭だろうが、地域だろうが、子どもたちが育つ環境によらず本人のペースで健やかに育っていくことを願っています。
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