Yahoo!ニュース

大手コンビニ社員の内部告発 高島屋クリスマスケーキの陰で廃棄4億円超 4割高いイチゴはケーキに必要か

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
クリスマスケーキ(写真:アフロ)

大手コンビニエンスストアの社員から、今年のクリスマスケーキの廃棄データが送られてきた。いわば内部告発だ。

この会社の代表取締役社長は、昨今、報道されている高島屋の崩れたクリスマスケーキについて、2023年12月26日、会議の席で次のように述べたという。

「世間では高島屋さんの”崩れたクリスマスケーキ”に関するニュースがかなり流れています。業態は違いますが、もし当社のケーキで同様なことが起きたとしたら、もっと大きく報道され非難が集中したと思われます」

データを送ってきた大手コンビニ社員によれば、2023年12月25日のクリスマスケーキの廃棄率は全国平均で6.6%だったとのこと。前年2022年の同日は7.4%だったので少しは改善したものの、今年も「(ケーキを)廃棄にしないため自爆買いした」との社員の声も聞いたそうだ。

「廃棄率6.6%」と言われても、一般人にはどの程度のことなのか、よくわからない。いったいこれはいくら捨てたことになるのか。再度、社員に伺ったところ、一店舗平均で6.2個のクリスマスケーキを捨てており、これは一店舗平均で22,400円分のクリスマスケーキを廃棄した計算になるということだ。

この企業の店舗数は全国で21,471店舗(1)なので、単純計算で店舗数に平均廃棄金額を掛け算すると、全国で4億8,095万400円分のクリスマスケーキが捨てられた計算になる。

この企業の店舗オーナーにもクリスマスケーキの廃棄がどの程度だったか伺った。ケーキだけの詳しい金額はわからないものの、食品全体でどのくらい捨てているかはわかるという。直近では、一店舗あたり平均で月50万円以上に相当する食品を捨てているとのデータをいただいた。年間では一店舗あたり600万円捨てていることになる。国税庁の民間給与実態統計調査によれば、民間組織に勤める一人あたりの平均年収は458万円(2)なので、一人が一年間働いて得られる給与を上回る金額分を、たった一店舗で捨てている計算になる。

ケーキが崩れたのも問題かもしれないが、食べられる食品をこれだけ大量に捨てていることこそ問題ではないだろうか。マスメディアも関係者も、知っていながら誰も問題視しようとしないということも。

日本の常識は海外の非常識

高島屋の崩れたクリスマスケーキに関しては、英国のBBCも次のように報じていた(3)。

「日本の人口の約1%しかクリスチャンはいないが、国民の多くはクリスマスを祝う。ケーキの他、日本ではクリスマス・イブにKFCのフライドチキンが振る舞われる」

キリスト教徒でもないのにイエス・キリストの誕生を祝い、ターキー(七面鳥)ではなくファストフードを食べることに対し、嘲笑するような皮肉めいたメッセージが感じられるのは気のせいだろうか。

ケーキが崩れたぐらいで企業の経営陣が出てきて記者会見してお詫びする。お詫びした割には「原因不明」。じゃあ何のために記者会見したの?消費者は「被害者の会」と称してSNSに投稿する。マスメディアは何日間も報じているが、もっと重要なことがあるんじゃないの。

米国在住の日本人は、「そもそも崩れやすいものを通販で買うというのがありえない」とSNSに投稿していた。崩れやすいものだったら、必ず店まで取りに行く、それが普通だ、と。

確かに、ただでさえ物流が逼迫していて2024年問題(4)を議論し、物流の負荷を減らそうとしているこの時期に、さらに負荷をかけるのはどうなのか。

日本の消費者は、お金さえ払えばなんでも手に入ると思っているふしがあるが、欧州を取材してみると、環境や社会のことを考えて消費行動をとっている消費者が多いと感じる。企業も、消費者におもねる風ではなく、自分たち企業が消費者を啓発する役割をになっているという姿勢が見られる。

クリスマスケーキはイチゴじゃないとダメなのか

今回のケーキは前年の2022年にも売っていたそうだ。が、前年にはこのような事態が起きていなかった。昨年と今年と何が違うのかというと、冷凍時間が異なるとのこと。前年の2022年は冷凍に2週間を費やしたそうだが、今年2023年は20〜25時間だった。そして、冷凍時間が大幅に短縮された要因はイチゴの入荷が遅れたためだったという(5)。

2023年は、イチゴが品薄で、平年に比べて4割高かった(6)。

京都で野菜を販売する西喜商店の四代目、近藤貴馬さんは、「今年はイチゴが無い」「クリスマスケーキはイチゴじゃないとダメなのか、消費者が自身に問いかけるフェーズに来ている」と投稿した。

近藤さんは、小さいケーキ屋さんとの取引で、クリスマスケーキ用のイチゴを1パック1,000円以上で売るのが忍びないと語る。むしろ、旬のレモンやみかんなどを使ってクリスマスを祝えるようになったらサステイナブルだと、近藤さんは感じている。

クリスマスケーキで一般的なのは、生クリームの白と、イチゴの赤のコントラストが象徴的な、イチゴのショートケーキ。これは株式会社不二家の創業者、藤井林右衛門が米国で知ったケーキをアレンジしたのが始まりのようだ(7)。

ショートケーキ
ショートケーキ写真:アフロ

本来、イチゴの旬は春だ。ハウス栽培や大型の暖房器具を使うことによって、冬もイチゴが栽培できるようにしている。

なぜ品薄で平年比4割高のイチゴを使ってクリスマスケーキを作らなければならないのだろう。この時期にあるものを使うのではだめなのか。

筆者の知人でクリスマスケーキを販売している店主は「飾るためのきれいなイチゴ」が手に入らず、毎年奔走しており「大変だ」と嘆いている。切ってケーキの中にはさみ込むイチゴはどんな形でもいいのだが、上に飾るものは「綺麗」でないと許されず、イチゴ自体も手に入りづらいのでいつも困っていると話している。

別のケーキ店で2023年のクリスマスケーキ予約注文のチラシを見たが、どれもイチゴを使わないタイプのケーキだった。店主が海外で修業したバックグラウンドもあるだろうが、食材の入手しやすさやコストなど、いろいろ考慮したのではないだろうか。

優れた料理人は、今ある食材で料理をつくる。食品ロス削減に取り組み「親善大使」となった世界的に著名なシェフ、マッシモ・ボットゥーラ(Massimo Bottura)さんは、厨房に来ると冷蔵庫をのぞきこんで「今日は何をつくろう」と言うそうだ。

マッシモ・ボットゥーラさん、第80回ヴェネチア国際映画祭(2023)
マッシモ・ボットゥーラさん、第80回ヴェネチア国際映画祭(2023)写真:REX/アフロ

ボットゥーラさんは、北イタリア・モデナにある三つ星レストラン「オステリア・フランチェスカーナ(Osteria Francescana)」のオーナーシェフだ。このレストランは、2016年に「世界ベストレストラン50」の一位に輝いた。2015年に開催された食のミラノ博や、2016年のリオ・オリンピックでは、余った食材を使って、食事に困る人のためのレストラン「レフェットリオ」を運営した。この取り組みは今も続いている。

ないものを、わざわざ手に入れようとするから、手間と労力がかかり、コストが高くつくのだ。そもそも、日本は、1億2,000万人以上の国民をまかなうだけの十分な食材を自国でつくり出すことができていない。60%以上を海外から輸入している。その上、今年は日本のGDPも労働生産性もG7で最下位となった(9)(10)。

「みんなと同じは高くつく」

ということを、いま一度認識する必要があるのではないか。みんなと同じ時期に同じものを買おうとするから高くつくのだ。年末年始の帰省ラッシュしかり、みんなと同じ時期に同じことをしようとすると、金がかかるし、快適ではなくなることが多い。

食べ物を捨てるコストは企業だけが払っているのではない。われわれ消費者が食品価格で払わされていることに気づかなければならない。そして食べ物を捨てて燃やすためのコストも。金を捨てているようなものだ。

公正取引委員会の調査によれば、大手コンビニ一店舗あたり468万円(中央値)の食品を捨てている(11)。コンビニは確かに便利だが、「便利」の裏側にどのような代償があるのかを認識した上で、便利を享受する必要があるだろう。

クリスマスケーキはイチゴがなければ許されないのか。クリスマスケーキを買うのは義務ではない。もっと空いている時期に買えばいいのでは?

近藤さんの言うように、クリスマスケーキにイチゴがなければダメなのか、消費者も考えてみてはどうか。イチゴはクリスマス当日以外にも消費できる。

企業の社員も、SDGsバッジを胸につけ、食品を捨てることで営業利益を得るのではなく、旬の食材を使って捨てないことこそSDGsなのではないか。SDGsを謳いながら食べ物を捨てるのはグリーンウォッシングだ。

この時期、食べ物を求めて人が殺到しているガザのことも忘れてはならない。

参考情報

1)国内店舗数 

2)令和4年度 民間給与実態統計調査(国税庁)

3)Japan: Takashimaya apologises for 807 collapsed Christmas cakes(BBC, 2023/12/28)

4)知っていますか?物流の2024年問題(全日本トラック協会)

5)高島屋、ケーキ崩れ807件 原因は「特定不可能」(日本経済新聞社、2023/12/27)

6)イチゴ4割高推移 Xマスまで不足見通し(日本農業新聞、2023/11/29)

7)ショートケーキ 12の物語(株式会社不二家)

8)世界の食品ロス削減をリードする親善大使として選ばれたのはあのシェフだった SDGs世界レポ(41)

9)22年の1人あたりGDP、G7で最下位 円安で順位下げる(日本経済新聞、2023/12/25)

10)日本の労働生産性低く G7で最下位、OECDで23位(日本経済新聞、2023/12/17)

11)コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書(概要)(公正取引委員会、2020/9/2)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

井出留美の最近の記事