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今オフMLB移籍ならFA市場トップ3の評価を受ける山本由伸に期待したい田中将大超え

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
シーズン終盤を迎えさらに米メディアから注目を集めている山本由伸投手(写真:CTK Photo/アフロ)

【PS争いの時期ながら米メディアを賑わせた日本人投手たち】

 2023年シーズンも残すところ3週間足らずとなり、ポストシーズン争いが最終局面を迎える時期になっているにもかかわらず、先週末は日本人2投手が米メディアを賑わせている。

 1人はDeNAの今永昇太投手だ。MLBネットワークのジョン・モロシ記者が関係者筋の話として、チームが今永投手に対し今オフにポスティングシステムによるMLB移籍を容認したと報じ、SNS等を通じ米国中に拡散された(その後DeNAと今永投手は報道内容を否定)。

 続いて米メディアに大きく取り上げられたのが、オリックスの山本由伸投手だ。

 9月9日のロッテ戦で2年連続となるノーヒットノーランを達成したことも注目を集めたが、それと同時に同試合を数多くのMLB関係者が現地観戦していたことが話題になっている。

 日本でも同試合をヤンキースのブライアン・キャッシュマンGMが観戦していたことが報じられていたが、米メディアによると、ヤンキースを含め15チームが現地にスタッフを派遣していたとしている。

 その中にはドジャース、フィリーズ、ダイヤモンドバックス、パドレス、ジャイアンツ、ブルージェイズも含まれているようだ。

【WBC優勝で日本が投手王国であることを周知】

 ポストシーズン争い真っ盛りのこの時期に、なぜ米メディアが日本人投手にこれだけ注目しているかといえば、昨今のMLBで再び日本人投手が脚光を浴びるようになっているからだ。

 特にシーズン開幕前に開催された第5回WBCでは、侍ジャパン投手陣は防御率(2.29)、被打率(.194)、WHIP(0.87)、奪三振数(80)で参加20チーム中1位にランク。圧倒的な存在感を見せつけたことで、日本が投手王国であることが周知されることになった。

 中でもWBC開催前から山本投手と佐々木朗希投手は米メディアでも別格の存在であり、さらに山本投手に関しては、今オフにポスティングシステムによるMLB移籍の可能性が指摘されており、より一層の注目を集め続けていた。

 それに加え、メッツと5年総額7500万ドルの大型契約を結んだ千賀滉大投手が、先発投手としてMLBトップクラスの活躍(現時点で防御率MLB6位、奪三振数同14位、被打率同5位、WHIP同27位)を続けていることで、NPB投手が即戦力になり得ることを証明したのも、各チームがさらに期待を膨らませる要因になっているだろう。

【MLB公式サイトが今オフFA市場でトップ3入りと予想】

 先月29日にMLB公式サイトで掲載された今オフの「フリーエージェント・ランキング」でも、1位にランクされた大谷翔平選手を含めたトップ10選手を紹介するだけでなく、ボーナス選手として山本投手を追記している。

 そして仮に山本投手がポスティングシステムによるMLB移籍が容認された場合は、今オフのFA市場でトップ5もしくはトップ3に入ると予想しているのだ。

 ちなみに同ランキングで二刀流の大谷選手を省くと、最もランキングが高い先発投手は4位のブレイク・スネル投手なので、山本投手は同程度もしくはそれ以上の存在だと考えられているわけだ。

 それでは山本投手が今オフのFA市場に参戦することになった場合、どの程度のオファーが届くことになるのだろうか。

【25歳のFA選手はMLBでもかなり希有な存在】

 まず理解しておいてほしいのが、NPB選手がMLB移籍を目指す際、ポスティングシステムを利用したとしてもMLBでは海外FA権取得選手と同じ扱いとなり、全30チームと契約交渉が可能だ。

 ただ海外FA権取得選手と少しだけ違うのは、契約交渉期間が30日間に限定されていることと、前所属NPBチーム対にして合意した契約総額に合わせた移籍料が発生することだ。

 ちなみにMLBの世界でも、25歳で6年間のMLBサービスタイム(在籍期間)をクリアしFAになれる選手は滅多に現れない。それだけ長期にわたって高いレベルのパフォーマンスが期待できることになるので、長期間の契約オファーを提示しやすい状況にある。

 参考までに紹介しておくと、同じく25歳でポスティングシステムによるMLB移籍が容認されたダルビッシュ有投手は6年、田中将大投手は7年の長期契約に合意している。

 それらを踏まえると、山本投手も最低でも6年以上の長期契約が期待されるところだ。ただ田中投手の時のように、契約期間途中でオプトアウト(契約解除)できる権利が加えられる可能性もありそうだ。

【エリートクラス評価なら平均年俸額は2000万ドル以上】

 契約期間以上に気になるのが、平均年俸額(AAV…Average Annual Value)ではないだろうか。

 各プロスポーツの年俸関連のデータを扱う「spotrac」によれば、先発投手で今シーズンの年俸が3000万ドル以上の選手は、大谷選手を含め6人存在している。これらの選手たちは、MLBの超エリートクラスということになる。

 続いて2000万ドル以上3000万ドル未満の選手は11人おり、これらが先発投手のエリートクラスを形成している。前述したような山本投手の評価を考えれば、このエリートクラスに入れるかどうかになってきそうだ。

 仮に平均年俸額が2000万ドルを上回ることになれば、2014年に田中投手がヤンキースと合意したポスティングシステム史上最高額の年俸総額(7年1億5500万ドル)を超える可能性も出てくる。

【田中投手並みの契約訴額なら移籍料は2000万ドル超え】

 ただ山本投手の契約内容に大きく影響を及ぼしそうなファクターが存在している。それは移籍料だ。

 2014年当時は旧ポスティングシステム下にあり、移籍料(当時は入札額)の上限が2000万ドルに定められていた。それが現行のポスティングシステムは前述したように、契約総額に応じて移籍料は際限なく増えていってしまう。

 もしMLBチームが田中投手と同額の1億5500万ドルを山本投手に提示したとすると、その時点で自動的に2512万5000ドルの移籍料を覚悟しなければならなくなる。

 つまり山本投手を獲得するには、莫大な予算を用意しなければならないということだ。必然的に獲得に動けるチームは限れてきそうだ。

 今はシーズン終了後のオリックスと山本投手の判断を待つしかないが、いずれにせよ興味深いオフシーズンになりそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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